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第133話



 蛇門飛鳥。

 深緑色が僅かに入ったダークな髪色に、肩口まで伸びたウェーブなロングヘア。前髪から覗くのは、彼の特徴ともいえる蛇のような鋭い瞳。


 そんな彼の両手には、前はなかった奇妙なアイテムが装備されていた。

 深く、そして鮮やかな光沢のある飴細工のように繊細なティアラ――いや、ティアラのようなブレスレットとでも言おうか。

 純白という彼にはまるで似合わない組み合わせに、テンジはすぐその変化に気が付いていた。


(蛇門くん……チャリオットの入団試験以来だよね。それにしても千郷ちゃんは何も言ってなかったけど? それとも千郷ちゃんも知らなかった?)


 テンジはいくつもの疑問を感じながらも、久しぶりに見た彼の顔を見つめる。

 前よりも少し体がたくましくなっただろうか、少しだけ肩幅や身長が伸びている気がする。以前はテンジとそう変わらないくらいの身長だったのだが、もうテンジは抜かされたかもしれない。

 そんな蛇門は相も変わらず淡白な表情を浮かべている。


「はい、ということでテンジは蛇門くんに色々教えてあげてね」


「ぼ、僕ですか?」


「だって同郷じゃない。嫌なの?」


「い、いえ! 全然嫌じゃないですよ!」


 とは言いつつも、少しだけテンジは困っていた。

 入団試験の時も、二度目に再会した今日も、彼は無口でどこかテンジを敵視するような鋭い視線を常に向けてきていたのだ。

 もしかしたら生まれつきの蛇瞳が原因なのかもしれないが、テンジには正直判断しかねていた。


「じゃあパインも席を変わってあげてくれない? 席も隣同士の方が飛鳥も気楽でしょ?」


「え~、私テンジの隣がいい~」


「パインはいっつもテンジと一緒にいるじゃない。飛鳥がマジョルカに馴染むまではテンジを貸してあげなさいよ」


「もぅ……仕方ないなぁ。は~い」


 渋々といった様子だが、パインはごそごそと机の上に置いてあったタブレットなどをバッグに仕舞い込むと、唯一空いている席へとてくてく進んでいく。

 その席は、つい数日前までロシアの学生が座っていた席だ。しかし少し前の前期実技テストを機に一変した。

 彼は国枠ではなく、個人枠での留学だった。しかし彼を留学させた支援者、つまり世界でも有数の実力を持つ探索師の成績不振が問われた。

 つまり、ここ数年ずっと優秀な学生を留学させておらず、万年ビリを争うような生徒ばかりだったのだ。未来を憂いたリィメイ学長とイロニカ秘書は、その探索師から個人枠の権利を剥奪し、新たに日本で活動する探索師「鵜飼蓮司」へと移し替えたのだ。


 そうして日本での大規模な留学権利争奪テストが行われ、飛鳥が選ばれた。


「飛鳥、今のうちに私に質問ある?」


 ミーガン先生は隣で顔色一つ変えない飛鳥の顔を覗き込むように問いかけた。

 飛鳥はその言葉に数秒考えるように床を見つめると、思い出したように顔を上げた。


「マジョルカには生徒同士の対人訓練が許可されていると聞きました。どうやればできますか?」


 初めて聞いた飛鳥の長文な言葉に、テンジは少し感心していた。

 チャリオットの九条団長を前にしても堂々な振る舞いを見せ、短文な言葉しか発しなかった飛鳥が、まさかこんなにも普通に話すことができると思っていなかったのだ。


(それにしても対人訓練か……もしかしてそれが目的?)


 おそらく世界で唯一だろう、学生同士の対人訓練。

 それが許可される自由な校風を持つのは、マジョルカエスクエーラの特徴だ。


 学校内には常に治癒系一級天職を持つ講師が在中しており、その講師同行のもと、講師の指示に背かないことを条件に学生同士でも対人訓練が許可されている。

 普段はあまり行われない訓練方法だ。

 だって、専属の教師とマンツーマンで対人訓練を行う方が何倍も有意義だからだ。学生同士で行う理由など、自分の力を確かめるだけの幼稚な行為に過ぎない。


「うんとね、できれば講師を二人集めること。一人は在中している治癒系の講師、もう一人は戦闘に割って入れる実力を持つ講師だね。あとは適当に演習場でも使うといいよ。まぁ、小さいけど」


「ありがとうございます」


「対人訓練したいの? 別に専属の講師を希望して、講師と訓練した方が……」


「俺の今の実力を知りたい」


「あ~、なるほど。君はあれだね。転入組によくいる、遅れた入学だったことが原因で劣等感を抱いているタイプ。違う? よくいるんだよね~」


 外国人特有の食い気味な質問に少しいら立ちを覚えたのか、飛鳥は元々鋭かった蛇瞳をさらにきらりと輝かせ、鋭くミーガン先生を見つめ返した。


「違う」


 その鋭い返答に、ミーガン先生の顔に冬が訪れた。

 まさかこれほど強い感情をぶつけられるとは思ってもおらず、冷や汗を掻きながら徐に教卓のタブレットに手を伸ばすと、すたすたと教室の出口へと向かった。


「えっと……じゃあ、あとは自由時間でっ! ばいばい!」


 ミーガン先生はこの場にいるのが気まずくなったのか、足早に教室を離れると、まるで取ってつけたように廊下で「ビリーのおむつ変える時間だ!」なんて大声で叫んでいた。

 そんなお茶目すぎる先生の行動に、生徒たちはようやく後期が始まったのだと実感していた。そう、別にあれはいつも通りなミーガン先生の光景なのだ。

 彼女は度々、ストレートすぎるその物言いに何度教室内を凍り付かせたことか。

 良くも悪くも、ここに集まる生徒たちは我が強い。自分こそが優秀なのだと自負している人たちの集まりなのだ。各国から選抜されて留学してくるからこその弊害なのかもしれない。


 シンと静まり返った教室内で、飛鳥が口を開いた。


「この後、対人訓練をやりたい」



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