5 - ──感染結果──
07/24)挿絵追加しました
2091.06.21 Thr. 11:43 JST
シンは表情を曇らせて、視界を占拠するメッセージ画面の《×》ボタンを押した。画面は、モザイク調の視覚エフェクトで崩れるように消えていく。シンは視界の右下に視線を送り、僅かに目を細めた。
「……この画面――さっきの影響か。マジどんだけ強力なウイルスなんだこれ」
シンの視界の右下には、さきほどまでなかった画面が表示されていた。画面は左から、〈Direction〉、〈Distance〉、〈Serial Number〉の列名を持つ三列で構成されており、それぞれの列名の下には、〈→〉などの矢印記号、〈0・9〉などの数字、〈AWVXS―30601―37027〉などの記号が一組のリストとなって、何行も続いている。
「方向、距離、シリアルナンバー……?」
それぞれが何を意味するのか、シンは理解し難そうな表情を浮かべている。
「〈396〉っていうのもある? ……あぁこれはリストの行数か」
シリアルナンバー列の右上余白に表示された数値を見て、シンはそうつぶやいた。
シンは物色するように何度も画面を下にスクロールしては上に戻していたが、しばらくすると、リストを中腹辺りでピタりと止めた。
表示されているリストのうち、シンが止めた一つのリストだけが、シリアルナンバーの頭五桁が〈AWVXS〉ではない。シンは更に下にスクロールしていき、同様の例外がある箇所で、何度か指を止めた。
少し興味を持った様子のシンは、方向が〈↖〉、距離が〈6・5〉、シリアルナンバーの頭五桁が〈AFFBN〉と表示されている例外の一つをタップした。その瞬間画面が消え、代わりにもう一つの画面が現れる。
現れた画面には、一行目に〈ALL〉というリストがあり、二行目からは、〈2061〉から〈2091〉までの年を表すと思われるリストが順番に並んでいる。
全ての年リストの左端には《+》ボタンがあり、シンが〈2061〉のリストの《+》ボタンを押すと、〈2061〉のリストの下に〈01〉から〈12〉までの月を表すと思われるリストが現れた。
年リストと同様、全ての月リストの左端にも《+》ボタンがあり、シンが〈01〉のリストの《+》ボタンを押すと、〈01〉のリストの下に〈01〉から〈31〉までの日付リストが現れた。日付リストは、年リストと月リストとは異なり、《+》ボタンがあるリストとないリストがある。
シンが押していった《+》ボタンは、全て《-》ボタンに表示が変わっており、シンが年リスト〈2061〉の左端にある《-》ボタンを押すと、表示されていた月リストと日付リストは全て消え、〈2061〉の《-》ボタンが再び《+》ボタンに変化した。
シンは、画面上で親指と人差し指の間隔を離して画面を拡大すると、親指でリストを下から上に一気にスクロールし、最終行の年リスト〈2091〉の左端にある《+》ボタンを押した。すると、現れた月リストは他とは異なり〈01〉から〈06〉までの数字しかない。シンが更に月リスト〈06〉の左端にある《+》ボタンを押すと、表示された日付リストは〈01〉から〈21〉まで、つまり今日までしか表示されなかった。
シンは頬に拳を当て、頷きながら今日の日付〈21〉と表示されたリストの《+》ボタンにゆっくりと人差し指を置いた。
――すると《+》ボタンは《-》ボタンに変わり、直下に二つ、〈モンティ・ホール問題・解説〉と〈モンティ問題・設定変更Ver〉というリストが新たに表示された。
「授業の共有フォルダ?」
シンは少し難しそうな顔をした後、手当たり次第に他のリストも開いていく。リストには、〈東京出版 高等学校・確率論A〉や〈光教書院 新版/高校歴史年表〉など授業に関連する項目、〈二〇七〇年一月 ハワイ旅行〉などプライベートな項目など、大量かつ雑多な種類がある。
シンが年リスト〈2091〉の左端の《+》ボタンではなく、リストそのものを二回素早くタップすると、リストの背景色と文字色が反転表示された。それと同時に、リストの左横に《DĒŁĒTĒ》というボタンが新たに出現し、押下を促すかのように点滅を開始した。
「……デリート?……リストを消せる……のか?」
シンは躊躇しつつも、淡い赤色を帯びて点滅する《DĒŁĒTĒ》ボタンに指を乗せた。直後、視界中央にメッセージ画面が現れた。
【All done】