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異世界人として生きるのは  作者: 琴張 海
第2章 自由の意味
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EP2.一つの終わりは一つの始まり/神685-5(Imt)-12

『そして、今回の事件は一件落着っと』


「……かっこつけて言ってるが、まだ何も終わってない。

 そもそも何でまた出てきやがった」


 《宿り木》の一室。

 未だベッドの中で療養中の私は窓を眺めながら頭で話掛けるイミテーに返事する。

 窓からはいつもの都市風景――でも、視線を上げれば嫌でも目に入るのがあった。

 神々しくも光を放ち続ける光の柱。

 三日が過ぎた今でも輝きを失っていないそれを見ないよう、視線を下に固定する。


『フォレストが自分の神官につきっきりだから暇だろうと思って』


「貴様に関係ないだろう。

 そもそも当時は無視したがいつの間に会話できるようにしたんだ」


『自分の祝福をあげた人間なのに会話もできないがわけないでしょ?

 あなたが認めなくても私たちは神よ?』


「神がここまで人間にかまっていて良いのか」


『あなたは私のお気に入りだからね(ハート)』


「迷惑だ」


 レミアとエレミアを含めた監視団の面々はギルドと話し合いの毎日だ。

 いや、ギルドよりかは兵士たち、つまり国とのやり取りがややこしくなってる。

 監視団だけだったら今回の一件で戦争になってもおかしくはない。

 でもギルドまで協力して監視団――エルフの無罪を訴えている。

 おかげで連日、ずっと平行線な会議が続いている、とエレミアは言ってた。


 その所為でレミアはフォレストの代理という名前でその会議に参加している。

 私があの貴族と交わした会話などの情報提供とその裏付けのためだ。

 レミア本人は見てないし聞いてないが、フォレストの代理として真実であるということを証明し、証言している。


 私はあの柱を出したおかげで未だ頭も痛いし体中がダルい。

 正直、指一本動かしたくないというのが本音だ。

 まあ、エリアが一緒に行けたら良かったかもだけど――


『まあ、あの子も相当無理したからね。

 あの魔法陣は魔力を浴びたものに威力が半減するけどあの威力だから。

 命に別状はないにせよ、しばらくは安定したほうがいいでしょう。

 まあ――爆発よりは一気に多くのマナーを使いすぎたのが悪かったのだけど』


「――本当に大丈夫なんだろうな」


『大丈夫、あなたがやらなかった時よりは今がずっといい結果になってるはずよ』


 イミテーの言葉につい頭を掻いてしまう。

 爆発が障壁に触れたのと私が柱を作ったのはほぼ同時らしい。

 力負けすると思ったエリアが無意識の内に自分の体内マナも全て集めて放出。

 それをまるっと私が光の柱に変えてしまったという結果になった。

 単なるマナ切れだというが――わかるはずがない感覚がもどかしい。


『そんなことより、今のあなたができることを考えたほうが良くない?』


「じゃあ、私が何かを聞いたら貴様は答えてくれるのか」


『そんなの、私の勝手でしょ?』


 だろうな。

 今回の件でこの神――いや、神々の行動は未だ疑問点がある。


 そこでも一番の疑問点は、なぜ私を助けたかにつきるだろう。

 命を失うというのならまだわからなくもないが、そうでもないと言っていた。

 手足のどこか、あるいは両方吹っ飛ぶらしいが、死ぬわけではない。

 無茶したことを考えたら命がある分、マシではある。

 もちろん、そんなんで生きるくらいなら死んだほうが為になるとは思うが。


 ただ賭けてもいい、こいつはこれに答えない。

 あの時、敢えて《賢明》などとほざきながら話を進ませたところから怪しい。

 だったら――


「なら後で直接聞きに行く、どのみち一回は行く予定だった」


『まあまあ、まあまあ!

 私の顔を見ながら直接、話をしたいだなんて……アユムくんで情熱――』


「全部知っていながらふざけんなよ駄女神」


『もう、どうして私の好きな子はこうも私に冷たいのかしら』


「そういや、あの魔法陣に関しては妙に詳しかったな。

 まさか、あのユグドラシルとかいうところの爆弾魔が――」


『そうそう、あの子も中々の逸材よ?

