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6 - ──確認実験──

2091.06.21 Thr. 11:47 JST



「〝完了〟……あ、……〈2091〉が消えた。――誰かのファイルを消した?」


 教室がにわかに騒がしくなる。

 シンも教室の変化に気付き、視界中央を覆う画面を右隅に寄せて教壇を見た。


「……あぁ? 画面が……消えた。…………おい……なんだこれよ。……データが消えてるじゃねぇか!! クソ!!」


 教師の男がひどく動揺した様子でそう声を上げた。


「ちょ、ちょっと一旦、授業は……。いや、残りも、そ、そんなに時間ないからな。今日はもう、残り時間は自習にするから、お前等しっかり勉強するように!」


 教師の男が教室のドアを勢いよく閉めて出ていくと、教室は一気に喧噪に満ちた。

 シンは目を見開いまま固まって、ただ教壇に顔を向けている。


「ゴトウは、『データが消えてる』と確かに言っていた……。まさか〝ビットの保存データ〟でも消したのか、俺は? ──いやないない。セキュリティ上あり得ない、不可能」


 シンは自身を納得させるようにそうつぶやいた。



「………………」



 しばらく考え込んだ後、シンは突然後ろを向き、談笑中の男子生徒の腕を掴んだ。


「キムラ! ゴトウって、今何歳?」

「お、おい、なんだよ。いきなり」

「何歳?」

「はぁ? 知らねーよ、そんなの」

「……そうか」

「なんだお前、急に元気でたじゃん。ずっと暗かったのに」


 シンは、愛想笑いを浮かべ、掴んだ腕を力なく離しながら前に向き直す。


「確か、四十四だよ、ゴトウ」


 シンの後方から、キムラとは別の男子生徒が言った。シンは声の方向に一瞬だけ振り向き「ありがとう」と返すと、机に両肘をついた。


「ゴトウは十四のときにビットを入れたと言っていた。今、四十四、――三十年前。二〇六一年はビットの保険適用開始時期……年のリストが二〇六一年からしかないのは、それが理由か? ビットを注射する前の日付には、情報を入れられるわけもない……か」


 シンの瞳は、授業中とは別人のように生き生きとしている。シンは再びデリーターの画面を視界右端から正面に引っ張り、方向・距離・シリアルナンバーが表示されている最初の画面のリストをあさり始める。


「…………さっきあったリストがない。さっきは方向が〈↖〉、距離が〈6・5〉、シリアルナンバーの頭五桁が〈AFFBN〉ってのがあった。――――ゴトウがいなくなったらリストも消えた……まさかそのままゴトウのいる方向と距離って意味……」


 シンは突然、矢印が真後ろ、距離が〈0・8〉のリストを掴みながら後ろの席に振り向いた。すると、真後ろを向いていた矢印は、グッと方向を変え正面を向いた。


「変わった……じゃあ、シリアルナンバーはゴトウを示す番号か! ……〈AWVXS〉がやたら多いのは、同じような奴等が多い――生徒を示してる? 何個か〈AWVXS〉ではないものがあったのは――ゴトウみたいなのが数人いるということ――教師だ。教師だけが生徒とは違う頭五桁のシリアルナンバーを持っている、なぜ違う――年が違う……あぁ分かった。そういうことか」


 ぶつぶつとつぶやくシンに周囲の生徒は奇異の目を向けているが、シン自身は特段気にする様子もない。


 シンは窓から見える花弁一つない桜の木に顔を向け、しばらくの間、抜け殻のように動きを止めた。



 しばらくして、シンはようやく状況を飲み込んだ様子で、再度デリーターの画面に顔を向けて、憑りつかれたように調べ始める。


「……ん、さっきあったか? こんなボタン」


 シンは年月日のリストの枠外上部に、二つのボタンが現れていることに気付いた。一つが《BIT》と書かれた乳白色のボタン、もう一つが《BRAIN》と書かれた濃灰色のボタンで、文字が読みづらい。


 シンの指が迷いなく濃灰色の《BRAIN》に向かうと、ボタンの色は乳白色に変わり、入れ替わるようにして《BIT》ボタンが濃灰色になった。それと同時に、年月日のリストが若干動いてすぐに止まった。



挿絵(By みてみん)



「少し、変わった?」


 シンはさきほどと同じ要領で年月日リストを開いていくが、さきほどとは異なり、日付リストの左端には一つも《+》ボタンはなく、それ以上リストを展開できない。


「〝BRAIN〟って、単純にそのまま、〝脳〟のこと? いや……まさか……あり得ない。そんなことできたら……でも、お遊びで試してみるか。――誰に?」


 シンはゆっくりと廊下側に首を振る。「まーたレトロなもんであいつら」とつぶやきながら目を僅かに細めた。視線の先には、席に座りうつむく少年と少年を取り囲んで座る三人の少年がいる。


「おい!! 昨日のリエリ見たか?」

「見た見た! マジすげぇよな!!」

「どう見てもやらせじゃなかったよな!」


 少年三人は興奮気味にそう言いながら、輪ゴムを使って親指と人差し指で指鉄砲をつくり、うつむく少年に向かって次々に当てていく。輪ゴムは、うつむく少年の顔や頭に当たり、音もなく床に落ちていく。


「冤罪を見抜くは、未解決事件は解決するは、もう神がかってた!」

「しかもあのルックス! 黒髪ツインテ!!」

「それな!」

「ああ、一発やりて~!!」


 うつむく少年は、取り囲む少年三人の会話に一切入ることなく、ただ下を向いて宙をタップしている。


 シンの視線は、方向・距離・シリアルナンバーのある画面と三人の少年のうちの一人との間を数回行き来した。そしてシンは一つのリストを選択した後、続いて表示された年月日の画面で〈2091〉〈06〉を選択して色を反転させた。


《DĒŁĒTĒ》ボタンが淡い赤色を帯びて点滅を始める。



「……あいつらで試すか」



 シンの人差し指は、点滅する《DĒŁĒTĒ》ボタンの僅か上で触れずに一瞬止まった後、ゆっくりとボタンの上に乗った。



 【All done】




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