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特級探索師への覚醒 ~蜥蜴の尻尾切りに遭った少年は、地獄の王と成り無双する~  作者: 笠鳴小雨
第2章 覚醒編(下)

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第47話



「草津さん!」

「わかってる!」


 立華の掛け声で草津が数歩前に飛び出た。走り出した勢いのまま、潜りマウスの突進攻撃をバックラーで体ごとはじき返す。

 潜りマウスは激しいタックルに体を宙に浮かせ、後方数メートルほど吹っ飛んだ。


 草津のラグビーで鍛えられたタックルは見事なもので、一般人程度の力でも五等級モンスターの態勢を崩すには十分な威力を持っていた。さすがは元年代別ナショナルセレクションに選ばれたスポーツマンである。

 そんな草津のすぐ背後から、立華加恋が槍を握って勢いよく飛び出ていく。


「やあ!」


 すぅ、と狙いすまされた槍の切っ先が首元に突き刺さった。

 そのままモンスターの生命線となる神経を断ち切るように、横なぎに槍を振り斬る。

 潜りマウスはその攻撃を最後に、声を上げる間もなく息絶えて地面に転がり倒れた。


「さすがです!」


「どもです!」


 五度目の会敵で、モンスターに対する立華の緊張はすでに解けていた。

 緊張さえ解けてしまえば、立華は非常に見事な槍捌きを披露するようになり始めた。

 どうやら高校までは近所の道場で槍術を学んでいたようで、その片鱗がちらほらと見え始めているのだ。


 主にこの二人は、二人でタッグを組みながらモンスターと対峙するようになっていた。

 そしてもう一人――タッグを組む必要性のない人物が一人いた。


 このグループでは二番目に若い青年、水江勝成だ。


「水江くん! 右斜め後ろ!」


「わかってる、天城!」


 後衛にいるテンジからの声を聞き、水江は気配だけを頼りに右後方へと剣を振り抜いた。

 その剣は見惚れるほどに見事なもので、死角から奇襲を仕掛けた潜りマウスの体を真っ二つに斬り裂く。


 そうして五度目の会敵を無事に終えた彼らであった。

 五度目となると連携にもかなり誤差がなくなり、それぞれの戦いたい方法で戦えるように彼らも成長し始めていた。

 チャリオットが二か月かけて選別しただけあって、彼らは本当に才能に富んだ人たちばかりだ。そのことに気が付き、テンジは少し劣等感を抱き始めていた。


 一番前に突出するのは水江勝成で、彼はその身のこなしと剣捌きでなんなくモンスターのタゲ取りをしてしまう。タゲを取りながらも、数を減らしてくのが水江の役割だった。まさに獅子奮迅の活躍をしている。


 その水江の攻撃を掻い潜ってきたモンスターたちを、二人が対処する。

 草津が盾でタックルし、背後から立華が槍で一刺しする。


 これが一番効率的にモンスターたちを仕留められる連携であった。


 ただし、体力的にも筋肉的にも後方の彼らが圧倒的に余裕であり、水江たった一人に多大な負担をかけていることをまだ誰も気が付いていない。

 いや、水江の受かりたいという前屈みな気持ちのあまり、他人にばれないように平然とした表情を崩さないように努力していたのだ。


 その事実に福山は気が付いている。

 しかし彼は知っておいてあえて口には出さなかった。それどころか急かすように言葉を紡ぎ始める。


「いいね~! この調子でどんどん進んでいこうか」


「はい!」

「はい!」

「わかりました!」


 福山の励ましに三人は気分を良くして、先へと進む足取りをさらに早めていく。

 その様子を見て、福山はひとり不敵な笑みを浮かべるのであった。


(なんかこの人、不気味だなぁ……)


