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特級探索師への覚醒 ~蜥蜴の尻尾切りに遭った少年は、地獄の王と成り無双する~  作者: 笠鳴小雨
第2章 覚醒編(下)

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第52話



 彼らはサブダンジョンのエンドゲートへと行きついていた。

 ここまで残ったのは、水江勝成、立華加恋、天城典二、福山与人の四人だけだった。草津は第二ボスエリアの後に離脱し、一人欠いた状態のチームであった。


「へぇ~、思ったよりもエンドゲートって小さいですね」


 立華が間近でエンドゲートを眺めながら、ほわほわと呟いた。


「そうだね、大体一人ずつ通ることが多いかな。さぁ、さっさとこのルートも開門しちゃおうか。誰がやりたい?」


 福山は適当に答えつつ、誰が開門するか問いかけた。

 立華は水江の方を見つつ、自分が開けたいアピールを悶々と醸し出す。年上のはずなのに可愛らしい瞳に負け、水江は首を縦に振った。


「いいぞ、俺は何度もボスエリアの扉を開けたしな」


「やったぁ! じゃあ、開っけまーす」


 陽気な立華の声がこの洞窟に響き渡ると、勢いよくエンドゲートにあった手形のくぼみに自分の手を合わせる。

 そうするとエンドゲートがゴゴゴゴッと重厚な音を鳴らしながら押し開き始め、その様子を二人は面白そうに眺めていた。

 そうしてエンドゲートが完全に開ききると、福山がゴホンッと咳ばらいを一つして言った。


「俺は念のためここでモンスターが背後から襲ってこないか見ているから、先に帰還するように。またあの入り口のテントの中に戻ると思うから、そこで五道さんから指示を受けてね。いいかい?」


「「「はい!」」」


 元気のいい返事をした三人に、福山は爽やかな笑顔を向けた。


 主に戦闘を行っていた二人は攻略を噛みしめるように、エンドゲートの中へと入っていく。扉の間には黒い墨汁のような油膜が張られており、その中へと足を踏み入れていった。


 最後に、テンジがエンドゲートを潜っていく。


 立華加恋、水江勝成、天城典二。

 彼ら第26グループの三人は間を置くことなく、エンドゲートを潜ったのであった。



(――あれ?)



 エンドゲートを通った瞬間、テンジは心の中で驚きの声を上げた。

 いつもはゲートを通ると、視界が真っ暗の中、生暖かい液体が体中に纏わりつく状態が数歩分だけ続く。そこをさらに進むと光が差し込む地上のゲート前に帰ってくるのだ。


 しかし、今回は少し感覚が違った。

 もうテンジは十五歩以上歩いていたのだが、未だに視界に光は差し込んでこない。


(えっ? ちょっと待ってよ!? こ、これって……)


 テンジの体はぶるりと鳥肌を立たせていた。

 体中にはまだ生温かい液体が纏わりついているのだが、なぜか体が寒く感じた。


 歩けど歩けど、地上の光は見えてこない。


 これほど長くゲート間の黒い空間を歩いたことがなかったテンジは、心の底から焦りを覚える。


(おかしい! なんだ!?)


 変だと思いつつ、早くこの気味の悪い空間から出たかった。

 テンジは暗闇の中を早足で進んでいく。

 一応、床らしき固いものを踏みしめている感覚はあるのだが、一向に出口が見えてこないのだ。


 自然と、手に持っていたアイアンソードを強く握り締めていた。


(嘘っ!? これ……()()()()()()の兆候じゃないか!?)


