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魔王が紡いだ御伽噺(フェアリーテイル) ~avenger編~  作者: シオン
~avenger編~ 第六章「紅き天使・後編」
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第三話『earthquake&Accumulation krud』

 廃墟にいては時間が足らないと、魔界と天界の間に位置する次元の狭間、堕天使の巣窟に次元転移した漓斗。

 そこではデタラメな法則で成り立つ異空間が存在している。

 遥香のアダマスがいたような次元の狭間の中で、普通に生活している種族こそが堕天使だ。


「普通の人が見れば異空間なんでしょうけどぉ、堕天使の契約者から見ると何故か普通に感じちゃうんですよねぇ」


「そう言うものだ。ここでは法則などあってないようなもの。常識にとらわれずに動け」


「はいぃ、これだけデタラメならぁ、対応力と基礎能力を上げるのにはもってこいですねぇ」


 アザゼルの側にいる為、辛うじてはぐれずに済んでいるが、ヒルデ・グリムの夫婦二人は今にもめまいで卒倒しそうだった。


「お二人には次元の狭間は少し過酷でしたかぁ?」


『い、いや大丈夫だよ漓斗ちゃん。ただ慣れないだけさ……』


『も、もう少しすれば慣れるはずよ、多分ね……うっぷ……』


 漓斗がいる次元の狭間は、ドラゴンエンパイアや神界のような決まった時間の進みと言うものが存在しない。

 強いて次元の狭間の時間を決めるならば、天界と魔界の時間の進み方を足して割った進み方だ。

 人間界の一日は魔界にとって三日、天界にとって二日だ。

 魔界と天界の進み方は合わせて五日、それを割れば二日と半日となる。

 人間界の一日が、漓斗のいる時間の狭間では二日と半日になるのだ。

 つまり人間界での三日は、ここで一週間と半日になる。

 漓斗に与えられた時間は七日半。

 それまでの間にアザゼルとの隔てを超え、柊の言っていたパートナーを喰らうと言う意味を解明しリミットブレイクに限界まで近づかなければならない。

 正直言って無謀。だがそれが逆に漓斗に火をつける。


「面白いじゃないですかぁ。絶対にやり遂げて見せますよぉ!」


 アザゼルは堕天使のトップ、神のいない堕天使にとって、アザゼルが神のようなものだ。

 そのアザゼルが呼び掛けた何千もの堕天使が、アザゼルの合図を受けて一斉に漓斗を攻撃し始めた。


「わわっ、いきなりですかぁ?」


 素手に廃墟を走り回っていた為、少し休憩がほしい所だが。

 堕天使達は漓斗が力尽きて倒れるまで襲ってくる。

 無論アザゼルと一体化するのも禁止で、右も左も分からない次元の狭間を走り続けて堕天使を迎え撃たなくてはならない。


「ヒルデさん、グリムさん、行きますよぉ!」


 漓斗の両腕に装着されたヒルデ・グリムが暗く煌めき、閃光のごとき拳が数千の堕天使を迎え撃つ。

 だが相手は千単位の数だ。ただ殴っているだけでは勝てない。

 相手の戦力を分散させ、零力の消費と回復のスピードを計算し、体力の配分も考えながら──


「サバイバルですかぁ、まったくぅ……」


 食料が調達出来ない次元の狭間は、サバイバルよりもさらにキツい。

 自分の空腹が限界を迎えるまでに、数千の堕天使を倒す。

 まず不可能なことだが、どうせ四大チームの契約者ならばたった一人でやってのけるだろう。

 まずは四大チームの契約者ならばギリギリクリアするであろう極限のステージを作り出し、それにどこまでついていけるか試す。


「き、切りがないですぅ……こう言う時に使い魔がいてくれると便利なんですけどねぇ」


 焔を含め、黒音達六人の中で使い魔を従えているのは四人。

 梓乃と漓斗だけは、自分の使い魔を持っていない。


「黒音さんのフィディさんみたいな馬鹿げた戦闘力のドラゴンもぉ、焔さんのラボーテさんみたいな神機の使い魔もアリですねぇ」


 次元の狭間に建てられた建造物の影に隠れたり、不意討ちを仕掛けたりと、手段を一切選ばずに数の暴力に対抗する。

