31- ──結実──
2091.11.02 Fri. 10:02 JST
「シン! 来たよー!」
リエリの元気のいい声が長い廊下を超えて、シンのいるリビングまで届いた。
シンがリビングのドアを開け、玄関にいるリエリを出迎えに行く。
リエリに腕を組まれ、連行されるようにしてシンがリビングに戻ると、二人は三人掛けのソファに並んで座り、一端を一人分空けた。
「ねぇシン。私、超がんばってない? 昨日なんか、あのタカビーな女議員に『私は、神の眼に賛成ですよ』ってはっきり言わせたんだよ! すごくない?」
「すごい」
「でしょー」
リエリは得意げな表情を浮かべて、シンの肩に寄り掛かった。
「じゃあ、シン。見よっか、リエリさんの頑張りの集大成を」
「ああ」
シンがそう返すと、リエリは何度か宙で指を動かした。
すぐにシンの視界には【リエさんから動画共有再生のリクエストが届いています。許可しますか?】というメッセージ画面が表示された。シンが《OK》ボタンを押すと、新たに画面が立ち上がり、動画が流れ始めた。
「あ、ちょうど演説? みたいなのが終わったみたい。長いよねこれ、家出る前もオジサン達しゃべってたよ」
「これから投票だよ」
* * *
まばらな拍手の中、自席に戻る議員の背中が映し出されている。並列に束ねられたマイクに向かい、議場の演壇後方に鎮座している議長と思われる男が口を開いた。
『これにて、討論は終局いたしました。これより、採決をいたします。まず、行政機関の保有する情報の公開に関する法律、の一部を改正する法律案の採決をいたします。本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います』
画面は議長から議場全体を見渡すように、徐々にズームアウトしていく。
『まもなく、投票を終了いたします。………………これにて、投票を終了いたします。投票の結果を報告いたします』
議長の男は淡々と進行していく。
『投票総数、二百十四。賛成、二百十四。反対、ゼロ。よって本案は、全会一致をもって、可決されました』
画面には、深々と頭を下げる議員の姿が映し出された。それと同時に、大きな、しかし、淡々とした拍手が起こる。
『次に、警察官職務執行法、の一部を改正する法律案の採決をいたします。本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います』
何人かの議員が平坦な口調で「賛成ー」と声を伸ばした。
『まもなく、投票を終了いたします。………………これにて、投票を終了いたします。投票の結果を報告いたします。
投票総数、二百十四。賛成、二百十四。反対、ゼロ。よって本案は、全会一致をもって、可決されました』
さきほどと同様、深々と頭を下げる議員の姿が映し出された。拍手はやや小さくなっている。
「次に、健康保険法、の一部を改正する法律案の採決をいたします。本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います……』
* * *
「……ねぇ、シン?」
「ん?」
「いつまで経っても、神の眼の話が出てこないじゃない?」
「今、二件通ったよ」
「へ? さっきのが神の眼の投票だったの?」
「そう」
「えぇっ? 分かりにくいっ! そんなの『神の眼に賛成ですかー? どうですかー?』って一回聞けば済む話じゃない!」
リエリは頭を抱え、大きな目を更に見開いて仰け反った。
「実際に法律化するには、色々既存の法律を変える必要があるんだよ」
「ふぅ~ん。でもなんか時っ代遅れ~」
「……上手くいきすぎて違和感が残る」
「フフ。リエリ様が有能すぎるからね~!」
「ホントにそうかも。そうじゃないと、ここまで上手くはいかない。ゆすることができた議員数と世論から考えて、賛成が過半数に達するとは思ってた。でも、最後まで反対してた大きな野党まで賛成に転じたよ。反対数ゼロの圧勝……」
シンは考え込むようにじっと画面を見つめた。
「へへ~ん。あとどれ位で神の眼が通るの?」
「あと、九件あるはずだよ、採決」
「……。わ、私、ちょっと休むね。そういえば、今日ちょっと早起きしちゃったし」
リエリはそう言うと、シンの肩に頭を寄せて瞼を閉じた。リエリは疲れているのか、すぐに小さな寝息をたて始めた。




