第1話-強盗退治?-
「ないな。もしかして売り切れか?」
田舎町のとあるコンビニの本売り場で、しゃがみながらそう呟く少年、夜雲 暁。
「はぁ~しゃあない、今度にするか」
暁が探しているのは週間少年ジャンクという漫画。人気漫画で毎週欠かさず読んでいる暁は、今日がその発売日なので下校中コンビニに立ち寄って本売り場を物色したがお目当ての物は見当たらず少し残念な気持ちになる。でも今度買えばいいかとすぐに切り替え立ち上がり、なにも買わずに店内から出ようと歩いたとき、何者かが暁の背中に固い何かを当てる。
「待て、何処に行く気だ?」
「ですよね~」
当てられた暁はため息を吐き、自分のとことん運の悪さに肩を落とす。そして、ちらりと後ろを見るとそこには顔が分からないように黒いマスクを被ったジャージ姿の男がいた。
そして、背中の所を見ると拳銃のようなものが暁の背中に当てられていた。それもそのはず、現在このコンビニでは強盗が入ってきているわけなのだから。
現実逃避をやめた暁はなぜこのコンビニに来てしまったのかを後悔しながら高校でのことを思い出した。
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「ふぁ~あ、寝み~。授業中寝てたんだがな。きっとあれだ、夜遅くまで小説を読んでいたせいだ。ふぁ~あ」
欠伸を出しながら暁は鞄を肩に担ぎ、玄関に向けて廊下を歩いて行く。暁が前を進んで歩いていくと割られた海のように、生徒の人波が次々と左右に分かれて道を空けていく。警戒と好奇に満ちた視線をチクチクと受けながら、暁はいつものようにそんな視線を無視し歩いていた。ふと斜め左前の女子生徒二人と目があったがすぐに逸らされた。目が合うと男も女も、いつもこんなような感じなので暁は慣れていた。
それも仕方ないかもしれない。暁はイケメンの分類に間違いなく入るはずなのだが彼の目付きが鋭く、それとひときは目立つ髪の色のせいで不良と勘違いされ殆どの生徒からは避けられていた。暁はその見慣れた光景を見てまたひとつ欠伸を吐き玄関に向かっていく。
そして、学校の玄関に着き靴を履き替え校門を出たところで今日が毎週読んでいる本の発売日であることを思い出した。
「あ、今日は週間少年ジャンクが入る日だよな。コンビニに行って少し立ち読みしてから買うとするか」
そう言うと暁は帰る途中にあるコンビニに行くことにした。
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ここで冒頭にもどる。
(あーあ、他の本を立ち読みしないでさっさと帰ればよかったな)
暁は心の中でそう思い後悔しながら強盗犯にレジの前へと強引に座らされる。周囲を見てみると自分以外の人質である店員二人が不安そうな様子でいた。だけど、このとき暁以外客がいなくて偶然にこのコンビニへと来て強盗犯に出くわした暁の方がまだ運が悪い。
「なぁ、今日発売してたジャンクって売り切れなのか?」
「え、えぇと、は、はい。そうだと思いますけど……」
「はぁー、やっぱりか。じゃあ今度はあっちのコンビニに行くか」
「うっせぇぞ! 何でこれ見せられてんのにてめぇは勝手に行動したり普通に雑談はじめてんだよ! あぁ、くそ! 変なやつが居たもんだ、とにかくおとなしくしてろ!」
その運が悪い暁は拳銃より漫画の方が大事だったようだ。
そして今、外には野次馬やら警察やらが大勢いて強盗犯は出るに出れない状況になっていた。強盗犯は暁に大人しくするように言ったあと入り口付近に行き警察と口論する。
「そこの強盗犯に告ぐ、今すぐ武器を置いて出てきなさい」
「うるせー!!いいから車を用意しろー!」
このやり取りを聞いていた暁は
(バカな強盗犯だなー。車を用意したところで逃げれるはずがないのに)
と呆れた風に思っていながら暇潰しに聞く。そのとき暁は猛烈な悪寒を感じた。まるで誰かに物凄く見られているように
「う!? なっ、なんだ!?」
暁は体を震わして辺りを見る。だが見回すけどもこれといった感じはしなかったがふと、今何時か気になりコンビニの壁に掛けられていた時計を見た途端慌て出した。
(やば、もう5時15分だ! 今日は急いで帰らないとダメだったんだ!)
すると暁は先程までおとなしくしてたのが嘘のようにバッと立ち上がり入り口に向かって走りだした
それを見ていた店員達、暁が立ち上がって走ってきたのに気付いた強盗犯も口を開けて驚くが、直ぐに強盗犯は拳銃を暁に向けて止まるように呼び掛ける
「止まれ!! 止まらないと射つぞ!」
けれども暁はその命令には従わず、よりいっそう強く足を踏み込む。そして強盗犯の3歩手前で高くジャンプをしたと思いきや次の瞬間、入り口付近にいた強盗犯の顔面目掛けて
.....ドロップキックをお見舞いした
「邪魔だ!」
「ぶげっ!?」
暁のドロップキックは見事、強盗犯の顔面にクリティカルヒット。その拍子に手から拳銃は落ち、蛙を潰したような声を出した強盗犯はのけ反りながらコンビニの扉を破壊してぶっ飛び警察官の目の前まで飛んでいった。
「……あ。か、確保!」
あまりの突然の展開に周囲は唖然とし、場が一時的に氷ついたが周りの人達より一際早く状況を飲み込んだ警察官の一人がそう叫ぶと、その声で周りの警察官も無事脳内迷宮から復帰して強盗犯を取り押さえた。
しかし、取り押さえた強盗犯は目を白くして伸びていたので取り押さえなくても良かったのだが。そこでふと、この強盗犯を気絶させてくれた人にお礼を言おうと警察官がコンビニの方へと視線を移すが、そこにはもう店員2人しか居なかった。
警察官A「ありゃりゃ完全に伸びてやがる...どうします?」
警察官B 「とりあえず寝かせとけ。起きたら事情聴取だ。しっかしまぁ拳銃持った相手にドロップキックとはね」
強盗犯「ピクッ、ピクピクッ……」
警察官C 「てか、これモデルガンでっせ」