 一撃当たればその堕天使はリタイアとなる為、それが唯一漓斗の救いだ。


「にしてもぉ、本当にこんなことで隔ては超えられるんでしょうかねぇ」


 隔てを超える為に必要なことは、単純に言えばパートナーと息を合わせることだ。

 だがアザゼルはむしろ漓斗の敵に回り、漓斗を追いかけ回している。

 力を借りるとかを抜きにしても、ここはアザゼルと一緒に行動した方が一体感は高まるはずだ。


「あのバカ皇帝はぁ……何を考えてるんでしょうかぁ……」


 息を潜めて建造物の死角に入るものの、ここは次元の狭間。

 完全な死角などは存在しない。


「見つけました! こちらです!」


「しまっ、見つかってしまいましたぁ……っ」


 足止めに巨大な土の壁を創造するが、相手も甘くない。

 それを真正面から砕きに来る。

 鋼鉄の壁にした所で、遠回りをしてでも追ってくるだろう。


「しつこいですぅ! はあ……遥香さんのようなデタラメな戦闘力ならこんなもの造作もないんでしょうねぇ……」


「あれ、は……人……? 追われてるの……?」


 場所は冥界に移り、ここはマモンの邸。

 六人の中で唯一、すでに隔てを超えている遥香は、皆より一足先に第二段階。

 ガープ先生からパートナーを喰らうと言う意味の授業を受けている。


「つまり、契約者のエネルギーが感情の変化に比例するように、隔てを超えるにも感情の変化が鍵になるのね」


「そう言うことよ。飲み込みが早い子は楽でいいわね」


 天才肌の遥香は、やり方を教われば大抵のことは出来るし、大抵のことでなくともやり遂げてしまう。

 それこそゴミ屋敷だった柊の家を十分足らずで片付けたり、本来不可能とされた魔方陣の展開なしで次元転移したりと。


「それじゃあ次はいよいよ第二段階、パートナーを喰らうについてよ」


「いよいよ……にゃ、頑張る……!」


 大人しくお座りをしているヴィオレに見守られながら、遥香はガープ先生の話を頭に叩き込む。


「パートナーを、遥香ちゃんにとってアスムを取り込むには、特殊な儀式が必要よ。でもそれは隔てを超えたからと言って簡単なことじゃない」


 アダマスが溜め込んだ数千年ものデータも、同じく何千年も前から存在しているアスモデウスの記憶にも存在しない隔てと、パートナーを喰らう儀式。

 それは六英雄〈Heretic〉が密かに産み出したものだからだ。

 他の契約者は当然知らないはずだが、何故か四大チームの契約者は全員がパートナーとの隔てを超え、パートナーを喰らって英雄と同じレベルに到達している。


「パートナーを喰らうと言う儀式の正式な名称は"イートカバー"と言うそうよ」


「イートカバー……食べて、補う……?」


「そう、互いの半分を食べ合って互いの半分を補うの」


 言葉で儀式と説明されても、実際何をどうすればイートカバーが成立するのかが分からない。


「それで特殊な儀式と言うのは──あら、お客様みたい」


 肝心な所で客人だ。遥香は焦れったそうに漓斗から貰った猫耳をひくつかせ、自分の腰から生えた人工の尻尾を撫でた。

 しばらくして招かれたのは、黒いフリルのスカートに黒に近い青のセーターを着た大学生のような少女。


「あれ、マモンはいないの?」


「ええ、今は大切なご用の為邸を留守にされております。ですが驚きました。貴女がこの邸に現れるなんて……嫉妬の死神リヴァイアサン様」


 七つの大罪の嫉妬、自他ともに認める最高級の美しさを誇る死神。

 その名をリヴァイアサン、今は〈strongestr〉の死神となっている。


「あなたは、誰なの?」


「あら、先客……どうも、私はフィオナ・トリフォルム。チーム〈strongestr〉の死神よ。ここにいると言うことは、貴女も死神なんでしょう?」


「私は紫闇騎 遥香。色欲の死神アスモデウスのパートナー。あなたは何でここに来たの?」


 群青色の髪をした彼女、フィオナが唐突に差し出してきたのは、一枚のタロットカードだ。

 そのカードは『THE CHARIOT』の正位置。


