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第21.5話 人々は笑いを取り戻す

 聖竜祭の準備が行われていた。

 街の中はすっかり活気に満ち溢れ、皆が祭りの日を楽しみにしながら笑っている。

 それは大通りに面した酒場宿、『鋼の巣穴』も例外ではなかった。


 「「「かんぱーい!」」」


 ライトの退院祝いということで彼の友人達が一堂に集まり、昼間から酒を煽っている。

 特にクライブとジャンは二人で飲み比べを始めて、早い段階で酔い潰れてしまっていた。

 レジーナはテーブルに乗っている料理に舌鼓を打ち、他の人の分まで次々と平らげていく。そんな中、アネットとティキはそれぞれライトの隣に座り、積極的に彼の分の料理を確保していた。


 「ライト君、これすっごく美味しかったんだよ。今食べさせてあげるね。ハイ、あーん!」

 「ライト! そんなものよりこっちの料理の方が美味しいわよ。ハイ、あーん!」

 「ちょっとティキちゃん? 彼は病み上がりなんだからそんなお肉だらけの物を食べさせないでくれる?」

 「何言ってるんですかアネットさん。冒険者は体が資本だからこそ、お肉を食べて体力を養う必要があるんです」

 「それはもしかして自分に言い聞かせてるのかな? まあ、そっちのお肉を付けるには牛乳とかの方が効果的だと思うけれど」

 「はぁ? アネットさんこそ駄肉が付き過ぎてるんじゃないですか? あと五年もすれば垂れ始めて見ていられない状態になりますよ」


 彼女達は笑顔を絶やさないまま、徐々に険悪な雰囲気を作り出していく。

 互いに穏やかな表情をしているのに、どうしてこうも威嚇することができるのか。

 ライトは両側から飛び交う辛辣な会話に挟まれて、びくびくと体を震わせていた。


 「おっと。そういえば言い忘れていた。ティキ君とライト君は後でギルドに来なさい」


 救済の声はテーブルの料理をある程度食べ尽くしたレジーナからもたらされた。


 「あ! レジーナ先輩、もしかして……!」


 何か心当たりがあるのか、アネットが嬉しそうに微笑む。それに頷いたレジーナは、突然の召集に呆然とするライト達を見た。


 「おめでとう。二人共、今回の働きが認められて晴れてランク2に昇格だ」

 「え!?」

 「……ま、当然よね」


 ライトが驚きながら立ち上がり、ティキは不敵な笑みで薄っぺらな胸を張る。

 そんな二人の態度に苦笑を浮かべながら、レジーナはランクアップの経緯を説明した。

 今回の防衛戦に参加した冒険者達は少なからず自分より強いモンスターを相手にしている。特に大量のモンスターを虐殺したティキと、『迷宮主』を圧倒したライトの戦果は目を見張るものがあった。

 故にこの二人を筆頭に多くの冒険者がランクアップすることになったのである。


 そこまで聞いて、ライトはふとあの時のことを思い出した。


 「そういえば僕を助けてくれたあの綺麗な人って……今どうしてるんですか?」


 金色の美少女。

 そんな印象だけが残っている彼女のことを思い浮かべながらレジーナに尋ねる。その際、両側から凍てつくような視線を向けられ、ライトは無条件に震えた。


 「ああ、君と同じくらい強かったあの少女か。あの子はランク2になった後、少し調べたいことがあると言ってずっと街の外を駆け回っているよ」

 「調べたいこと……?」

 「まあ詳しいことは本人に直接聞けばいいさ。彼女も君のことを気にかけていたようだしね。……もしかしたら脈アリかもしれないな?」

 「そ、そうですか」


 レジーナは面白がるように邪悪な笑みを浮かべる。

 まるで両側の女性陣が不機嫌になることを分かっていたかのように。

 ティキとアネットは口元をひくつかせながらライトの腕を手に取った。そして意味ありげな視線を彼に送る。

 そこにどんな意味が込められているのかライトにはさっぱり分からない。ただ、言いし知れぬ殺気だけが明確に感じられる。ライトは怯えることしかできなかった。





*****



 エレノアは陥没地帯を前に佇んでいた。

 そこに残っている微かな残滓。

 漆黒の闇を嗅ぎつけて、エレノアは一人思い悩んでいたのだ。


 「……あんなの、今まで見たことない」


 全てを飲み込むような無の力。

 あれは少なくとも既存の属性魔力ではない。だとするなら、あれは一体何だ?

 まさか、彼は自分と同じ……。


 「失われた属性――精霊王の加護を受けし者?」


 しかし、この力は諸刃の剣だ。

 これを使い過ぎた先に待ち受けるものを、彼は知っているのだろうか?

 もし、かつての自分のように何も知らされていないのなら……止めなくてはならない。

 なんとしても、どんな手を使ってでも。

 エレノアは一瞬、貼り付けた仮面を脱ぎ捨てた。


 「あんな無垢な少年に力を授けた奴は……一体誰だ?」


 悲劇は自分だけで沢山だ。

 彼に自分と同じ道を歩ませるわけにはいかない。

 エレノアはいつの日か真実を知った時に感じた絶望を、胸の中で膨らませていた。


 「人間を遊び道具にしか思っていない精霊か……」


 ――ぶっ殺す。


 エレノアは狂犬のような笑みを浮かべていた。


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