 爆発以外は興味がないところが玉に瑕だけど、賢いしいじりがいがあるし!』


「興味ない」


 この事がどちらに転ぶにせよ、悪くは転ばないだろう。

 都市の兵士たちが今まで完全なる敵対ではなく、曖昧な距離感を保ってた。

 微妙な力のバランスがギルドの介入により崩れたが大本は変わってない。

 気がかりは一つあるのだが――悩んでも仕方ないか。


 まあ、私の目的はルニさんたちに出会ったことで達成されたようなものだ。

 体の調子が戻ったらイミテーを問い詰めて、次の目的地を決めよう――


「アユム、入るね!?」


「……エレミア?」


 外を眺めるのを止めて適当に目を瞑っていようした時。

 急ぎ足で走ってきては扉を壊れんくらいの勢いで開けてきたエレミア。

 その姿にちょっとした緊張が走る。

 問題が起こりそうなものといえば、今の所一つしか……まさか。


「あの貴族が何か起こしたのか?」


 今回の主犯でもある例の公爵家の貴族は未だ生きている。

 ほぼ廃人に近い状態ではあるが辛うじて命だけは助かったという感じだ。

 でも私より状況が悪いあの貴族がこんな早い時期に問題を起こすとは思えない。

 しかし、質問の答えは予想通りでありながらも予想外の、衝撃的な答えだった。


「家族って人間が来て、けじめをつけるとか言い出して

 今、この建物の前に――――」


「やあやあ、お初にお目にかかります」


 慌てるエレミアの後ろから聞こえる緩やかな声。

 目を向けたそこには金髪のお偉いさんがこちらに頭をさげていた。

 物腰はやわらかく確かにあの貴族よりは好印象、のように見えている。

 ――――その手で引きずっているモノを無視するのなら。


「――貴様は誰だ」


「おっと、ご挨拶が遅れました。

 私はベルジュ・フラーブ、公爵家の――この愚弟の兄に当たる者です」


 そう言いながら私の目の前にその手に持っていたモノを投げる。

 そこに転がるのは未だ赤く濡れ続けている丸い袋だった。

 この状況で中身が何であるかなんて、確認するまでもない。

 しかしあの男は笑顔を絶やさず未だベッドで横になっている私に尋ねる。


「何なら中身を確認しますか?

 本人って目星をつけられやすいように丁寧かつ綺麗に斬ったので」


「結構だ、反吐が出る」


「いえいえ、当然のことです」


 わざとらしく礼を尽くそうとするその姿は弟だったアレとは確かに違っている。

 でもこいつもまともな人間でないということだけはよくわかった。

 未だ療養中という人間の前にこんなものを投げるとは正気を疑う。

 こんなところにまで、それも公爵家の長男がどういう了見だ。


「ここでは、療養中の人間にこんなもの見舞い品で持ってくるのが常識なのか?」


「一番の品を用意したつもりだったのですが……少々刺激が強すぎましたか?」


 理解に苦しむとでも言うように、顔を歪めるそれは酷くいびつに見えた。

 何にせよ、()()()()()()()()()ようにしか見えなかったから。

 ここまで来るともう首だけになったこいつの歪みも頷ける。


 家族の情愛などはもらってないだろうとは思っていた。

 周りに味方はなく、家族すらも敵として見ていたのだろう。

 もちろん同情などしないし、憐れんだりもしないが。

 今の問題はもう既に目の前にいる。


「あなた、アユムと話があるとか言って勝手にこっちまで来ましたね。

 それも最初からここをわかってた風に――一体どういうつもりですか?」


「場所の特定はうちの執事にやってもらいましたよ。

 最初から愚弟の行動を監視するためにつけた方でしてね。

 あの愚弟は確か、ここでエルフのお嬢さんを拉致ったのでしょ?

