15.向き合うことに意味があるなら ②/神685-5(Imt)-2
目の前の神三柱を前にして、考えを整理する。
さあ、どこから始めれば良いのだろうか。
疑問は尽きないし、その全てに満足の行く答えを貰えるとは思ってない。
全てはヒントでしかなく、答えにたどり着くのは私自身で行うもの。
それが神のやり方だ。
私自身の問題。
そして、この世界の在り方。
今は推測でしかないけど、この世界に起こっている問題こそが、私が呼ばれた原因とも密接に繋がってると思っていた。
あのイミテーが言った資格という単語から、それは確信に変わっている。
こうも考える問題が多い場合は、スコープを絞れば良い。
一つずつ順に問題を片付けるのが一番の近道だ。
ならば、最初の問題に移ろう。
「先ずは、フォレスト」
「はい」
「先程の、絶対神からの言葉とはなんだ?
聞く限りでは、全ての神々に伝わっているかのように聞こえたが」
「そうですね、これはアユム様が来る前から……。
今年、神暦685年が始まる時から決まっていたことです」
今の年が終わりを告げ、新たな年が始まる前。
神の世界以外では感知することもできない虚無日というのが存在するらしい。
例外は認められない、全ての神が集まるその虚無日の会議。
そこで私……いや、異世界人に対する議題が絶対神オーワンから出題される。
その結果によって私がこの世界に招かれたという内容だった。
「そして、そこでオーワン様は全ての神々にこう言いました。
《神の範疇を超えない範囲で、なるべく異世界人に協力せよ》と」
「つまり、フォレストは――いや、多分これは違うんだろうな」
「はい、私はもう、オーワン様の意志とは関係なく貴方様に協力しています。
そこは心配なさらなくても大丈夫ですよ」
フォレストの言葉を聞いて、残りの二人が反応した。
イミテーは興味深いという笑みを浮かべ、プリエは普通に驚いていた。
わかりやすくも、視線が私とフォレストの間を交互に行き来している。
本当に場違い感が半端ないけど、とりあえず無視して考えを進めよう。
年に一度、全ての神が集まる会議。
おそらく、それ相応の案件が議題として上がってくるはずだ。
その会議の場で議題として異世界人が上がってきた。
他ならぬ絶対神が出した議題だ。
他の神にどれだけの発言力があるのかはわからないが、通らないはずがない。
でも、何の理由もなくそれが語られたはずもまた、ないだろう。
きっと何かしらの理由があるはずだ。
「そして、その理由には君自身がたどり着かないといけない。
そういうことだよ、アユムくん」
「――では答えてもらおうか」
「何を? はっきり言ってくれないと、お姉さんわかんないよ?
それと、もう敬語はやめるの?」
「お前らのような神々に払う敬意は上っ面以外にない。
今のところ、フォレスト以外の全員が同じだ」
「へえ、本当に傲慢ね。私でも、あんたくらいは捻り殺せるよ?」
そこでいきなり割って入るプリエ。
――最初からずっとそうだ。
この神は自分語りをする時以外はずっと私に対して喧嘩腰だ。
こうわかりやすい態度を取ってくれれば、こっちも悩まなくていいから助かる。
「捻り殺せる、か。
――じゃあ殺せよ、気に入らないならその自慢の力で殺せ。
神から見たら、私の命なんて虫けらのようなものだろう」
「な――」
「私は今、なるべく冷静に会話しようとしてるんだ。
わかったか、自分しか眼中にない空っぽ頭野郎が。
私が気に入らなければ殺せ、そんな覚悟もなしでここに来たと思ってるのか。
それでもなく、会話する気すらないなら隅っこで黙ってろ」
「こ、こいつ、さっきから黙って聞いてれば――」
「プリエ、君、本当に邪魔なんだけど。
もう用がないなら帰ってくれない?」
最後の一言は私でなく、イミテーだ。
それを聞いたプリエは結局、黙って何も言えなくなった。
感情だけが込み上がってくるのか、不満顔は晴れる気がしない。
そんなプリエを見て、得意顔でこちらを見るイミテー。
えっへん、とでも言いたげな誇らしげな顔をしてる。
それを見る私は、ただ冷たく冷めるだけだ。
正直、今のプリエが私ならすでにここから飛び出していた。
イミテーも、仲間意識はないのか?