 この現象には少し覚えがあった。

 ランダム転移に巻き込まれた人の中でも、生き残って帰ってきた人は一様にこんな言葉を残している。



 ――暗闇の空間をずっと彷徨っていた。



 テンジが感じている現象、それはその現象にひどく類似していたのだ。


 必然とテンジの歩く速さが徐々に速くなっていき、気が付くと走っていた。

 音も聞こえない、視界も真っ暗闇な世界をただ走り続けた。

 息はあがっているのだが、荒い息遣いの音すらテンジには聞こえていなかった。ただ肺が大きく運動しているくらいにしかわからず、感覚がひどく鈍っている。


 五分もの間、出口という名の光を求めて彷徨い走った。


 そして――テンジの瞳に光が差した。


「うわぁ!?」


 落とし穴にでも落ちたかのように、テンジはどてんと地面に尻もちを付いていた。

 気が付けばあの暗闇世界を抜け、テンジの目にはダンジョンの明かりが映っていた。


 見慣れた古びた神殿の柱に、がたがたな石畳の床。

 それを見て、テンジはホッと安堵の溜息を吐いた。


「はぁ、怖かった。一体何が起こ――」


「良かった、テンジも一緒だったのか」


 安心から独り言を呟いたその時、すぐ背後から聞き慣れた水江の太々しい声が聞こえてきた。

 テンジは驚きつつも、慌ててその方向へと振り返った。


「あ! 水江くん!」


「おう、水江だ。それにしても……一体何が起きたんだ? ここは外でもないようだし、明らかにまだダンジョンの中だよな」


 水江は驚くほどに冷静に周囲を分析していた。

 落ち着いた人を見ると、なぜかテンジの速くなっていた鼓動も収まっていき、ゆっくりと周囲を確認し始めた。


「そうだね、まだダンジョンだよ。ここは」


「やっぱりそうか。たぶん……ランダム転移だよな。俺は暗闇の世界をずっと走っていたんだが、テンジもか?」


「うん、僕も同じ。ずっと暗闇世界を走ってた。それで気が付いたらここで尻もち着いてたんだ」


「やはり同じ現象に巻き込まれたようだな。俺も気が付いた時には、ここで尻もちを着いていた」


 テンジは水江と情報を交換しながら、差し出された手を取り、ゆっくりと立ち上がる。

 お尻に着いた土埃をぱたぱたと叩き落としながら、もう一度周囲の状況を確認していた。


 しかし、何度見てもここはダンジョンの中で変わらないようだった。


 ただ今までのサブダンジョンとは、少しだけ違った光景が広がっていた。


「さっきのダンジョンは暖色の松明だったよね?」


「そうだったな。だが、ここは白い光球が点々と浮かんでいるようだ。先ほどとは違うダンジョンに転移させられたってわけか。やはり経験者は観察眼が鋭いな、言われるまで気が付かなかった」


 意外に落ち着いた二人が向かい合いながら話していた――その時だった。


「いやぁぁぁぁぁぁあ!?」


 天上から突如、女性の声が響き渡ったのだ。

 突然の叫び声に、二人は反射的に上を見上げていた。


 ダンジョンの天井には黒いブラックホールのような渦が巻いており、そこから機を見計らったかのように一人の女性のプリティなお尻が迫ってくる。

 真上から落ちてきたお尻を見て、二人は咄嗟にその場から退いた。


 その女性はどてんと地面に勢いよく尻もちを着き、「痛っぁぁぁ」と大げさに泣き叫ぶのであった。その瞳は涙で決壊しそうになっていた。

 ようやく暗闇世界から脱出できたことに気が付いたのか、女の子座りで周りをきょろきょろと見渡し始めた。


 そんな彼女の視界に、テンジと水江の姿が映った。


「あっ! 水江くんとテンジくんだぁぁぁ!」


 立華は泣きつくように水江のお腹に顔を埋め、怖かったぁぁぁぁと泣き始めた。

 さすがにこの状況でくっつかれるのは嫌だったのか、水江は突き放すように立華の肩を押し返し、「泣いてる場合じゃない、状況を見ろ」と冷たく言い放つ。


「あ、あれ? ここダンジョンじゃないですか」


 涙を瞳にたっぷりと浮かべながら、立華は言われた通りに周囲を観察し始めた。


「そうだ、ここはダンジョンだ。わかったらすぐに立て、それと大声を出すな。モンスターが寄ってくるかもしれないだろう」


「は、はい!」


 年下に怒られたことに違和感を覚えた立華は、首をこてりと傾げた。

 しかしここでは水江に従うのが一番だと判断し、すぐに立ち上がった。

 その手にはしっかりと槍が握られていたことに、少しだけ水江は安堵していた。この状況で槍を手放すような奴ではなくて良かったと思ったのだ。


 運がいいのか、それとも意図的か。

 三人は誰一人として武器を手放してはいなかった。


「それにしても、ここは……」


「立華も暗闇世界をずっと彷徨っていたのか?」


「え? なんで知ってるんですか?」


「俺もテンジも全く同じ状況だったからだ。ということは、やはり……俺たちは同時にランダム転移に巻き込まれたことになるな。どんな確率だよ、三人同時になんて。聞いたこともない」


 水江はようやく状況を掴めてきたことで、はぁと溜息を吐いた。

 まず三人同時にランダム転移に巻きまれるなんて、誰もが聞いたことなかったのだ。年に一回ニュースに取り上げられるランダム転移の事件は、毎回一人で巻き込まれたと報道される。

