48- ──美容師シン──
2091.11.10 Sat. 10:12 JST
シンとリエリを乗せたタクシーは、二人を全面ガラス張りの巨大ビルの地下に運んでいく。
「シン、メイクさんらしく、ちゃんと振る舞ってね。格好はバッチリそれっぽく決まってるよ」
「……あ、ああ」
シンは、白のインナーにネックレス、青のジャケットで身を固め、爽やかな印象の格好をしている。
タクシーは地下三階まで進み、空いている駐場スペースに車体を入れた。
「ヨシ、行こっか!」
「ああ」
シンがリエリについていくと、すぐに〈関係者出入口〉と書かれた入口が見えた。入口前には警備員が二人、その奥には受付が見える。
リエリは歩きながら宙で指を何度か動かし、入口前に立つ警備員に向け、手の平をスッと押し出した。
「どうぞ、お通りください」
警備員二人はそう言うと、揃って頭を下げ、奥に誘導する手ぶりをした。
受付の女性職員が手の平を二人に向けると、シンの視界には、〈入場許可証〉と表示された画面が現れた。女性は、爽やかな笑顔でエレベーターの方に腕を伸ばした。
「楽屋は、七階西に用意してございます。何かご不便等ございましたら、遠慮なく申し付けください」
「はーい、ありがとうございまーす」
受付の女性にリエリは元気よく返事をして、シンと共にエレベーターに向かった。
七階に到着すると、リエリは慣れた様子で迷いなく歩き進め、〈リエリ 様〉と書かれた部屋の前で止まった。リエリは、後ろにいるシンに振り向いて言う。
「どうぞ、メイクさん」
「……どうも」
楽屋の中は二十平米ほどの広さで、大きな鏡を備えたメイク台が一つ置いてある。
「もうすぐマネージャーが来るから、紹介するね。適当にメイク道具を準備するフリしてて」
「ああ」
リエリの言う通り、すぐに楽屋をノックして一人の女性が入ってきた。シワ一つない白のスーツは、しっかりした印象を漂わせている。
「おはよう、リエちゃん」
「おはよう、マッキー」
「司会のクダンさんに挨拶忘れずに行ってね」
「うん、わかってる。あとでちゃんと行く」
「よろしくね。――そちらの方は? 新しいメイクさん? ……にしては随分若いわね?」
「うん。この人、クレイ君。優秀なメイクさん。この前行った美容院で見つけたから、チェンジしてもらったの」
「あらそう。クレイさん、マネージャーのマキノです。どうぞよろしくお願いしますね」
マキノは、そう言いながら爽やかな笑顔で会釈をした。
「ど、どうも、こんにちは……クレイです」
シンは精一杯といった様子でそうつぶやいて、ぎこちなく僅かに口角を上げた。マキノは再度会釈をして部屋から出ていく。
「ふぃー、マッキークリア」
「疲れる。これ」
「でも、後は収録のときに、スタジオ奥で待機してくれるだけでいいよ」
「わかった、頼んだよ」
「はい、リエリさん頼まれました!」
リエリは胸元に手を当て、いつもの得意げな表情を浮かべた。




