301 恐怖
俺はただリズさんが光に呑み込まれて行くのを見ているしかなかった。
ドサッという音がし、茫然としていた俺の心臓が跳ね上がり慌ててリズさんの元に向かって走り出す!
「ハイヒール、ハイヒール、ハイヒール・・・・」
雪に足を取られて何度も転びそうになりながら、それでもリズさんに向かってハイヒールをかけ続ける。間に合ってくれ!!頼む!!
俺がリズさんの元に辿り着いた時には、リズさんの身体は再生をしていた。間に合った!!
俺が倒れたリズさんを見た時には片腕と両足が消し飛んでいたんだ!?俺のハイヒールは身体が半分残っていれば、完全に死んでさえいなければ助ける事が出来る。でも腕と足を失くして大量の血も失った状態で生きているかは分からなかった。良かった、本当に良かった!!
俺はリズさんを抱き起し、強く抱きしめた。だが名前をいくら呼んでもリズさんが目を覚ます事は無かった。
俺はリズさんを抱きかかえ、かまくらまで戻る事にした。このままここには居られない。
途中で後ろを振り返って見たら、リーリンの花の群生地が半分抉れて消し飛んでいる事に気付いた。さっきはリズさんの事で頭がいっぱいで気付かなかったな。
俺は念の為にかまくらを強化してからリズさんを寝かせる事にした。
リズさんはまだ目を覚まさない。もしかしてハイヒールが効いてなかったんじゃないかと思い、何度もリズさんの心臓が動いているかを確認した。そして心臓が動いている事にホッとして、また目を覚まさないリズさんが心配になり確認する。そんな事をずっと繰り返していた。あれからどれぐらい時間がたったのかも分からない。でもかまくらに開けた空気穴から光が差し込まなくなった事から夜になった事だけは分かった。
俺は膝を抱えて蹲る。あの時の事を思い出すだけで震えてくる。あれは何だったんだ?山の上に光が見えた事しか分からなかった。俺の感知範囲からは完全に外れていたため事前に気付く事が出来なかった。
リズさんにハルを付けていて本当に良かった!!あの瞬間、光がリズさんに到達する寸前にリズさんの上半身が黒く覆われるのが見えた。あれはハルだ!ハルが出来る限りでリズさんを守ってくれなければ、きっとリズさんは死んでいた。あと少しハルの身体が小さかったら、残った部分が足りなくて死んでいたかもしれないんだ。俺は怖くなった。あと少し何かが足りなければリズさんを喪っていた事に。
このまま眠ってしまったらリズさんが居なくなってしまうんじゃないかと不安になった。とても眠る事なんてできやしない。
ハルの名を呼んでみたが、ハルが出て来る事はなかった。リズさんを守る事が精いっぱいで、自身の存在を保つ事が出来なかったのかもしれない。
ハル、ありがとう。ごめんな。
お読みいただきありがとうございました。