 福山を隣でずっと見てきたテンジはそんな感想を抱いていた。

 時折、自分がイケメンだということを忘れたような気味の悪い笑みを浮かべるのだ。それを隣でずっと見ていたので、そう感じるのは必然だった。


「――あっ」


 そんなとき、立華が素っ頓狂な声を上げて、すぐに両手で口を塞いだ。

 彼女が視線の先には、巨大な扉が鎮座していた。

 薄紫色な鉄に、奇怪な陣が刻まれたその扉は、第一のボスエリアの証であった。見上げるほどの高さを持ち、アーチ状に形を成している。扉の中央には、きらきらと存在感を示す一つの宝玉が埋め込まれている。


 そのボス扉を、ここにいる全員が見上げるように観察する。


「ようやく第一ボスエリアのようだな。二人とも準備はいいか?」


「はい、いつでも大丈夫です!」

「僕も大丈夫だよ!」


 水江の掛け声に、草津と立華はすぐに反応を示した。


 すでにサブダンジョンに入って三十分ほどが経過しており、三人の呼吸は少し乱れていた。それでも水江はこのままボスに挑戦したいようだ。

 ただの一般人が休むことなく三十分間延々とモンスターを警戒するために神経を消耗し、その中で五度の戦闘を行ってきたのだ。彼らが倒してきたモンスターはすでに十六体にのぼる。


 周りに対して盲目になり始めていた水江に、テンジは危機感を覚えていた。


「それじゃあ行こうか」


 水江の堂々とした言葉に安心感を感じていた二人は、否定することなく彼の後をついて行く。

 そうして扉の前までたどり着き、水江が扉の手形に窪んだ溝に自分の手をはめ込んだ。


「わぁ、生で初めて見ました」


「僕も初めて見たよ……これがダンジョンのボスエリアなんだね。やっぱ動画で見るのとでは、全然違うね」


 扉がギギギギッとひとりでに押し開らかれていき、その奥には第一ボスエリアが広がっていた。

 円状の部屋のようで、壁や床、天井には豪華な青と金色の装飾がこれでもかと施されている。少し眩しいくらいに感じる部屋だが、不思議と目を手で覆うほど眩しい訳ではない。

 明かりはどこから灯されているのか定かではないが、部屋全体がほんのりと明るくなっている。


 その部屋の一番奥。

 ちょうど彼らのいる入り口の反対側に、古びた黄金の玉座が設置されている。


 そこにはまだ、ボスの姿はない。


 と、そこで福山が徐に彼らのすぐ背後まで歩み寄り、久しぶりに口を開いた。


「はい、お疲れ様です。ということで、ここは俺が戦うから君たちはただ見ているように」


「え?」


 突然のことに驚く水江の声が、部屋の中に木霊する。

 しかし、次の福山の言葉を聞いて全員が納得することとなる。


「残念ながら君たちではまだこのボスは倒せないんだよね。だから、俺が戦うよ。君たちは俺の勇姿でもそこで見ててよ。はい、休んだ休んだ!」


 ぱんぱんと二度手を叩き、福山は柔らかな笑みを浮かべながら一人で前へと進み出た。

 気が付けば、その腕には刺々しいグローブのようなものが装着されていた。エメラルド色に装飾され、防具というよりもボクシンググローブの武器のような様相であった。

 五本指には眩いほどの宝石があしらわれており、一目見ただけで非常に高価な武器だとわかる。少なくとも一等級はする代物だ。


 この世界に防具のようなものは存在しない。

 ということは、あれは防具ではなくれっきとした武器ということになる。


(チャリオットAチームの盾役副隊長、福山さんの戦いを見られるのか。一体どんな戦いをする人なのだろうか……)


 テンジは扉の中へと一緒に入り、近くで福山の戦闘を見てみようとする。その瞳には、純粋な興味が映っていた。

 他の三人も同じように扉を潜ってすぐのところで立ち止まり、真剣な眼差しで福山の戦闘を見ようとした。


 そんな彼らの行動に福山はふと気が付き、顔だけ後ろに振り返って「勉強するように」と爽やかな笑顔で言ったのであった。


 福山がボスエリアの中央までたどり着いた時、このサブダンジョンのボスが形成され始めた。

 円状なエリアの端っこ、扉のちょうど真逆側にある玉座の上に黒い十字架のような物体がちろちろと集まり始め、徐々にボスの姿を作り始めたのだ。

 三秒もすれば、その小さな十字架の集まりがボスの姿へと変わっていた。


「グフゥ……」


 それは通称『グフゥ』と呼ばれる、体長五メートルを超える巨大なネズミ型のモンスターであった。

 灰色の毛は一つ一つが針のように鋭くなっており、普通の人間では太刀打ちできない相手だ。おそらくチャリオットは事前にこの情報を仕入れていて、参加者には無理だと判断したのだろう。


