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異世界人として生きるのは  作者: 琴張 海
第1章 異なる現実
3/63

3.孤独は一人じゃ癒せない/神685-4(Pri)-3

 眠っていた精神が緩やかに覚醒する。

 妙に熱いと思いとりあえず布団を退かしてからそっと目を開ける。


「――知らない天井だ」


 まさかこんな言葉を使う機会が訪れるとは。

 今更なネタに心の中で少し笑いながら、眠る前までの状況を思い返してみる。


 確か……エレミアと一緒に彼女の村に向かっていた。

 その途中に後ろから捕まって、そのまま気を失ったっけ。

 その後は特に何も覚えてない。

 元々眠れてなかったのもあって、そのまま起き上がらなかったんだろう。

 ただ、ベッドの上で寝てたというのは、牢の中とかではないということかな。


 悩みながらとりあえず体を起こしてベッドに座る。

 周りを見渡してみると、どうってことのない普通の部屋だ。

 ただ、壁が白くて作りが木じゃないのも気になった。


「牢の中はあんまり気にしてなかったけど、ここはエルフの村だったよな。

 木じゃない建物があるのも意外だ。

 もしかして結局、村内には入れなかったのか?」


 だとしたらエレミアはどうなったんだろう。

 私が入らないと自分も入らないとか言っていたような気はするけど。


 そうあれこれ悩んでいたら部屋の外でノックの音が聞こえてきた。

 そこで、とりあえず自分が服を着てることを確認してから返事をする。

 初めて見る服だったけど、そこは気にしないことにした。


「はい、大丈夫です」


『失礼します』


 聞こえたのは落ち着いた女性の声。

 エレミアとも団長さんとも違う声色だった。

 どちらかというと母性が感じられる優しい声というか。

 エレミアは私以外と話す時は真面目になるが、基本はテンション高いからな……。


「おはようございます、お体の方はいかがですか?」


 入ってきたのは巫女服を連想させる緑の服を着たエルフの女性だった。

 声からも伝わった優しさはその顔にもよく現れている。

 男女問わずに慕われているだろうというのが何となく感じ取れた。


「えっと、大丈夫だと思います」


「よかった――先日はレントが失礼しました、お詫び申し上げます」


「いいえ、当然な反応だとは思いますので、気にしないでください」


「ふふ、お優しいのですね。

 エレミアがあなたを町に入れようとした理由がわかった気がします」


「自分のこれは別に優しいとかではないのですが……。

 それで、結局その後はどうなったのでしょうか」


「そうですね――とりあえず、今は町内に入れられないと結論が出ました。

 それで、あなた様をこの教会で保護することになったのです。

 一応、ここは種族や村とは関係ない中立地域でもあるので」


「ここが教会……というか様付けは止めてください。

 それと自分の名前はアユムと言います」


「いいえ、性分ですのでお気になさらず。

 自分はレミアといいまして、エレミアの姉にあたります。

 よろしくお願いしますね、アユム様」


 名前で様付けされたよ、どうも慣れない。

 まあ、何とか慣れるだろう。

 というかこの人相手にはどうも強気に出られない自分がいる。

 オーラというか、そういうことをしたくないような雰囲気があるんだよな。

 ため息を一つ付いて、話題を変えることにした。


「そういえば、レミア様は――」


「すみません、様付けは流石に恐れ多いです……」


「――レミアさんは教会のシスター的な方ですか?

 そもそもエルフが神を信じるというのも変わった感じですが」


 先程から《教会》というキーワードがずっと気になっていた。

 あくまで一般論での話だが、エルフが神を敬うとは思えなかったのである。

 ただの祭壇とかでもなく、教会が存在するというのは流石に驚きだ。

 《あんたも様付け言うのかよ!》

 と一言突っ込みたかったけどそこはぐっと堪える。


「ふふ、教会自体はそんなに珍しいものではありませんよ。

 人間はもちろんのこと、ドワーフやナーガ族にもあります」


「そうなんですか? イマイチ想像つかないな……」


「――本当に異世界から来たのですね」


「え、それ自分が言いましたっけ? あ、エレミアから聞いたんですか」


「はい、大まかなことはエレミアから聞いています。

 少し信じがたい話だったのですが、アユム様と話してみて納得しました」


「はは……それは良かったです」


 もしかしなくとも常識が無さすぎるから異世界人、という解釈だよねこれ。

 結果は嬉しいけどその過程が嬉しくない、少し悲しくなってきた。


 ただ、まだこの世界の事をはっきりとはわからないけど。

 一般的なファンタジー常識が通じるのは不幸中の幸いだと思う。

 中途半端に知ってる分、間違ったことを気付きにくいという問題もあるけど。

 少しでも知ってる分、精神衛生的にはこっちのほうが断然良い。


 まあ、それは置いといて。

 私の今の状況は大体わかった、結局のところは何も決まってないということも。

 未だに私の存在はこの村において厄介の種でしかないということも。

 エレミアが私のことに対してフォローをしてくれたとしても、意味はないだろう。


 悲観的に考えすぎか?