流石に言い過ぎではないのか?
ここで笑ってみせるその性根が気に入らない。
プリエもプリエだ。
別に私が気にする必要はないけど、いくらなんでも可哀想に見えてきた。
こう見えても神――穀物と活力を司るとか言わなかったか?
ここまでして、一体私に何を求めようと言うんだ。
――――止めとこう。
今は自分の問題に集中する。
一つずつ、順を追って解決していく、それしかない。
「――話を戻す、聞きたいのをはっきり口にしろと言ったな。
先程、お前は私に言った。
この世界に来る以前から私に、異世界人に興味があったと」
「そうだね」
「恐らく、これは例の会議の場で決定されたはずだ。
でも、私という人間が名指しで指定されたとは思えない」
「へえ、理由を聞いてもいいかな?」
「簡単だ、私自身には何も特筆すべきことがないからだ」
元の世界で私は、特筆することは何もない普通の人間だ。
大学を卒業し、やっと入った会社で一生懸命、仕事を学んでた。
やっと一年が過ぎて、仕事にも慣れてきた頃だったんだ。
パソコン関係の仕事だったから、業務の知識をこの世界で活かせるはずもない。
スマホでソシャゲとかは回してたけど、それだけだ。
運動も特にしてないし、顔は――良くても中の下ぐらいじゃないかな。
後は、失恋をしたことがあることくらいだ。
「へえ、君、彼女いたんだね」
「――関係ない話を持ち込むな。
異世界を夢見てたことだけは認めよう。
でも、今どきの世の中だ。
夢に満ちた異世界を望む人間が私しかいないとは思えない。
もし呼ぶとしても、私なんかよりも上手く立ち回れたやつはいたはずだ」
「うん、まあ、その通りだろうね。君の推察通りだ」
満足そうに私の答えを肯定するイミテー。
その表情からは、嬉しさ以外の感情は感じ取れなかった。
いや、強いていうのなら、面白いとも思ってるように見えた。
でも、満足してるのなら、続きの内容を聞ける――――
「――でも、まだ足りない。パズルのピースはまだ一つ残ってる」
のは、まだ先になりそうだ。
「――はあ、いつから面接になったんだこれは。
別に、私は君のお気に入りになりたくて来たのではないのだが」
「答え合わせのために来たんでしょう? なら、最後まで言ったらどう?」
答え合わせ……か。
確かに、それならもう一つ残っている。
残ってはいるが、こっちは本当に推測でしか無い。
今までずっとそうだったが、これは特にそうだ。
個人的には、ここでイミテーに答えを聞いてから整理したかったのだが。
――しょうがない、無駄な時間を費やすのも好きじゃないし。
「では、話はすこし変わるが、もう一つ」
「うんうん♪」
「私が元から暮らしてた世界をどこまで知ってるかは知らないが、
その世界には、この世界のような剣と魔法の世界が物語として存在してる。
ただ、この世界との大きな違いが二つある」
「それは何かしら?」
「神と種族の関係……そして、人間と他の種族の関係」
この世界は全ての村に教会が存在する。
かつ、人間の教会には祀られている神が存在しない。
でも、それ以外の種族の教会にはその種族の神が祀られている。
私はエルフしか知らないけど、人間の教会で神を祀ってないというのは、きっとそういうことなんだろう。
そして、人間と他の種族の関係は、恐らく最悪だ。
実際のところはエルフ以外わからないが、似たり寄ったりだと思う。
誰に原因があるかはわからないけど、現実としてそうだ。
これを傍から見たらどうか。
確かに、これは妬まれても仕方ないとは思う。
人間の勢力が大きいとか、地図からして真ん中に存在してるというのもそうだが。
人間と他の種族で、教会の扱いが違いすぎるということだ。
村でも都市でも、建物の配置には必ず意味がある。
何も考えず建物を建てることは無いのだ。
特に、この世界の場合教会が村より先に来る。