 なら私が知らない理由もない」


「そんなことはどうでもいい。

 ここをどうやって知ったかなど、それこそ意味のない質問だ。

 単刀直入に聞こう――用件はなんだ?」


「特に何も、今回はただのお見舞いと少しの報告をしたいと思いまして。

 ――我々、フラーブ公爵家は愚弟が行った全ての罪を認めましょう。

 皆様が本件で被ることになった損害に対し、相応の賠償を致す用意がございます」


 そのお見舞いの品はそれの証明でございます、と付け加えるお偉いさん。

 聞いた瞬間、しばし頭が停止状態となり、続いては背中に冷や汗が流れる。


 向こうの言葉はつまり連日行っている会議の結果とも言えるもの。

 つまりはこの一件に関してだけはエルフとギルドは望んだものを手に入れる。

 それは良い事だが、単純に喜べるほどおめでたい性格でもないのが私だ。

 うまく回らない頭が悲鳴をあげ、今にでも倒れたい気持ちになる。


 何が目的かはわからない。

 それを考えている余裕もなく、状況でもない。

 ただ一つ確かなことがあるとすれば、その裏の事情に私が絡んでるということだ。


「――それで、私に求めるものは?」


 辛うじて出した質問を聞いては、お偉いさんは更に笑みを濃くする。

 そして両手を広げて笑いながら語る。

 それはあの怒り狂っていた貴族――いや、それより狂気に満ちてるように見える。


「はっははは! 心配ご無用、今のところは何も言いません。

 私もあなたとは万全の態勢で話し合いをしたいですしね。

 あんな光の柱を作ったのです、さぞ精神も肉体も疲れてることでしょう」


「それで、この間にあんたもエルフを人質に取るか?」


「そんな無粋な真似はいたしません。

 あなたと私の目的は話し合いで十分だと私は判断してます。

 逆に、私の提案を乗らない手はないだろうと、私は確信していますので。

 敵にならなくて済む相手は敵にしない、原則の一つです」


「――――」


 ああ、しないだろうな。

 そういうことは見た瞬間から伝わってきた。

 この人間はそんなわかりやすい不意打ちをする人間じゃない。

 もし裏切るんなら、それこそ正面からの不意打ちになるだろう。


「とにかく、ここであなたにこれ以上の負担を掛けるのはいただけませんね。

 私がいると気が散るでしょう――とりあえず帰ります。

 調子が戻ったら場を改めて話し合いましょう」


――それでは、御機嫌よう。


 そう言い残して、入る時と同じく何も聞かず勝手に去っていく。

 少ししてから窓越しに建物を出てどこかへと向かう姿が見える。

 私の休んでいる部屋に残ったのは、頭が入った袋とエレミアだけになった。


「――ああ、頭が痛い、ガチで痛い」


 一難去ってまた一難。

 光の柱を私が作ったのを知っている。

 そういや、私のことを神の使徒とか言ってたな、あの貴族も。

 お偉いさんもそう捉えている確率が高いだろう。

 あんなわかりやすいもん作っちまったし、その二つ名からは逃げ出せそうもない。


「アユム、大丈夫?」


「大丈夫じゃない、けどまあ、大丈夫だよ」


「ごめんね、何とか止めようとは思ったんだ。

 でも、無抵抗の人間に矢を放つわけにもいけなくて――

 せめて先行して状況を説明したかったんだけど、思ったより着くのが早かった」


「気にしてないよ、あの様子じゃそう違いはなさそうだ」


 フラーブ公爵家に、神の使徒か。

 こんな不愉快でしかない二つ名を背負わされることになるとは思わなかった。

 神なんてクソ食らえ、私が信じるのは私自身だ、とか言っていたのにな。

 でも私を狙ってる理由はそれ一つだろう。

 その事実が心底、気に食わなかった。

 ――でもまあ、ここでそれを撒き散らしてもしょうがないか。


「――一応、隣のエリアの様子も見てきてはくれないか?」


「うん、わかった――それと、これは監視団に持っていくね」


「悪い、頼む」


 エレミアは床に転がっている赤い袋を取る。

 手にとった瞬間伝わる感触に一瞬表情を曇らせるもそのまま部屋を出ていった。

 そして部屋の中には染みで赤黒くなってる床だけが残る。

 赤黒く染まったのは果たして床だけだろうか。

 この世界に来る前と今で、私の手はどれだけ汚くなったのだろう。


「って、今更か」


 染みだけとなったあの貴族の痕跡。

 同じ道を歩くというのは、互いに無理があっただろう。

 それは今でも変わらないし、あの時の行動は後悔していない。

 死んだからって罪は消えない。

 消えない罪だけが残り、瘡蓋(かさぶた)になるまで疼くものだ。

 だから、私はこの人間の死に悔恨の情を抱かない。


「……なあイミテー、まだいるか」


『なぁに? あなたから話しかけるのは珍しいね』


「君たち神は――いや、お前自身は今回の結末をどう思う?」


 人は、自由だ。

 それだけが人を人たらしめるものであり、ただ一つの特徴だ。

 ただ人はその自由さ故に他人と絡み合う。

 他人の自由を侵し、時には自分の自由を分け合う。

 そこから産まれるは喜怒哀楽の数々。

 これらに良し悪しを付けるたのは果たして誰であったか。


 持ってないものを欲し、持ってるものを使い力とする。

 力に対抗し抗うために、力ある他人を巻き込む。

 崖っぷちに追い込まれながらも、譲れないもののため命を張る。

 失ったものは戻らないし、失ったまま前に進むしかない。


 今回の話は、そんな話だ。

 欲張りすぎた人間を犠牲にして人間とエルフは一歩を踏み出す。

 私の手足を失う代わりに、神の使徒というレッテルを貼られる。

 そして、ただのハッタリでしかないこの肩書きは次の問題を引き込んだ。


 何も終わってなく、次のステップに進んだだけ。

 どこにでもいそうな普通の結末であり、実に人間らしい。


『あのね、そんなまとまりのない考えしていたらわかんないわ。

 どんな答えが欲しいのよ?』


「どう思うかって聞いたじゃないか」


『そう聞いたからには聞きたい言葉があるってことでしょ?』


「他人から聞きたい言葉なんて、自分が知るわけないじゃない。

 そもそも正解のない質問に模範解答なんてあるわけないだろ」


『質問をするのに明確なイメージすらない。

 そういう質問をするときはどんな答えも空虚に聞こえるものよ』


「まあ、そうだろうね」


 最初から何かを期待してした質問ではない。

 何となく聞いてみたかっただけ。

 なんのつもり質問をしたかもわからないくらい、適当で衝動的な質問であった。


『――神としてあなたが欲しい答えをあげられそうにない。

 でも、一つだけ言えることはあるわ』


「……それは?」


『いつもそうやって悩むほどには、あなたが優しい人間ということ。

 そしてあなたがあの貴族のことを憐れみ同情してるということよ』


 結局、戻ってきたのは質問への返事ではなく感想。

 私の質問に対する、単なる感想でしかないその答え。

 漠然と胸がもどかしくなり、喉が詰まる気分になる。

 イヤな苦しみに目を閉じながら、私は一言だけぽっとつぶやいた。


「一つ、多いぞ」


 胸の奥から、何かが染みていく気分とともに私は眠りに落ちる。

 今は何も考えず眠りたい気分だった。

 ただ、そんな気分だった。

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