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第20話 魔王VS死神

 「――黒撃ぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 僕は跳び蹴りの要領で足から【黒撃】を発動し、霧の竜巻の中に突っ込んだ。

 ぶ厚い渦の壁に一瞬だけ大きな穴が開いたけれど、僕が通り抜けるのと同時にすぐ塞がってしまう。なんだか逃げ道を失ったような気分だ。


 「オーガ系のモンスターは自己強化の魔法を使うそうだけど、お前の魔法はそんな生易しいものじゃないよな!?」

 『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 不味いな。通常の魔法は詠唱の邪魔をされると勝手に消滅してくれるんだけど、あいつは詠唱しているような素振りを見せていない。

 つまりあいつの魔法はもう発動しているか、一度詠唱を始めれば自動的に魔法が成立するタイプのどちらかだってことだ。


 「……ふぅ」


 不思議と気分は落ち着いてる。全然とは言い難いけど、恐怖もそこまで感じない。

 それに気のせいか、こいつと戦い始めてから『黒気』の扱いに慣れてきた。今ならさっきよりも強力な一撃を放てるような気がする。


 『ヴォアアアアアアアアアア!!』

 「――ッ!」


 竜巻の中心。無風の結界。

 それほど大きくない円形状の空間は、まるで僕達に用意された決闘場のようだ。

 エンペラーオーガが手のひらから見えない衝撃波を連続して撃ってくる。

 さっき僕を吹き飛ばしたのもコレか……! あの時よりも威力が増している!?


 「……くっ! 黒撃!!」


 辛うじてまだ動く左腕に『黒気』を纏って強化。耐久力を上げた状態で黒の一撃を放つ。

 だけど僕の攻撃はアイツの体まで届かない。何度も見えない衝撃波にぶつかって相殺されてしまった。


 『ヴォアアアアアアアア!』

 「くそっ……! オーガくらい……一撃で……っ!」


 僕は魔王さんの教えを思い出す。

 右手に掴んでいた『ラーテイル』を振るって、衝撃波のいくつかを斬り裂き、少しずつエンペラーオーガとの距離を詰めていった。

 あの森で生き返った時のように。ゼロ距離からの攻撃なら……きっと通じる!


 『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 「あが……っ」


 あと一歩まで近付いたその時、エンペラーオーガの体に周囲の霧が吸い込まれた。その直後に白い炎が奴の体から噴き上がり、竜巻の中心全土を業火と化す。


 『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ』

 「ぐぁああああああっ!?」


 全てを灰塵と化す白い炎。

 白鬼が操る地獄の熱波。

 これが……エンペラーオーガの魔法か!?


 「黒撃……っ!」


 僕は地面を砕いて何とか炎の海から逃れた。だけど白い炎は未だ健在。完全に掻き消すことはできず、今も尚そこら中に火花が舞っている。

 いや、それよりも問題はあいつか。


 『グルルルルル……』


 エンペラーオーガの目的が分かった。

 あいつはこの霧の力を消費することで初めて魔法を形にすることができるんだ。つまり今は魔法の待機状態。ハンデル一帯を焼け野原にする為に、周囲の霧を集めたに過ぎない。

 そして霧を完全に取り込む為にはある一定の時間が必要。だから邪魔されないように僕をこの竜巻の中から追い出したがっている。


 「これじゃ、逢魔ヶ時が終わっても全然安心できないな」

 『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 ……参ったな。

 僕は弱虫だから、できればあまり痛い思いはしたくないんだけど。

 だけどこいつがいる限りいつまで経っても終わらない。


 「だったら……やるしかないじゃないか」


 僕は苦笑を浮かべた。

 さっきの炎であちこち火傷しちゃったし、『黒気』で強化してると言ってもこれまでのダメージはちゃんと残っている。当然、体を動かすだけでもかなり痛い。

 なんで僕がこんな目に。そう思わないわけじゃない。

 だけど、頑張っている皆を見て、思ったんだ。

 僕もあんな風に、誰かを守る為に戦いたいって。


 『ガアアアアアアアッ!』

 「うわぁあああああああああああああっ!」


 僕達はお互いに接近し、直接の殴り合いを始めた。





*****



 「な、中で一体何が起きてるのよ……」


 ぶ厚い霧が収束している竜巻。その中から建物をぶち壊すような轟音が連続的に響いてくる。何度も地響きが鳴り、大地が揺れる。

 外から竜巻の様子を眺めていた冒険者達はただならぬ異変に不安を感じていた。


 「ライト……!」


 ティキの祈るような呟きも、竜巻の中から聞こえる爆音に掻き消されていた。






 『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 そこには死闘があった。

 お互いの全力を賭けて。

 刹那の必殺を拳に込めて。

 思考の全てを戦いに使って。

 一頭の白鬼と一人の人間が、ただひたすらにぶつかり合っていた。


 「こくげきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 エンペラーオーガが魔法を使うたびに漆黒の閃光で相殺する。

