72- ──親父──
シンは、ロサンゼルス・ブールバードにあるホテルの一室のソファに座り、世界中から流れてくるニュースに目を通している。
「ただいまー!」
部屋の玄関からリエリの元気な声が聞こえた。
「カナと一緒にショッピングしてきた! ロスってオシャレな店多いね~! あと、フェルナンドバレーで名前忘れっちゃったけど、セレブ見たよ」
「……へぇー」
「こら! 興味持て!」
リエリはシンのソファに飛び込み、シンの耳を引っ張った。
「イタタ」
「ねぇ、シン。今日はどれだけ集まったの?」
リエリがそう言って、シンの首に指で円を描くと、シンはくすぐったそうに肩に顔を寄せる。
「今日は、……二個。合わせて、二十八個」
「だいぶ集まったね。能力って、全部で何個あるんだろう?」
「十五日にウイルスを仕込んで、十九日が十一個でピーク、その後は右肩下がりに下降してる。遮断通知が来た国は、六ヵ国、能力の種類は五種類。だから、おそらく成り行きでいけば三十個あると思う」
「ってことは、あと、二個ね!」
「たぶん。まぁでも、狂人のことだから何個用意してるか……」
「狂人?」
「親父のこと」
「なんで、シンのお父さんが出てくるの?」
「ん? だって、能力は親父が開発したものだから」
「――へ? ――えぇぇえええ!? な、なん、なんでどういうこと? ……なんで早く言ってくれなかったのよ!?」
「言ってなかったっけ?」
「は、初めて聞いたわよ……」
リエリは口を開いたまま、呆れた表情でシンを見据える。
「……シンのお父さんって、何者?」
「ビットの開発者」
「……。ちょ、ちょっともう話についていけない」
リエリは頭を垂れて、首を左右に細かく振ると、少しの間、動きを止めた。
「……ビットの開発者ってことは、能力って、もしかしてビットに関係があるの?」
「そうだよ?」
「そ、そうだよって」
「能力の発動は、間違いなくビットが媒介になってる。実際、注射前の小学生も一ノ瀬の部下と同じように、そもそもデリーターの対象リストに表示されない。親父はビットを開発してたから、不正アクセスするためのバックドアも作成可能だろうし、ここ十年は狂ったように研究してたらしいから、何かしらの研究成果を『能力』としてまとめたんだと思う」
「……前にシンがネット接続うんちゃらって言ってたのは、そういうことだったんだ。……い、いつからお父さんが能力の開発者だって知ってたの?」
「もしかしてって思ったのは、最初にデリーターのサイトを見たとき。家に飾ってある花の絵と同じ花の絵がサイトにあったから」
「……。はは、は、早く言いなさーいっ!!」
リエリは目を見開いて、いつもよりかなり大分強めにシンの耳を引っ張った。
「イッタタタタ」
「シンのお父さんは、なんで能力をつくったの?」
「さあ? ……狂人の考えることは分からないよ。親父のことなんて知りたくもないし」
「……。シンのお父さんも、まさか自分の息子が能力を全部回収しちゃうだなんて、予想してなかっただろうね」
「……」
「――あ、当たり前だけど、シンが能力を回収し始めてから、一気にアムのニュースが出てこなくなってきたね。でも今日のニュース見ると、犯罪が増え始めたとか、色んなとこで書いてあるよ」
「刑務所からの脱獄が世界中で起こり始めてる。報道を知った囚人が、やられる前に何とか逃げ出そうとしてるんだと思う」
「……どうするの?」
「また回るよ、世界中を。デリーターだけを使って、囚人達を殺す意思はないことを示さないと――」
――突然、「ジリンジリン」というチャイム音と共に、シンの視界上部に大きくメッセージが表示された。
【〈速報〉東京メガゲートシティで暴動発生 受刑者約五十万人以上が逃走】
「……メガゲートシティで暴動が起きたっていう速報が出た」
「わ、私にも緊急速報がきた。えぇ? ご、五十万人!! …………が逃走って!! むちゃくちゃじゃない…………」
「すぐ日本に行かないと」
「で、でも、あの女がそんな施設作ったからでしょ? 自業自得よ! あの女は、デリーターもインサーターも持ってるし、部下もいるんだから自分で何とかさせればいいわ」
「一ノ瀬はもう、能力を持ってない。日本の能力は、俺が全て回収したから」
「……」
「一般市民が大勢被害に合う。君も来てくれれば、鎮圧できる範囲が二倍になって、事態をすぐに収拾できる」
「……」
「既に、職員が数百名殺されてるし、拳銃も大量に奪われてるはず。奴らは、捕まったらアムに殺されると思ってるから、失うものは何もない。歯止めが何もないんだよ」
「……わかったわ、行く。シンの頼みだし、他の人も助けないとだし。……あの女には、土下座で感謝してもらわないとね」
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