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特級探索師への覚醒 ~蜥蜴の尻尾切りに遭った少年は、地獄の王と成り無双する~  作者: 笠鳴小雨
第3章 マジョルカ編(上)

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第112話(閑話:それぞれの報告後)



 試験が終了し、それぞれの報告が終わった数日後のこと。



 † † †



 ――デミリア・ガルシア、ジョージ・マクトイーネのアメリカ組。



 二人は小さな一軒家で二人暮らしをしている。

 男二人暮らしなんてむさ苦しいが、折角自分たちの国が用意してくれた家を無下にできるわけもなく、二人は文句を言わずにシェアハウス中である。


「おはよう、4位のジョージくん」


「うるせぇ。毎朝毎朝同じことを言うな、さすがに飽きた」


「ん? なんか言ったかね、万年4位のジョージくん。1位の俺に何かを言ったのかね?」


「あ~、これだから馬鹿が1位になるとシャレにならねぇ」


「いやいや、馬鹿が1位にはなれませんから。…‥まぁ、確かにあれだわな。4位は馬鹿がなる順位だったな」


「ちっ、まじうぜぇ」


 二人の関係は悪化していた。

 アメリカの施設にいたときは、常にジョージが1位で、デミリアが2位だった。

 それを常に根に持っていたデミリアは、これを機にここぞとばかりに嫌見たらしく接するようになっていた。


「にしても4位のジョージくんはどこで何をしていたのかな? イエロー剣士に弄ばれたのかな?」


 否定できないその言葉に、ジョージは悔しそうに下唇を噛みしめる。


「パインだよ。あいつにやられた、ただそれだけだ。イエローは関係ねぇ」


「なになに? あの褐色女子にやられたのぉ?」


「デミリアは運が良かっただけだ。パインに出会ってしまったクラスメイトは、等しく全員が四肢の腱を斬られた。お前も出会ってたら奇襲されてただろうよ」


「運も実力のうち、って言葉知ってるかい? そもそも森の中では暗殺系が最強なんだ、対策しなかったジョージに責任がある」


 ぐぅの音も出ない正論にジョージは黙りこくってしまう。


 というのもだ。

 こんなにもあからさまな皮肉をデミリアが言ってくるのには訳がある。

 二人は試験の詳細や結果を母国に送信すると、こんな文章が帰ってきた。



『デミリアよくやった。ジョージ、お前には期待を裏切られた。次、失敗したら帰還させる予定だ。次はないと思え。一先ず処分が決定した、半年間の減給だ』



 そんな冷たい文章が送られてきたのだ。

 支援者だから文句も言えないし、失敗したのは自分たちのせいだと自覚している。

 何のためにアメリカが巨額を投資して二枠も買収し、お前たちを送ってあげたというのだ。そういう意図が存分に込められていた。

 二人、つまりお互いに協力し合って結果をだせということだ。


 なのにも関わらず、ジョージは不甲斐ない4位という結果を招いた。


 これは連帯責任、デミリアにも非がある。


「それは本当にすまない。警戒はしていたが、甘かった」


「まぁ、俺の方もだな。最初に会ったときから共闘していれば、こんなことには絶対にならなかった。俺とお前で1位、2位と連続フィニッシュできたはずだ」


「悔いても仕方ない。後期だ、後期は必ず巻き返すぞ」


「もちろんだ。次は圧倒的な1位だ」


 二人は国の期待を背負って、家族の幸せを願って、お互いに研鑽を重ねていく。


(しかし……テンジには勝てない。例え、俺とデミリアが手を組んだとしても……おそらく無理だろう。だが、あくまで『今は』という話だ。『未来』は誰もわからない)


 ジョージは心のどこかで、いつかテンジを見返すときがやってくると信じている。



 † † †



 ――モハメット・パイン。



 第1階層のレストランで、パインは申し訳なさそうに言った。


「ムシュタさん、ごめんなさい」


「なんでパインが謝るんだい?」


 向かいの席に座るのは、紳士のスーツを纏い、紳士のハット帽を被る、これまた紳士なオーラを放つ支援者、ムシュタ・ムッシュであった。

 その容姿は、実に中性的な存在だった。男か、女か、そう聞かれるとなんとも答えにくい。

 彼は試験の協力者としてマジョルカに訪れており、試験のお疲れ会と称してパイン誘ったのだ。


「私……1位になれませんでした」


「別に私は気にしてませんよ。私はパインの才能に魅了されて、あなたをここに入れてあげただけです。あなたがやりたいように生きて、成長して、いつかは私の尊敬するあの方のお役に立ってもらえればそれだけで十分です」


