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特級探索師への覚醒 ~蜥蜴の尻尾切りに遭った少年は、地獄の王と成り無双する~  作者: 笠鳴小雨
第4章 マジョルカ編(下)

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第198話



 鬼と化け物の戦いに、割って入る隙などまるでなかった。


 元々そこにいた探索師たちは、伊吹童子の恐怖に屈して地面に四肢をべたりと貼り付け、炎が渦巻く戦場の蚊帳の外で何もできずにいた。アレクもウォンも、他の探索師たちも全員、ただその拷問を眺めていることしかできなかった。ただの傍観者でしかいられなかった。


 そしてたった今到着した九条たち。

 彼らもそれを見ていることしか許されなかった。


 炎の草原が、彼らの侵入を拒んでいたのだ。


 不意に、九条が地獄の業火へと手を伸ばす。


「九条さん! ダメです!」


 その無謀な行動をテンジは慌てて止めていた。

 他の人たちにはただの炎に見えるかもしれないが、テンジはまったく別の炎に見えていた。色も性質も一見似たようなものに映るだろうが、その中身がまるで違ったのだ。


 これはただの炎ではない。

 地獄の業火、亡者を拷問するために創られた炎なのだ。


 その炎に触れてはならない。

 触れたら最後、必ずそいつは地獄に落ちる。


「……お前にはこれがどんな炎なのか分かるのか?」


「はい、それは絶対に触れちゃダメな炎です。僕がいつも使う炎とは性質が違います」


「そうか、助かったよ。で……これじゃあ手が出せないぞ?」


 九条が悔しそうにそう呟いたそのとき、炎が九条の肩に手を置く。

 そのまま五人の先頭へと歩み出ると、テンジの忠告を無視するかのように炎へと手を伸ばし始めた。


「まぁ、そもそも俺たちが介入するまでもなさそうな光景に見えるがな」


 そんな呑気なことを言いながら、その手を炎の中へと突っ込んだ。

 テンジは突然のできごとに留める隙すらなく、「あっ」と驚きの声をあげるばかりであった。


 しかし、炎は問題なさそうに涼し気な顔を浮かべる。


「ふむ……これは確かに。なんと言えばいいのだろうか、俺の語彙力では言い表せない痛みが伴うな。九条は絶対に触らない方がいいだろう。俺でさえ、一分も浸かれば焦がされてしまいそうになるな。拷問のために創られたような炎のような気がする」


「えっ?」


 思わず、テンジは素っ頓狂な声を上げていた。

 そんなテンジに対し、炎は問題ないと言いたげに手を引き抜くと、そこには焼けることも焦げることもなく無事な炎の手があった。


「心配するな、天城典二。俺は天職の影響で炎に対する一定の無効時間が存在する。そうでもなければ、溶岩なんて人が握れるわけないだろう。だから、お前が心配しているようなことにはならないさ」


「そ、そうなんですね……凄いです」


 ほっと胸を撫でおろすテンジ。


 そのときであった。


 近くにあった地獄の業火が、テンジを包み込むように形を変えたのだ。

 戦場の真ん中から、いつにも増して鋭い視線が突き刺さる。



「何を悠長に見ているのだ、小僧。こっちに来い」



 炎の壁の中央で戦っていた伊吹童子が、悠長に炎壁の外で会話をしているテンジに対し痺れを切らし、怒ったように呼び寄せたのだ。その声には恐怖の波動が乗っており、テンジの周囲にいた四人は気が付けばその場にひれ伏していた。


 また、あの時と同じだ。


 テンジ以外の全員が、恐怖に屈してしまう。

 それでもテンジにはなんら影響は与えないことを、みんなが知っていた。


 気が付けば、この戦場で立ち上がっていられたのは二人だけになっていた。


 テンジと伊吹童子だけだ。

 自然とその二人に、ここにいた全員の視線が集まってくる。

 ここに元々いた探索師たちの目は、なぜ学生が平然と立っていられるのだ、とそう聞きたいような感情が籠っていた。彼らはまだ知らないのだ、伊吹童子を召喚したのがまさにテンジであることを。


 あの鬼を召喚したのが、一介の学生だということを。


 テンジはなぜか、少しだけ嬉しそうに笑っていた。

 そして少し遠くの戦場で戦っている伊吹童子に対し、言葉を返すように鋭い視線を返す。


「わかったよ。今行く」


 あっさりとテンジはその声にこたえた。

 そのままくるりと体を半身にさせると、後ろで跪いていた四人へと言った。


「すいません、九条団長。僕、行ってきますね。決着を着けてきます」


 優雅な足取りで、テンジは戦場の真ん中に向かって歩き始めた。

 まるで気にも留めずに地獄の業火渦巻く戦場へと足を踏み入れ、たった一人その戦場へと身を投げ出す。


 地獄の炎は、まるでテンジの訪れを喜んでいるように見えた。

 ただそこを歩くだけで、未来の王の通り道を勝手に作り出していく。


 王の歩く道が、自然と生まれていたのだ。




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