旅路
どうも、星野紗奈です。
今年も公募で落ちたものが手元に出始めたので(笑)、少しずつ投稿していきたいと思います。
こちらは短いエッセイになっていますので、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞ↓
その本を、偶然、学校の図書室で見つけた。それは、表紙の背中の部分に題名と著者だけが記された本だった。上紙のデザインは全くわからない。バーコードもついていなかった。ただ、くすんだ白の所々が、茶色のしみで染められていただけだった。
固い表紙の中を覗くと、見たことのない形式の貸し出しカードが貼り付けられていた。上から三つ目の欄まで記入されていて、そのうち二つは同じ名前だった。あとから貸し出しカウンターで司書の方に聞いたのだが、私の前に借りていたのは、私の母親くらいの世代の人だったらしい。
こんなに長い間借りられていなかった本があったのかと、正直驚いた。ぱらぱらと紙をめくると、表紙からは考えられないくらい綺麗な状態の紙が手からこぼれ落ちていった。きっとこれは、いつかの誰かが、この本を丁寧に扱ってくれた証だ。
最近は、電子書籍がますます普及している。その理由は、持ち歩くのにかさばらないとか、劣化が無いとか、様々だ。紙の本を読むという人でも、文庫本サイズのものを鞄に入れているのをよく見かける。自分の周りでハードカバーの本を読む人はどんどん減っているような気がして、なんだか少し寂しい。私が見つけたこの本の中身をずっと守ってくれたのは、この固い表紙だったに違いないのに。そう思ったら、なんとなくこの本をいたわってあげたい気分になって、「よしよし」と心で唱えながら何度かさすってみたり、誰にも見られないところでぎゅっと胸に抱きしめてみたりした。
この本は、きっと、長い旅をしてきたのだと思う。この本を書くきっかけになった人がいて、この本を書き上げた人がいて。内容を推敲したり、印刷用紙を選んだり、実際に印刷したり。この一冊の本を世に出す手伝いをした人は、数え切れないほど存在しているのだ。この本を学校に取り寄せた人がいる。借りて読んだ人がいる。そして、それを見つけた私が、今ここにいる。
「他人が触ったものに触れるのは嫌だから、図書室では絶対に本を借りない」なんて言う人もいるが、そこが印刷物の醍醐味なのではないかと、私は思っている。顔も名前も知らない沢山の人々が関わった一冊の本が、長い、長い旅路の末に、今自分の手の中に納まっているのだ。そう考えると、とてもこそばゆかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'ω'*)