放課後と部室の日常
お待たせしました。第2話です。
2000字ちょっとで考えていたのに気づいたら3000字近くて草も生えない…
ホームルームも終わり、クラスメイトが次々と教室を出て行く。
「ねぇ龍ちゃん、今日亜里沙と美樹は委員会で来れないって。」
不意に斜め後ろの女子が話かけてきた。
「あぁ、昨日聞いたよ。愛花は今日どうするんだ?長谷川さんまだ休みだし、女子1人になるだろ?」
「うん。友梨はまだ37.5℃あるから無理だって。来れるのは週明けだろうって。でも龍ちゃんいるんだし私は行くよ?」
彼女は奥ノ森愛花。
名門、奥ノ森家のお嬢様であり、俺の幼なじみでもあり、同じeスポーツ部に所属している腐れ縁だ。
「だから教室で龍ちゃん龍ちゃん呼ぶなよ…」
ため息混じりに言う俺に、心なしか周囲の男共からの視線がつき刺さる。
愛花はいかにもお嬢様って感じで、見た目も良いから人気は高い。
「なんでー?昔から龍ちゃんは龍ちゃんでしょー?」
だからもう少し周りの目を気にして欲しいなぁ…
「相変わらず仲良いねぇお二人さん。」
「見せつけられるこっちの身にもなって欲しいけどな?」
今度は男子が二人こちらに寄ってきた。
先に話しかけてきた背が低い方が大村和幸。昨夜、副操縦士席に座っていたお調子者だ。
メガネの方は佐々木正太郎、陸攻の航空整備士だ。
「俺だって好きでやってるんじゃないんだけどな…」
「みんなお疲れ様~。大村君たちは今日部活来るの?」
「お、愛花ちゃんおつかれー。正太郎が行くって言うから俺もついてくんだ~。龍も行くだろうし。」
「火星エンジンの予備部品、昨日のクエストで使い切っててね。ちょっと買い出しに行きたいんだ。」
俺の言葉は誰も聞いていないらしい。
ため息をつきながらカバンの中に持ち帰る物を詰め込む。
「お、龍の片付けも終わったな?じゃあみんな行こうぜ!」
「待て待て、部室の鍵取りに行くから。」
教室を飛び出し、文化部の部室がある実習棟に向かおうとする和幸を静止する。
「あ、忘れてた。じゃあ俺らは飲み物でも買ってくるわ!」
「じゃあ俺もついて行くよ。和幸だけじゃ不安だしな。奥ノ森さんはどうする?」
「私は龍ちゃんと一緒に行くよ~。いつものお願いします~」
「了解、レモンティーだね。龍はコーヒー牛乳?」
「あぁ、それで頼む。」
「じゃあ俺らは行くね~」
和幸と正太郎が購買に行くのを見送って、俺と愛花は職員室に向かう。
部室の鍵を借り、実習棟へ移動する。
エントランスでエレベーターを待っていると、愛花がこちらに向かってくる人影に気づいた。
「あ!藤堂君だ!」
藤堂と呼ばれた人影が手を上げて応じる。
と思ったら猛ダッシュで向かってきた。
「愛花ちゃんに龍、今から部室向かうん?」
「うん、龍ちゃんと一緒に鍵とってきたの。でもなんで急に走ってきたの?」
「そうだそうだ、部員の不始末で怒られるのは俺なんだぞ。廊下を走るな。」
「こうでもしないと龍が俺のこと置いてくからだろ!」
この騒がしいのが藤堂学。昨夜は不在だった一式陸攻の航法士だ。
航法士の癖に数学と英語がどうしようもなく苦手らしい。
昨夜も今日提出の英語の課題が終わらず、半ば徹夜状態だったようだ。
そんな話をしているとすぐにエレベーターが到着した。
3人で乗り込み部室のある最上階、5階のアイコンをタップする。
エレベーターを降りて廊下に出ると、部室の扉の前にいる和幸と正太郎の姿が見えた。
向こうも気づいたようだ。
「やっと来た!龍、早く開けて~」