教会がない村が存在しないということは、そういうことだろう。
なのに人間の都市は教会が真ん中で、エルフの教会は村外れ。
人間が教会をどういう認識で見ているのかわからない今、答えは出せない。
でも、エルフよりは生活に深く入ってるのは見ればわかる。
祀る神は存在しないけど、降神の場では該当する月の神が呼ばれる。
でも、他の神を呼べないわけでもない。
神が定められない、誰でも呼べる神殿。
そう、つまり、この人間の神殿には、他の神殿にいない自由がある。
そして――――
「――以前、私は《選ばれた種族》という単語を聞いたことがある。
それが人間を指し示すのは知ってたが、当時はそこまで深く考えてなかった」
人間は選ばれた種族。
それを言ったのが人間じゃない他の種族なら、妬みや嫉妬が混じった言葉になる。
人間が言ったら、威張るための自慢話になるだろう。
そして私にこれを言ったのは、ただ一人しか存在しない。
「フォレスト、あの時は考えすらしなかったが――
この言葉は、神たちが人間を指し示して使う単語だね?」
「……はい、そうなります」
そう、教会という面で見れば、人間の教会は自由を得ている。
それだけではない。
元々どのような物語でも、人間に対しては誰もがこう評価している。
――何も定められてない、何にでもなれる種族だと。
エルフは自分たちを誓約の種族だと言ってた。
自然を守り、約束を何よりも重んじる。
人間にはそういう制約なんて、どこにも存在しない。
自然を守らなくてもいいし、同族だろうと平気で裏切る。
約束事も、分が悪ければ平然と破るような種族だ。
つまり、何も定められてない。
これに種族として何かの名前を付けるなら、こう呼べるだろう。
「自由の種族――そうだね?」
「ああ、その通りだ」
自由の種族、人間。
そして、彼らは神に対しても自由を得た。
彼らを縛るものはこの世界で自分たちしかいない。
神の怒りを買って、教会が封鎖される心配もない。
でも、これでは選ばれた種族に対する説明にならない。
だ人間は誰にも選ばれてない、ただ自由なだけだ。
にもかかわらず、神同士で人間を選ばれた種族と呼ぶのなら。
人間は一体、誰に選ばれたのだろうか。
――決まっている、神でも何でも同じだ。
自分じゃない他の者に、選ばれたとか言ってるその根本となる感情が同じなら。
結論は一つだけだ。
妬みや嫉妬を抱くに値する存在に選ばれた。
そのような存在は、この世界で一人しか無く。
この答えは、私がここに呼ばれた理由の一つでもあるはずだ。
「どうだ、探求の神。私の推察は、お前の眼鏡に叶ったのか?」
「――――完璧!
ああもう、本当に素敵だわ!
私が面倒見てあげるから、私と一緒に過ごさない?
大丈夫、悪いようにはしないから!」
「ふざけるな、駄女神。
お前なんかと一緒に過ごす気はない。
そして、眼鏡に叶ったのなら教えろ。
その会議の顛末――いや、異世界人に対してどういう話が出たのかを」
今まで一度も動じなかったイミテーが、ここに来て初めて動きを見せた。
顔を赤くして、全身を震えながら自分で抱きしめている。
恍惚とした表情と、体のラインがはっきりと見えるインナー。
第三者が見たら、この蠱惑敵な姿に目の置き場がなかっただろう。
でも、今の私にそんな気分は起きなかった。
起きるはずがない。
どこまでも人を下に見ているような、あの態度。
神だからか、或いは背負ってる者がないからか。
興味もないし、知りたくもない。
私が知りたいのは、この場所に来てから何一つ変わってない。
感情の諸々を込めて、イミテーを睨む。
視線を受けたイミテーは一度、咳払いをしては姿勢を正した。
「そうね、私も神です。
貴方は見事に私の問いを乗り越え、私の想像以上の成果を見せてくれた。
なら、私もそれに答えるとしましょう」
――――あの会議で交わされた、異世界人に対する議論の全てを。




