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強がり少女の小さなしっぽ

作者: 九条詩苑

 髪を伸ばすことに決めたの。

 いつかあの人にフラれるその日に切るために。

 おかしいって思う?私もちょっとおかしいと思ってる。

 でも、答えが出るその時までは、まだ、まだ一緒にいたいから。

 この髪がどこまで伸びるか。伸びた髪の長さが私の想いの強さよ。

 何よ、別に後ろ向きなんかじゃないわ。

 報われなくても「私はこれだけあの人を想えたんだ」って、心から笑っていられるように。 

 ベリーショートの髪の毛も、腰まで伸びるようなロングヘアーになるんだから!

 私はその日が来るまで髪を切らない。絶対よ。




 そう言って少女はその短過ぎる髪の毛を無理矢理結んだ。

 テールというよりは宇宙人の触角みたいな見た目のそれを不満げに見つめながら、彼女はまたぽつりと呟く。


「これじゃ想いの丈もはかれないわね」


 ヘアゴムが髪の毛からするりと抜けて床に落ちた。




 

 ……そんな風に恰好つけて、髪を伸ばし始めた初夏の始まりから季節は過ぎ、年は明け、そろそろ学生の胸に桜の咲く季節が近付いてきた。普通に計算してみても、確実に半年は経っている。


 経っている、というのに。



「なんでちっとも伸びないのよっ!この髪ぃ!!」


 普通、半年もあれば5センチくらいは少なくとも伸びると思っていた。けれど、私の髪は違ったの。


「半年以上かけて2センチって何よ!そんなところで成長止めてどうすんのよ!まったく……」


 髪が伸びるおまじないをかけた櫛で髪の毛を梳かす。

「アニメや漫画のキャラクターだってもっと伸びるわ、半年あれば」


 どうやら、腰まで伸びるロングヘアーにはあと数年はかかりそうね。それまで答えはお預けみたい。

 全く迷惑な、気の長い髪の毛だわ。


 きゅっ、とどうにか結んでみる。いびつな形の、短くて不器用なしっぽ。

 前よりは、結べるようになった髪。

 私の気持ちを焦らす、意地悪な髪。

 あの人への想いと少しも噛み合わない、ちぐはぐな髪の毛。

 気持ちなんか届きそうにないって分かりきっちゃった髪の毛。



 だけど、ちょっとほっとしてるのは、どうしてかしら?

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