「このカードはね、希望の意味を持つの。契約者の世界で希望と言えば、希望の英雄でしょう?」


「希望の英雄クローフィ、そのパートナーがマモンだから?」


「ええ、さらにもう一枚……」


 先程のカードに続き、二枚目のカードは『THE MAGICIAN』の正位置だ。

 新たな出会いを意味する暗示のカードと先程のカードを合わせて遥香に見せ、フィオナは微かに頬を緩めた。


「希望を指すカードに、新たな出会いのカード……ここに来れば新たな出会いがあると思って、やはり出会えたみたい。貴女にね」


「あなたの笑顔、黒音に似てる……その笑い方をする人に悪い人はいないわ」


「ありがとう、でも買い被りかもしれないわ。私はそんなに、優しくないから……」


 フィオナは二枚のカードをタロットの束に重ね、それを後ろにいるリヴァイアサンに預けた。


「貴女は何故マモンの邸にいるの?」


「マモンとは友達だから。以前ここで特訓を受けたことがあるの」


「そうなの。ねえガープ、この子は強いの?」


「それはもう、あのサタン様を強制的に別次元へ飛ばしてしまうくらいに」


 七つの大罪でルシファーとサタンはツートップ。

 最強と名高いサタンを強制的に動かしたともなれば、同じ七つの大罪の死神も驚愕だ。


「すごいじゃない、やはり新たな出会いは正しかった……」


「ここに来たのはイートカバーを行う為。魔王を倒す為に」


「魔王を、倒す……それにイートカバー……我ら四大チームに並ぼうとしているのね。もう隔ては超えたの?」


「サタンと会った時に超えたわ」


 フィオナはしばしば遥香を見つめ続け、そしてリヴァイアサンからタロットカードを受け取った。


「これから貴女を占ってあげる。やり方はスリーカードよ」


 テーブルに広げたタロットを、上下関係なくばらばらに混ぜていくフィオナ。

 それを縦横揃えて整え、三束に分けた。


「三束のうち、重ねる順番を決めて」


「じゃあ……これでいい」


 遥香が重ねたタロットカードを、フィオナはさらにシャッフルした。

 そして山札の上から三枚のカードを、左から順に並べていく。


「左は貴女の過去、真ん中は貴女の現在、そして右は貴女の未来よ」


 アスモデウス、リヴァイアサン、ガープ、遥香の見守る中、フィオナは過去から順にカードを表に向ける。

 一枚目、過去を占うカードは『THE SUN』の逆位置。

 見通しの暗さや、不幸、苦しみの暗示だ。


「貴女は過去に辛い思いをしてきたのね。願いが叶わず、何をしても失敗して、自信を失った」


「……そう、私は両親に捨てられ、たった一人で生きてきた」


 二枚目、現在を占うカードは『WHEEL OF FORTUNE』の正位置。

 運命や新たな展開、進歩や成功の暗示。


「貴女の運命を変えたのはアスモデウスのようね。アスモデウスと契約してまだ日が浅い。違う?」


「ええ、まだ一ヶ月も経ってないわ。……すごい、全部当たってる……」


「ここまでは貴女の過去と現在を占うカード。そして今から貴女が引くカードは、貴女の未来を表すものよ」


 そして三枚目、遥香が瞳を閉じながら引いた、未来を占うカードは『THE MOON』の逆位置。

 偽りや誤解が解ける、良い兆し、そして──真実。


「これから先、隠されてきた真実が明るみになるわ」


 しかし今の遥香に隠し事はないし、仲間に対して誤解を生むようなこともした覚えはない。


「最後のカードだけは外れたと思うわ」


「そうかしらね。貴女が引いたのは未来を占うカードよ。これからどうなるかは、まだ誰にも分からない」


 フィオナは遥香に隠れて、四枚目のカード。

 過去でも現在でも未来でもない、いつ起こるか分からない未知のカードを引いた。

 フィオナが引いたカードは『DEATH』の正位置、死神を意味するカードだ。

 その暗示は喪失、変化、離別、終わり、死……。

 正位置でも逆位置でも、破滅を誘うカードだ。


(遥香、このカードは誰を占うものでもない。私が引いたのは貴女に関係のある人物すべてに影響するわ。だからこのカードの意味が必ずしも貴女に向くとは、限らない……)