「はいはい、今開けるよ。」
和幸に急かされながら鍵を差し込み、上のキーで暗証コードを入力してから回す。
室内に置いてあるのは、高価なVRギアをはじめとした各種デジタル機器。
必然的に学校内とはいえ警備は厳重だ。
問題なく扉が開いたのでそのまま中へ入り、部屋の明かりと一緒に、太陽光蓄電池との電源接続スイッチも入れる。
活動内容的に大量の電力を消費する部活の為、空調と照明以外は基本的に太陽光での自家発電がメインだ。
荷物を置いて奥へ行くと、正太郎が珈琲牛乳のパックを渡して来た。
「130円な。」
制服のポケットにちょうどの額を入れていたので渡す。
愛花のほうは和幸からもらったようだ。
「龍、早く始めようぜ!」
もう飲み終わったのか和幸が急かしてくる。
少しくらいゆっくりしたいが、ほっておくとさらにうるさくなるので個人ロッカーの管理キーを投げて渡した。
早速自分のヘッドギアを取りに行ったみたいだ。
「愛花、今日はどれくらいインするんだ?」
「んー、みんないないしなぁ… 龍ちゃんは何するの?」
「俺は昨日のクエスト報告と引っ越し先探しに大体リアル1時間。夜にみんなで見に行きたいから候補を絞りこみたいんだ。」
「おー、さすが部長だね?じゃあ私は副部長として、部長のお手伝いでもしようかな?」
「ついてくるのか?」
「うん!」
まぁ、1人格納庫に置いてくのもどうかと思うし連れて行くか…
「じゃあ私は向こう行くね。ちょっと片付けしたらダイブするから待ってて?」
「わかった。それじゃまた中でな。」
そう言うと愛花は、簡単な壁で仕切られた隣の女子部屋に消えた。
ちなみに壁は簡単でも部屋に入るには専用IDが必要で、男子は基本的に勝手に入ることは出来ない。
ログイン中はある程度の刺激で強制的に起きるとはいえ、男子と同じ部屋で無防備になりたくはない、と一部というか1人が強硬的に主張した結果だ。
全国的に見ても、男女別で専用部室を持ってるeスポーツ部は珍しいらしい。
まぁ、これも彼女たちが大会で常に好成績を出してるおかげだ。
飲み干した紙パックをゴミ箱に捨てる。
和幸の行方を探すと、既に3段ベッドの最上段で寝転がっていた。
もう接続してしまってるらしい。
正太郎と学も自分の機材の準備をしている。
こちらも自分のロッカーからヘッドギアとブランケットを取り出し、代わりに貴重品をしまう。
電子機器が多い為、部屋の空調は少しキツめになっているのでブランケットは必需品だ。
二人も準備を終えてベッドに寝転がっている。
学のやつなんもかけてないけど大丈夫なんだろうか?
気にはなったが、自分のブランケットを譲る気はないので放置だ。
ヘッドギアと電源・回線コードをそれぞれ繋ぐ。
ワイヤレス機種もあるが、やはり接続安定性は有線に軍配があがる。
自分専用のVRゲーミングチェアに座り、いつもの角度にリクライニングを倒してブランケットをかける。
そういえば、フルダイブ姿勢はベッド派と椅子派で大体3:1の割合らしい。
ベッド派ならわざわざ専用の椅子用意しなくて済むし、省スペースで少し羨ましい。
しかし俺の場合寝てダイブした後、起き上がる時に体が自分のものではない感覚がして気持ち悪くなってしまう。
ダイブ専用椅子は大きくて邪魔だが、起き上がれなくなることと比べるとやむを得ない。
ヘッドギアを被り、側面のダイブ開始スイッチを入れる。
少しずつ体の感覚が薄れ、俺の意識は仮想世界へ向かった。
いざ史実に関して調べようとすると、色々細かい部分がわからなくてモヤモヤしますね…