 いや、そんなことはない、冷静に考えよう。

 人間のエルフの関係は今までのことで、全然よろしくないのはよくわかった。


 そして私自身には国籍不明、常識皆無の人間というレッテルが貼られている。

 厳密に言えば異世界人だからこの世界の人間とも違うのだが……。

 そんなことはエルフからしたら知ったことではない。

 いや、逆に不審に思われるだろう。


 先程のレミアさんだけ見てもそれは明白だ。

 レミアさんの反応は中立といった立場あっての反応と見るべきだろう。

 私を邪魔者としか見てない他のエルフたちは、嘘つき野郎とでも思ってるのではないだろうか。


「……レミアさんから考えて、自分がどうなると思いますか」


「そうですね……エレミアも頑張ってますし。

 自分もエレミアが好意を見せているあなた様を放り出そうとは思ってません。

 今のところは、ここに置いて様子を見ることになるでしょう。

 それに、あなた様がこの世界の他の人間たちとは違うのはわかりましたから」


「そう、ですか」


 レミアさんのその言葉を聞いてそっと胸を撫で下ろす。

 別に良い状況ではないが、身を休められる場所を得られると言われたのは嬉しい。

 エレミアは正直、気を簡単に許しすぎだとは思うけど。

 レミアさんにも何とか最低限の信用は得られたのだと。

 何とかやっていけそうとも思った。


「それに、神託もありましたので」


「――神託?」


 ――その単語を聞くまでは。


「……神託というのは?」


 心なしか、自分の声が少し低くなったのを感じた。

 何の根拠もない疑惑が頭の中に過ぎていく。

 そういえば、何で私はここに来られたのか、理由は何なのかについて何一つ考えてなかった。


 もし、今までのことに全部見えざる手が動いていたとするならば。

 それが、今のこの状況を作ったとすれば。

 いや、そこまで行かずに目の前の状況だけ見てもそうだ。

 結局、レミアさんが今、自分を簡単に信じたのは全部――――。


「この教会は我々、エルフの神である《フォレスト》様を祀る場所です。

 その《フォレスト》様から昨日、神託がありました。

 《異世界人を名乗る男が来訪したら降神の場へ案内せよ》とのことでした」


「そう、ですか。降神の場というのは?」


「我々が神から御言葉を預かる時に使う場所になります。

 教会という時点で既に聖域と言えますが、降神の場はその中心と言えるでしょう」


 神は私がここに来ることをわかっていた。

 そして、私がここに来ることを決めたのは二日前。

 ということは、あの神は私がこの世界に来た瞬間から見てたということだ。

 私の行動と会話の全てを。

 いや、もしかしたら、ただ見てるだけではなかったのかもしれない。


 確かなことなんて何もない。

 この考えだってただ考えすぎという可能性もある。

 ただ一度考えたからには、もう気にせずにはいられない。

 疑わずにはいられない。


 こんな誰も味方のいない場所と、誰が何を考えているかもわからない状況。

 表面に見える行動すらそうするように仕向けてる『裏』を感じてしまった以上は。


「それで? 今から自分はその《降神の場》というところに行くのですか?」


「構いませんが……まだ食事もされてないのに――」


「すみません、こっちから先に確認させてください」


「……わかりました。自分に付いてきてください」


 そう言ってレミアさんは自分に背を向けてどっかに歩いていった。

 私はそれに付いて行く。

 彼女がどんな表情なのかは後ろからは確認できない。

 そもそも《あの言葉》以降、彼女の顔を直視しなかったような気がした。


 今まで何とか保ってきた仮面が崩れ掛けてる気がした。

 何とかなるべく気さくな態度を取ろうとしていたのに、今になってそれも崩れた。

 正確に言うと、やる気が失せた。

 わざと目を逸らしていた孤独が心の奥から顔をあげる。


 誰にもこの孤独を話せない。

 理解してもらえない。

 いや、それ以前に《敵》に弱さを見せてはならない。

 この場に私の――いや、俺の《味方》なんて存在しない。

 そのことを肝に銘じようと心に決めて、ただ前を歩いた。

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