 二人同時になんてこと、一度も彼らは聞いたことなかったのだ。それこそ三人なんて前例がない。


「こ、これって……福山さんとはぐれた可能性もありますよね」


「その通りだな。福山さんもここに転移させられる可能性はないとは言えないが、ここは俺たち三人で切り抜けなければならないと考えるべきだ」


 水江の言葉に、立華はごくりと唾を飲み込んで緊張感を高ぶらせた。


(これ、どうしようか。どう考えても戦力が足りない。それに食料もまったくない状態だ。まさに万事休す)


 草津と福山の抜けた穴が痛すぎると考えていたテンジは、この後にどう行動するべきなのか頭を悩ませる。

 そんな考え事をしていたテンジの肩に、トンと水江の手が置かれた。


「テンジ、ここからはお前の力も必要不可欠だ。だが、俺はお前がどれだけ戦えるのかまったく知らない。何となくでいい、言葉にできないか?」


 この状況で、未知のテンジを頼るのは当たり前の行動だった。


(うーん、どうするべきか。まぁ、一先ずは様子を見るしかないか。これも試験の一部なのか、それとも試験外の出来事なのか。それが判別できるまでは仕方ないよね)


 テンジは話せることだけを、正直に話すことに決めた。


「僕はすでに《剣士》の天職に目醒めているんだけど、残念ながら五道さんに今は封印されている。盾役ではなく、攻撃役だよ」


 テンジは元々のステータスでは防御力と知力、幸運に秀でていた。

 しかし、現在は小鬼の付加値50が追加されている状態なので、攻撃力が最も高いステータス構成となっている。攻撃力だけを取ってみれば、怪力と言えるレベルであった。

 嘘を付きつつも、絶妙に真実を混ぜることでテンジは言葉に真実味を出そうとする。


「まぁ、そうだよな。持っているのもアイアンソードだしそんな気はしていた。だが、バランスが悪いな、攻撃役が三人か。せめて盾役が一人いれば安定するんだが……草津が惜しいな」


「どうしようか? 進む、ここで救出を待つ?」


「きゅ、救出を待ちましょう!」


「いや、待て立華。これが試験の一部ではないと言い切れるのか?」


「ど、どういうことですか?」


 どうやら水江もテンジと同じような推測に行き当たっていたらしい。

 もしこれが試験の一部として組み込まれた場合、ここで救出を待つ選択をした時点で不合格と同義になる。

 逆に試験ではなく、本当に事件に巻き込まれた場合は、ここで待って救出を待つという選択肢もあった。

 しかし、そもそも意図的にランダム転移を起こせるなんて、三人は誰も聞いたことがなかった。だからこそ、この状況をどう考えるべきなのか迷っていたのだ。


 チャリオットの意図なのか、単なる偶然なのか。


「試験ならば進まなければ俺たちは不合格だ。逆に試験でないならば、ここで救助を待つのも正解だろう。ただ、どちらに転んでも状況が好転しやすいのは、明らかにダンジョンを進む方だ」


「うん、僕も同じ考えだよ。救助を待つってのは、探索師としてあまり褒められない行動だしね。統計的にもダンジョンでは進み続けて出口を探した方が、生存率が高いよ」


「さすがは探索師高校の生徒だ。一般では知れない情報を知っているようだな」


「まあね」


 本当は五道の受け売りだけど、とテンジは心の中で加えておく。

 テンジはもしかしたら今が小鬼の検証に最適な場所ではないかと、ひっそり企んでいた。

 福山がいなければ、多少は無理してでも誤魔化せるだろう。一人だけ意図的にはぐれることも容易なのだ。


 正直、これはテンジにとって絶好のチャンスであった。


「そ、そうですね! では、進みましょう!」


 思いのほかあっさりと説得させられた立華に呆れつつも、三人は先へと進むことに決まった。

 しかし、水江はその場から一歩も動こうとはしなかった。


「まぁ、その前に当分はここで様子を見よう」


「というと?」


「福山さんが来る可能性に掛けてみるべきだ。確率的には0に近いが、福山さんがいるといないとでは戦い方がまるで変わるからな」


「そうだね」


 こうして彼らの方針が決まった。

 三人は願うように、福山がランダム転移に巻き込まれてここに来ることは待った。


 しかし――。


 いくら待っても福山がこの場に現れることはなかった。


 そこで三人は決意を固めたように立ち上がった。


「仕方ない、か。……進むぞ、これから三人で攻略を目指す。いいな?」


「うん」

「はい!」


 三人はダンジョンの先へと進むことにした。

 天職も持たない三人、それでも武器だけはかろうじて全員が手に持っている。

 ただ、水江も立華もすでに戦い続けて六時間以上経過しており、心身ともに消耗が激しい状態であった。


 そんな中、唯一ほとんど消耗がないのがテンジだ。


 自分がここでどう振舞っていくべきなのか、腹黒く考えを巡らせていく。



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