374 大歓喜
「・・・・」
俺は今必死にロイの視線から逃れている。
ラデス殿下と一緒に王都に行く事がロイにバレてしまったのだ!?バレたって言うか、メルがしゃべっちゃったんだけどね。
さっきからロイの視線が痛いのだ。ランみたいに半眼になっているんだよ、半眼!?ちょっとどころか怖いです!
「旦那様、ドス様がいらっしゃいました」
「ドスさんが?それは大変だ!すぐに行かなければね」
リビングに入って来たマイルズさんの言葉に即座に反応し、逃げるように応接室に向かう。ナイスタイミングですよ、ドスさん!!
応接室に入るとドスさんだけじゃなく、ゼムさんまで来ていた。
「いらっしゃい。ドスさんゼムさん」
「急にすまんな」
「兄ちゃん、この間は世話になったな!」
「いえいえ、その後体調に変わりはありませんか?」
「おう、元気元気!そんでよ、これ貰ってくれ!助けられたお礼じゃ」
そう言ってゼムさんが袋から小ぶりな樽を3つテーブルの上に置いた。樽って事はお酒かな?うちはリズさん位しか飲まないんだけど、今妊婦さんだからなー。
「これはよ、リーザスでしか作られてねー酒なんだ。度数はそれほどでもねーがよ、スッキリした飲み口でうめーんだ!1つはあの長髪の兄ちゃんに渡してくれや」
「分かりました。有り難く頂きますね!それにしてもリーザス国でしか作られていないお酒ですか?」
「おうよ!外に出すほど作られてねーんだ。香りもいいんだぞ」
「へー?」
ちょっとだけ気になった俺は樽の栓を開けて香りを嗅いでみる事にした。樽が小ぶりだから栓が上についていて零れる事も無いからね。
栓を開けて鼻を近づけると、ふんわりと穀物だろうか?何とも言えない、だがどこかで嗅いだ事があるような香りが漂ってきた。
俺は応接室に置いてある棚からグラスを出して来て注いでみる事にした。
色は透明に近いがちょっと濁りがあるかな?一口含んでみる。
これって・・日本酒じゃないの!?いや、まさか・・・でもこの香り、初詣に行った時に出されたお神酒に似てないか?
俺は逸る気持ちを抑え、慎重にゼムさんに聞いてみる。
「ゼムさん、このお酒は何からできているんです?」
「何って、コーメッコじゃ。リーザスでしか作られておらんから知らんじゃろうけどな」
「それって、白い穀物ですか?ちょっと細長かったりします?」
「おお!?知っとるんかっ」
キターーーー!?うおーーマジか!?米だよ米!!そっかーリーザス国でしか作られてないのか。そりゃ探しても見つからない訳だわ!!
「ゼムさん、そのコーメッコって手に入れる事できませんか?」
「コーメッコを?何すんじゃ?」
「食べるんですよ、美味しいでしょ!」
「・・・・兄ちゃん。コーメッコは食べんぞ?みんな酒にしちまうからな」
「はっ?嘘でしょ?」
「嘘なもんか。コーメッコはあんまり量も取れんしよ、酒にする分だけで食べたりせんのじゃ」
「そんな・・・じゃあもうコーメッコは無いんですか?」
「そうじゃな、去年の分は無いな。今年はまだじゃしな」
「じゃあ、今年分が取れたら何とか手に入りませんか?」
「う~ん?酒の需要も多いしのー。一応儂の知り合いに手紙書いてみるが期待はせん方がいいぞ?」
「お願いします!いい値で買います!いや、倍払いますから!!」
「そこまでして欲しいんか?そんなにコーメッコは美味いんか?」
「俺が思った通りの物であれば美味しいはずです!」
「そうか。まあ、期待せんで待っててくれ」
お読みいただきありがとうございました。




