617 ハンコ
やってまいりました、『オッグ工房』!
さっそくお店に入り、親方を呼んでもらう。
「おうっ!リクじゃねーか!」
「こんにちはー、親方」
「何だ?また部屋の改造か?」
「違いますよ、ちょっと作って欲しい物があるんです。だから手先の器用な人を紹介してください」
「またいきなりだな。手先が器用な奴なんていくらでもいるが・・何作るんだ?」
「細かい作業が得意な人が良いんです。ハンコを作りたいので」
「ハンコ?って何だ?」
「小さい木の板に彫りものをして欲しいんですよ」
「・・それって彫刻って意味か?」
「そうです!子供のおもちゃにしようと思って、木の板に動物の顔を彫って欲しいんですよ」
「彫刻が何でハンコなんだ?」
「それはですねー、出来てからのお楽しみです!試し彫りしてもらって、それを使ってみれば意味が分かりますから」
「ふ~ん?今いる奴だと・・おいっ、ゲラ呼んでくれ!」
「はーい」
数分後、お店の奥からひょろっとした男性が出て来た。この人も大工の職人さんなのか?木材とか運べるんだろうか?細マッチョとか?
「お呼びですか、親方?」
「おう!お前手先器用だったよな、ちょっと頼まれてくれ」
「はい、何でしょう?」
「リク、頼む」
「はい、リクですよろしくお願いします。実はですね、小さい木の板に動物の顔を彫り出して欲しいんですよ」
「動物の顔ですか?板に?」
「子供のおもちゃにするんです。だから可愛らしい顔にして欲しいんですよ」
「はぁ・・」
俺は手持ちの紙に兎の顔を簡単に書いて見せた。
板の大きさを2センチメートルの正方形にしてもらって、手で持てるようにつまみも一緒に彫り出してもらう事にした。
大きな木材から小さい正方形の板を、つまみ付きで彫り出してもらう事自体が凄い贅沢な事のような?でも端材だって言ってたし、本来なら燃やしてしまうものだって言ってたからな?
先ず板を適当な大きさまで切ってもらい、正方形の板をつまみ付きで彫り出してもらった。
そこに簡単に兎の顔を書いてもらい、その線に沿って兎の顔が浮き彫りになるように周りを彫ってもらう。ここで大事なのは耳の中や目をくり抜いてもらい立体感を出す事だ。
じっと手元を覗き込まれているのも気になるだろうし、説明をしたら少し離れた所で親方とお茶をしながら待っていた。手土産にパウンドケーキを買ってきたからね、一緒に食べながら待つ事にする。
こう見えて親方は甘いもの好きなんだ、お酒も大好きだけどね。
「リクさん、こんな感じですか?」
「おおっ!そうですそうです!これをもっと可愛い感じにして欲しいんですけど、取りあえずこれで実験してみましょう」
「いよいよか。ハンコってやつだな?」
「ですです!」
俺はさっき兎の顔を書いた紙と、さっき市場で買ってきた布と綿、赤いインクを手元に用意した。
綿を布に包んで小皿の上に置く、そこに赤インクを垂らして湿らせる。布に赤インクが行き渡ってちょっと小皿に滲みでてくればいいだろう。
作ってもらったハンコを布に押し付けて、兎の顔にインクが行き渡ったらそのまま紙に押し付けた。ギュっッとね。
ハンコを紙から離したら・・・なんて事でしょう!紙に兎の顔がバッチリ写っていたよ!
これにはハンコを彫ってくれたゲラさんも親方もビックリだ!俺が持っているハンコと紙を交互に見て感心していた。
お読みいただきありがとうございました。