 確かに、一般人にはグフゥは重すぎる相手だ。


「グフゥですね……あれは私たちでは敵いません」

「そ、そうだね。グフゥは天職を持つ探索師でないと勝てないって聞くよね」

「あ、あぁ……そうだな。もしあのまま突っ込んでいたら、俺たちが壊滅していただろう」


 立華、草津、水江の三人はグフゥの禍々しい姿を見て、そんな感想を漏らしていた。

 テンジにとっては見慣れたボスモンスターなのでわざわざ感想を言うようなことではなかったのだが、ボスを自分の目で初めて見た彼らにとってはもの凄い衝撃だったのだろう。


 一般人はその目でモンスターを見る機会はほとんどない。

 彼らのような普通の学生たちは、本や動画を見て独学で学ぶしか今は手段がないのだ。


 そんな四人に対し、福山はこちらを一切見ずにレクチャーを始める。


「四人ともグフゥは知ってるかな? ここからは俺から直々にグフゥの倒し方をレクチャーしようと思う。まぁ、試験にそんな予定はないんだけど、俺の気まぐれだね!」


 福山は声を張ってそう言うと、瞬きするほどの刹那の時間でグフゥの懐へと迫った。

 残像すら残らないほどの速さで駆け出し、それを見ていた彼らも慌てて福山の姿を探し始める。


「速い!?」

「すごッ」

「これが……チャリオットの福山さんか」


 一般人の目では負えないほどの速さで駆け出した福山は、気が付くとグフゥの懐で余裕の表情をして仁王立ちをしていた。

 そして、右手を上に掲げ人差し指を上げた。それは「1」を表しているようだ。


「その一、グフゥは懐に入られると突進するか、尻尾を振り回してくる。……どうやら今回は尻尾のようだね」


 その言葉通り、グフゥは体を小さく丸め込みぐるんと体を回転させることで、鋼鉄のような固さを誇る尻尾を福山に向かって振り下ろした。

 その尻尾をじっくりと観察しながら、福山は大きく斜め後ろへとバックステップを踏んだ。


「この場合、真後ろではなく斜め後ろに飛び退くこと。真後ろだとこのように地割れでの余波で攻撃されちゃうからね」


 福山の言う通り、尻尾が地面に振り下ろされると周囲の地面が大きく陥没し、地割れが真っすぐ前へと進んでいくのがわかった。

 斜め後ろに避けた福山に、土埃一つ襲うことはなかった。


「凄いけど……僕たちにあの動きはできないね」

「そうだね、さすがはチャリオットの探索師だよ」


 草津と立華は常人には到底真似のできない身のこなしを軽々としてしまう福山に、ただ苦笑いするほかなかった。しかし、テンジと水江は食い入るように福山の後ろ姿を目で追っていく。


「さて、突進攻撃を見せてくれるかな?」


 福山はそう言うと、再びグフゥの懐へと入った。


「あー、きたきた! グフゥは突進攻撃する瞬間、ほんの一瞬だけど針のような毛を逆立てるんだ。これが見えたら突進攻撃なんだけど……まぁ、普通に避けられないんだよね、これって」


「え?」


 立華の素っ頓狂な声がボス部屋に木霊した。


「いや、だってこのボスって体面積大きいし、四等級以下の探索師は絶対に躱すことができないんだ。まぁ、俺は躱せるんだけどここはレクチャーとして、四級探索師以下の場合の避け方を披露しようか。――『羅生門らしょうもん暗転あんてん』ッ」


 その瞬間、グフゥと福山の間に禍々しい羅生門が降り落ちてきた。



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