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37- ──This record is locked──

2091.11.08 Thr. 11:18 JST



 二人は病室を出た後、ナースステーションまで戻った。ナースステーションの向かいには、ベンチがコの字型に配置された小さな休憩所があり、二人はそのベンチの奥に並んで座った。


「はぁ~はぁ……。ヨコヤマさん命に別状はないみたいで、とりあえず安心した~」


 リエリはそう言って座りながら、大きく伸びをした。


「ヨシ。安心したとこでイッチョやりますか。……ヨコヤマさん、ちょっと頭の中を拝見します。ごめんなさい」

「ああ、頼む」


「えっと、こっちの方向に、あれ? たくさん人がいる……うぅ! しまった!! ヨコヤマさんの病室の位置を地図アプリでピン止めしてなかった。……シン、どうしよう? もう一回病室行く?」


 リエリは頭を抱えて眉毛をハの字に曲げ、困惑した表情でシンを見た。


 シンは頭をポリポリとかいて、視界に浮かぶ院内マップを見ている。マップには、二人の現在点が二重丸で示され、北東方向に四〇・六メートルと記載された地点には、ピンのアイコンが立っている。シンは、その画面をリエリに向かって手の平でゆっくりと押した。


「はい、これ」

「さ、さっすがシン。やっぱりモテる男はマメな男!!」


 そう言って、リエリはシンの首に人差し指でクルクルと円を描いた。


「くすぐったい」

「フフフ」


 リエリは満足気に笑みを浮かべながら、宙で指を何度か動かしていく。


「出てきた、ヨコヤマさんのリスト。昨日の記憶は――えっと一番下よね……あ! あった!。よし、見てみるね。…………へ? ……へ? なんで? ちょもう一回……」

「どうした?」


「……見れないの、ヨコヤマさんの記憶が。今までこんなの、シンだけだったのに――もしかして、ヨコヤマさんも能力者なの?」

「メッセージは出た?」


「え? うん、なんか出てたかも」

「どういうメッセージか転記して送って」

「うん、ちょっと待って、今送るね」


 リエリが宙で数回タップするとすぐに、シンの視界のチャット画面にリエリからのメッセージが表示された。



 【This record is locked】



「――初めて見た。このメッセージ」

「このメッセージが、なにか意味があるの?」


「覚えてるかな? 能力者に能力を使うと、【You need permission to perform this action】っていうメッセージが表示されてたんだよ」

「ん~、そうだったかも……。でも、そのメッセージどういう意味なの? 前、適当に翻訳アプリに投げてみたけど、翻訳された日本語が難しくてよくわかんかった、へへ」


「【操作を実行する権限が必要】っていう意味。つまり、『お前じゃ、その操作はできないよ』ってこと」

「ほえ、そういう意味だったんだ――今回のは?」


「そのまま【レコードが〝LOCK〟されている】って意味だと思う。つまり、『記憶がロックされていて、操作できない』ってこと。二つのメッセージは、能力が使えないことに変わりないけど、できない原因が違う――だから、ヨコヤマは能力者じゃなくて、俺達とは別の能力者の力で眠ってる可能性が高いと思う」


 リエリはその言葉を聞くと急に顔を引き締めた顎をひく。そして唇を噛みしめ、手を握り締めた。


「…………絶対、絶対、刑務所襲ったあの覆面男でしょ! ヨコヤマさんをこんな状態にした能力者って」

「おそらく」


「ヨコヤマさん、よくなるの?」

「分からない。でも、記憶がロックされているって意味からすると、ヨコヤマが目覚めないのは、それが理由の可能性が高いと思う」


「どうすればいいの? 覆面男を捕まえて、能力を解除させればいいのね?」

「まずそれが先決だと思う。でも、捕まえたとしても、解除させられないかもしれない」


「なんでよ!! 無理にでも懲らしめて、解除させればいいのよ!! シンと私なら簡単じゃない、法律だって通したんだから! なんだってできるわよ!!」

「デリーターは《DĒŁĒTĒ》ボタン一つだけ、セレクターも《SELECT》ボタン一つだけ。と考えると、覆面男の能力はロッカー? も《LOCK》っていうボタン一つだけかもしれない」


「……じゃあ、じゃあ、どうすればいいの?」


「《LOCK》ができるなら、論理的には《UNLOCK》ができる能力者がいても不思議じゃない。《LOCK》あっての《UNLOCK》だから、普段はなんの役にも立たない能力だと思う。だから本人は、自身が能力者だということ自体認識してない可能性もある。俺も実際に検証してみるまで、デリーターをとても信じられなかったし」


「じゃあ、《UNLOCK》の能力者を見つければいいのね?」


「でも、そうは言ったけど、いるかどうか分からない。まず覆面男を捕まえることを考えよう。このままだと、軽犯罪者や冤罪まで含めて日本中の受刑者が一人残らず殺されることになる。《UNLOCK》の能力者も同時に探せればいいけど、まずは、覆面男だ」


「……分かった、シンがそう言うなら……。絶対、絶対覆面男を見つけてやるんだから! なにがメサイアよ! クソガキンチョが好きそうなダッさい名前付けちゃって、センス無さすぎよ」



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