 自分でも怖いくらいに、嫌な時は涙を流してまで外れてくれと願うくらいに、フィオナの占いは的中する。


「これも何かの縁。先にイートカバーを経験した私が先輩として、貴女にイートカバーを教えてあげるわ」


「へ、あのフィオナさん、それは私の役目……」


「イートカバーを経験したことがない貴女が、この子に正確で的確な知識とアドバイスを与えられる?」


 マモンから伝えられた知識をそのまま遥香に伝えているだけのガープには、返す言葉が一つもなかった。

 フィオナは四枚目のカードも含めて再びタロットカードをリヴァイアサンに預け、遥香に向き合った。


「遥香、イートカバーは豊かな想像力がポイントよ」


 ──頭の中で想像するの。

 アスモデウスから預けられたアスモデウスの半分を、自分が受けとる姿を。

 自分の半分をアスモデウスに預けて、アスモデウスがそれを受けとる姿を。

 アスモデウスとの境界線が曖昧になって、二人の人格が融合していく感覚を。


「アスモデウスとの……境界線……」


 軽い催眠状態に陥った遥香に、フィオナはひたすら呟き続ける。

 アスモデウスと遥香を、アスモデウスと遥香の二つに分けてしまう概念を消し去れと。

 ふわふわと浮かぶ雲は、分解と融合を繰り返す。

 やがて雲は境界線を失い、一つにもなり、多数にもなるのだ。


「貴女とアスモデウスは分けて考えるべき概念ではない……二人ではなく、一組の存在……二人揃わなければ、貴女を貴女だと証明出来ないの……」


 数千の堕天使が何手にも別れ、何十もの軍勢が漓斗を追いかける次元の狭間。

 だんだん息が切れ始め、胸を押さえながら走る漓斗を、小さな影が受け止めた。

 とうとつ捕まってしまったのかと脱力する漓斗に、その影は呼び掛けた。


「何だか分からない……けど助けてあげる……安心して……」


 再び集結した千を越える堕天使の軍勢に、突如無数の骸骨が現れた。

 カチャカチャと全身から音を鳴らして堕天使を迎え撃つのは、漓斗を抱き抱える少女が展開した人形だ。


「あな、たは……誰ですかぁ……?」


「レガ・トリフォルム……レガでいいよ、お姉さん」


 骨の人形が堕天使の足止めをしている間に、レガと名乗る少女は漓斗を安全な場所へとかくまった。


「ふぅ……助かりましたぁ。申し遅れましたぁ、私は黄境 漓斗と申しますぅ」


「改めて、レガ・トリフォルムだよ……〈strongestr〉の堕天使をやってるんだ……」


「なっ、あ、あの〈strongestr〉ですかぁ!?」


「うん……嘘じゃない……その証拠に、私の肩に……」


 レガの肩には、最強が最強たる証が刻まれている。

 高貴な盾のマークに〈strongestr〉の頭文字が重ねられたその証は、紛れもなく最強の証明だった。


「疑ったわけじゃないですよぉ? でもまさかこんな所に〈strongestr〉がいるとは思わなくてぇ……」


「今は休暇、なの……レガ達はいつでもチーム戦が受けれるように常に一緒にいる……でも一週間に一回、三日間だけ自分の時間が貰える……だから今は皆それぞれの世界にいるはず……」