「はい、精進します」


「気楽にですよ? 成長期に根を詰めすぎるといけません。ゆっくり、気長に、楽しく、育ってください。それが私からの一番の望みです」


「はい!」


「やはりパインの笑顔は素敵ですね。タワーパフェを追加しちゃいましょう。店員さん、あれを一ついただけますか?」


 その後、ムシュタとパインの席に一メートルを超える巨大なパフェが現れたとか。

 ほんの15分でムシュタの胃の中に納まってしまったが。


「では、私は一度帰りますね。何かあったら遠慮なく連絡をください」


「わかりました! また頑張ります!」


「では」


 ムシュタは腕時計を確認すると、ゆるりと紳士の足取りでレストランを一人後にした。


 ムシュタ・ムシュは『あの方』を溺愛している。

 溺愛しているからこそ、あの方の役に立つ人材を世界中から発掘している。

 世界を練り歩き、才能を探し、見つけたら最高の教育機関に入れてあげる。そうして――いつかは『あの方』の愛人になれると信じて。


 例え、同性であっても。


 ムシュタ・ムシュは『あの方』を愛している。



 † † †



 ――ユ・ミナ、ソン・チェウォンの韓国組。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「ちょっとチェウォンうるさい! 朝からなんなの!?」


 二人はシェアハウスをしている。

 最初は別々の場所に住んでいたのだが、チェウォンが「一人は寂しい」と言い出し、一か月と持たずにシェアハウスを始めたのだ。


 そんなチェウォンがリビングで朝から騒がしい。


「ちょっと見てよ! これ見てっ!」


 リビングには、無造作に開けられた段ボールがあった。

 その中からチェウォンは慎重に、宝石でも触るかのように何かを持ち上げた。


 それは――。


「ポスター?」


 世界的人気を誇るK-POPアイドルグループの、センターを踊るイケメンのライブポスターであった。

 それの何でそんなに騒いでいるのか、ミナにはわからなかった。


「チェウォンの部屋にはそんなのたくさん貼ってあるじゃん」


「違うの! ここ! ここ見て!」


 チェウォンが指を差すのは、ポスターの端っこ。

 そこには黒い文字で何かがごちゃごちゃと描かれていた。そうして小さく文のようなものも書かれていた。



『ソン・チェウォンさん。俺たちは遠い地、韓国からあなたを全力で応援しています。韓国に戻ってきた日には、一度お食事でもどうですか? メンバー一同、楽しみにしていますね』



「あー、なるほ……ど!? えっ!? 食事のお誘い!? どゆこと!?」


 ミナですらその事実に白目をむきそうになっていた。


 だって……イケメンしかいないのだ。

 ミナの瞳がきらりと輝きを放った。


「わ、私も行きたい! イケメン! 食う!」


「ミナはだめ! 絶対にだめったら、だめ! ミナはすぐイケメン見つけたら、食べようとするんだもん! だから一人で行くもん! 次の試験は絶対に1位になるもん! そして頭撫でられて、可愛いねって言われて、褒められて、頬ずりされて……」


 チェウォンの頭からはプシューっと蒸気が出始めた。

 どうやら自分で言っていて恥ずかしくなってしまったようだ。


「大丈夫、一人だけだから!」


「ダメったらだめ!」


 二人は、帰国を夢見て学業に励み始めるきっかけを得た。


 イケメン、食う、絶対。



 † † †



 ――ウルスラ=リィメイ学長、イロニカ秘書。



 いつも通り書類仕事に追われるリィメイ学長の姿があり、それを手伝うイロニカの姿もあった。

 今日は運が悪いことに、他の事務員は定休日。二人で残りの仕事をせっせと片付けていた。


「それにしても良かったのですか?」


「何がかしら?」


 イロニカの曖昧な問いに、リィメイ学長は首を傾げた。


「アマシロテンジの件です。彼、本当ならば44位、下から数えて二番目の点数しか獲得していません。黒繭は点数に含まれませんから」


「いいのよ。ちょっとした悪ふざけよ」


「悪ふざけですか……」


「ちょっと前に変態クソ王子から電話があったのよ」


「……相変わらずモモセリオンの呼び方だけが唯一汚いですね。他のお言葉はとても上品で綺麗なのに」


「あれはゴミよ。掃き溜めに捨てた方がマシだわ」


「そろそろ許してあげてはいかがでしょうか? いつかは……彼の力も必ず必要になります」


「嫌よ、クソカスゴミ変態は私の孫をベッドに押し倒したのよ?」


「確かその日のうちに体の半分を吹き飛ばしたとか言ってませんでしたか?」


「そんなんじゃ罰にならないわ。粉微塵にしない限りはスッキリしないもの」


「……そうですか。それで仕返しと?」


「まぁそんなところね。あとは――」


「あとは?」


「――単なる気まぐれよ、気まぐれ」


「なるほど、アマシロテンジに期待していると。でも、彼があれを倒す鍵になるでしょうか? 私はそうは思えません」


「相変わらず驚くほどに人の心を読むわね、ちょっと怖いわ。でもまぁ……期待していないといったら嘘になるかしら。今はいくらでも磨かれた原石が欲しいからね」


「それはごもっともです。ですが……そろそろ集めておいた方がいいのでは? さすがにそろそろ巨大化も限界のはずです」


「根拠は?」


「イロニカの勘です。私の勘は馬鹿にできませんから」


「確かに馬鹿にできないわね。じゃあ手配はイロニカに任せるわ、私は引き続きあれの監視をするわね」


「かしこまりました」


 こうして再び、彼女らは書類へと追われていく日々を過ごしていく。


 あれ。

 あれが生まれるまでは。



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