 逆にライトが『ラーテイル』を振るうと、相手の衝撃波で押し流された。

 僅かに掠るだけでも肌に裂傷が刻まれ、地面に赤いまだら模様が生まれる。

 魔法を常用しだした死神と、既に『黒気』の制御を可能としている魔王。

 そのどちらが一歩でも動くたびに、破壊の傷跡が残された。


 『バアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 「――ッッ!?」


 地面を抉るように接近するエンペラーオーガの豪腕。

 ライトは咄嗟に跳躍することでその攻撃を避けた。

 しかし素早い反応で動いたエンペラーオーガは、もう片方の腕でライトの足を掴み、そのまま地面に叩きつける。


 「がああああああああああああああっ!?」


 直後、爆音。

 これまでの戦闘で荒れ果てていた地面に、更に巨大な陥没痕が刻まれた。

 一瞬、ライトの意識が飛ぶ。咄嗟に体勢を整えられたのは殆ど奇跡だ。


 『ヴォアアアアアアアアアアアアッ!!』

 「~~~~っ!!」


 視界外から飛んでくるエンペラーオーガの拳を、仰け反ることで顔面スレスレで回避。ライトは伸びきった相手の腕に、『黒気』を纏わせた『ラーテイル』を向けた。

 咄嗟に思いついた斬撃は、赤黒いオーラを放ちながらその威力を解き放つ。


 『アアアアアアアアアアアア!?』


 完全に切り落とすまでにはいかなかったものの、その一撃は確実にエンペラーオーガの腕に深手を負わせていた。

 相手が怯んだ隙を見逃さず、ライトはさっきと同じ攻撃を繰り返す。


 「――黒閃!」


 漆黒の軌跡を描きながら魔王の刃が直進。

 ライト本人でも視認できない速度で繰り出された斬撃が容赦なく相手の胴体を傷付けた。


 『ヴォ……ア……っ』

 「……はぁ……はぁ……はぁ……!」


 自分以外に『黒気』を纏わせるというのは意外と大変だ。

 たまたま武器の相性が良かったおかげで体力の消耗を最小限に抑えられたが、常に全力を出しているライトにとってその行為はまさに諸刃の剣。使いすぎると自滅する恐れがあった。


 「あと……一撃……」

 『ヴォア……アアアアアアッ!』

 「あと一撃で……!」


 膝をついて呻き声を上げるエンペラーオーガ。

 荒い呼吸を繰り返す死神に止めを刺す為、ライトは漆黒の刃に赤黒いオーラを纏わせた。

 しかし――。


 『――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 「なっ!?」


 ――猛り狂ったような叫び声。

 エンペラーオーガの咆哮と共に、彼等を囲んでいた竜巻全てが白い閃光に変わっていった。

 そこから感じるのは途轍もない圧倒的な破壊の力。

 この時、ライトは一つ、自分が勘違いをしていることに気付いた。


 「まさか……この霧そのものが攻撃手段だったのか?」


 霧の正体は濃度の高い魔力。その魔力を更に凝縮されて生み出された竜巻は、ちょっとしたきっかけさえあれば簡単に暴走してしまう。

 そしてその暴走は大魔法と遜色ない威力を持っているのだ。

 魔導士なら誰もが知っている、初歩的なミス。

 彼等はこの現象を「魔力暴発」と呼んでいる。


 「……そんな……」


 魔導士ではないアネットが彼に教えられなかったのも無理ないだろう。

 なにせ、通常では意図的に魔力を暴走させることなどありえない。そんなことをすれば間違いなく術者は死んでしまうからだ。

 それこそ、自滅覚悟の自爆技。

 だと言うのに、エンペラーオーガはそれを意図的に発動させた。

 自身の命など顧みず、ただ相手を殺す為だけに。


 『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 その白き鬼は。

 最後の最後まで『死神』であった。


 『過去に立ち向かう為に、未来へと進むがいい』

 少年には願いがあった。

 その願いを聞き届け、魔王は少年に新たな力を授ける。

 それは英雄の資格。

 未来を切り開く為の確かな力。

 そして少年が力尽きる際に目撃したのは、自分の理想を体現した存在。

 英雄のような、金色の光だった。


 次回、第21話 覚醒

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