「そうでしたかぁ。でもそうなると……」


 恐らく黒音達も少しでも時間がほしいと、それぞれの種族の世界に行っているはずだ。

 鉢合わせしてもトラブルにならなければいいが……。


「漓斗さんは、何で追われてたの……?」


「あぁ、あれは私が頼んだんですよぉ。特訓の為ですぅ」


「あ、じゃあレガ……邪魔して……っ」


「い、いえいえぇ、流石にあれは過酷すぎましたからぁ、本当に感謝してますよぉ」


 一瞬で泣きそうになった最強の一人を、漓斗は慌ててなだめた。


「漓斗さんは、何の為に特訓してたの……?」


「魔王を倒す為、でも本当は……」


「魔王を倒す、ってことは……〈tutelary〉と戦う為に強くなるの……?」


「えぇ、基礎能力を上げながら、隔てを超えて、パートナーを喰らい、そしてリミットブレイクに至ることが目的ですぅ」


 一つずつこなしているほど時間はないと言うのに。

 あのバカ帝は一つのことに夢中になって、隔てを超えることから離れてつつある。


「じゃあ、レガが手伝う……お話の相手になってくれた、お礼したい……」


「へ、でも休暇だったんじゃ……」


「漓斗さんと戦ってみたいから……〈tutelary〉なんかに負けてほしくないから……」


 感情の薄いレガが、初めて笑ってくれたような気がした。


「レガさん……ありがとうございますぅ。では行きますよぉ」


「レガはほんとにピンチの時以外は手を出さない……漓斗さんは自分の思う通りに、好きに暴れて……」


 ようやく骨人形を倒し終え、追ってきた堕天使の軍勢の前に漓斗は堂々と飛び出した。

 漓斗の背後には、獣の頭蓋骨を盾として装備した骨人形が二体控えている。

 先ほど大量に展開した骨人形よりも、少し強度が増している。


「それではヒルデ・グリム解放ですぅ。コピーを〈創造〉!」


 ヒルデ・グリムの特性でレガの骨人形をコピーし、漓斗を守る骨人形は計四体になった。

 さらに堕天使の軍勢を丸ままコピーし、堕天使とまったく同じ数のコピーが堕天使を迎え撃つ。


「すごい……ノーコストで〈創造〉してる……」


『あの子が自分の基礎能力を上げようとしてたのはこれね』


「お姉さんが言ってた……術者の戦闘力を越えるコピーは〈創造〉で産み出せないって……」


 だがこれが戦略だとすれば、非効率すぎる。

 隔てを超えることを目的としているならばなおさらだ。


「漓斗さん、コピーが抑えてるうちに兵士(ポーン)じゃなく王様(キング)を狙って……」


「そうですねぇ、では行きまぁす!」


 すべての指示を出しているアザゼルをこちらに引き込めば、堕天使達の士気も落ちて統制がとれなくなるはずだ。

 アザゼルのいる場所は言うまでもなく(?)一番高い所。

 堕天使を仕切るトップなのだから、それは間違いない。


「〈創造〉、剛電龍アリフィディーナ!」


 漓斗の足元に、黄土色のボディをした、フィディそっくりのドラゴンが現れた。

 ヒルデ・グリムの〈創造〉で産み出したコピーは、食べ物ならばそのまま食べることすら出来てしまうくらいクオリティが高い。

 戦闘力こそフィディの半分以下だが、スピードを再現するくらいならば可能だ。

 漓斗はフィディのコピーに仁王立ちし、一番高い所へと向かった。


『ここはどこ……さっきまで……マモンの邸にいたのに……』


『ここは貴女と私の意識が混合した世界よ。魔術的なことで難しいから、夢の中と考えていいわ』


 フィオナの話術によって催眠状態に陥った遥香は、フィオナの魔術によってフィオナの意識の侵入を許していた。

 遥香の脳内で二人の意識が繋がり、パートナーと話す時のテレパシーに近い現象が起こる。


『フィオナ、夢の中? には何で来たの?』


『自由が利くからよ。現実の世界には火は水に弱いとか法則があるでしょう? でもここは意識の世界。自分の思ったことがそのまま法則になる』


 つまりこの場所でなら、イートカバーの儀式を行ったことや〈限界突破〉したことまでがより現実的にイメージ出来る。

 その感覚を現実世界でも活かすことが出来れば、これ以上ない近道になるはずだ。


『貴女と私の意識が混合している今なら、私がイートカバーを経験した時の感覚を正確に伝えられるはずよ』


『なるほど……アダマスのデータにある。意識と感覚を共有する禁忌魔術が』


 主に相手を道連れにする為に使われるものだ。

 意識と感覚を共有出来るならば、自分の死と言う感覚を正確に相手に伝えられる。

 そうなれば伝わった相手は、限りなく死に近い状態となるわけだ。


『私には貴女を殺す理由もなければ、死ぬ理由もない。それにそもそも死神はすでに死んでるから。それじゃあ感覚を送るわよ』


 フィオナから伝わってきたのは、とてつもない恐怖感。

 自分の中から何かがごっそりえぐり取られるような、表現出来ない喪失感と恐怖感。

 頭に渦巻く言葉はたった一つ。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い──

 死の恐怖がない死神にとって、唯一死に値するほどの恐怖だ。


『なに、これはっ……とても、平常心ではいられないっ……』


『落ち着いて、そのあとすぐに……』


『あ……すごい……すごく、安心する……』


 自分の何かが失われてすぐ、その空間を埋めてくれる何かが流れ込んできた。

 それは自分がもっとも信頼するパートナーの半分。

 自分の半分が失われた恐怖はパートナーも同じ、そしてその半分を補ってくれる安心感もすべて、パートナーと同じなのだ。

 そう考えた途端、先ほどまでの恐怖感が嘘のように、心のすべてが満たされるような感覚に包まれた。


『これが、イートカバー……パートナーの半分を食べて、自分の半分を補う……そう言えば……』


 ──まさか、またアレをやるの……!?

 黒音のパートナー、アズは一度経験したような口ぶりだった。

 それに黒音は昔の記憶がないと告白していた。

 つまり黒音は自分達の中で、もっとも早く四大チームの契約者と同じステージに立っていたことになる。

 イートカバーを経る為には、隔てを超えることが必須。

 いつアズと契約したのかまでは知らないが、もしかしたら黒音も六芒星封印を複数施すほどの化け物クラスだったのかもしれない。


『……フィオナ、四大チームの契約者と英雄以外にイートカバーを経験してリミットブレイクに至った契約者って、知ってる?』


『私と英雄以外に……? いるとすれば〈tutelary〉が守護している魔王や、まだ知られていない無名の魔王。多分魔王クラスじゃなきゃいないと思うわよ。どうして?』


『私の知ってる契約者に一人、魔王に挑もうとしている人がいる……その人はすでに隔てを超え、イートカバーを経験し、さらにリミットブレイクに至っていた……』


『魔王に挑むと言うことは〈tutelary〉と戦うと言うことよ。それに一人……? 尋常ではない強さね。もしそれが本当なら、フルしか……私のリーダー以外に相手になる契約者はいないわ』


 記憶を失う以前の黒音に、遥香は強い興味を持った。

 以前の黒音ならば、自分を凌駕するかもしれない。

 今の黒音はリミットブレイクした状態で、もはや海里華を瞬殺するレベルなのだ。

 本来の、真に黒音の力が発揮された時の本気ならば、黒音は必ず遥香の戦闘力を凌駕するはずだ。


『お喋りはこのくらいにして、特訓に戻りましょう。どう? イートカバーの感覚は覚えられた?』


『ん……一度経験したら忘れられない』


『そうね、あまりにも不思議な感覚だもの。それじゃあこのままイートカバーの儀式について教えるわよ』


 イートカバーとは即ち喰らい合い。

 パートナーを喰らい、パートナーが喰らわなければならない。

 だがどちらかが喰われるだけでは、それはイートカバーとは言わない。

 パートナーと自分が釣り合うと言うことは、人の身で六種族に並ぶと言うことだ。

 アスモデウスと出会わなければ、数ヶ月後には野垂れ死んでいたかもしれない遥香が。

 最初から死神として生まれたルシファーやサタンと違い、ソロモン七十二柱の中からソロモンにスカウトされて死神となったアスモデウスに。

 素で喧嘩して互角にならなければならないと言うことなのだ。


『尋常ならざる覚悟と執念、何よりそうなりたいと言う思いの力が重要よ。感覚とやり方は教えた。現実の世界に戻るから、やってみて』


 やってみて、だと?

 アスモデウスに殴られたら、同じ力で殴り返してみろと?

 不可能なのだ、絶対に。

 だがフィオナ達四大チームの契約者は全員それを実現している。

 遥香は魔術が解けて再びアスモデウスと再会し、その場に座り込んだ。


「どうしたの遥香? イートカバーについて何か掴めたの?」


「……ねえアスモデウス、私とあなたが見ず知らずの他人で、敵同士だとするわ。あなたと私が一対一で喧嘩したら、私はあなたに勝てる?」


「唐突ね……私とあなた、どちらも契約していない状態でと言うことなら、言うまでもないわね」


「でも私があなたに勝てなきゃ……イートカバーは実現出来ない……」


 勝てないにしても、せめて互角にならなければ。

 魔術を解いて同じく現実の世界に戻ってきたフィオナは、まるで自分がこの邸の主だと言わんばかりに堂々とソファの真ん中に座った。


「アスモデウス、貴女のパートナーにはイートカバーを経た時の感覚と、その方法を教えたわ。これ以上のヒントは成長の妨げになる。後は二人で導き出してみて」


 それに、と。

 フィオナはガープから出された紅茶のカップに指を添え、一瞬とてつもない殺気を含んだ瞳で、


「私はもう、最大のヒントを与えたから」


 再び微かな微笑みを宿した。

 たった九日足らず、遥香はフィオナから与えられた最大のヒントとやらを解明しなければならない。


「あなたは他の契約者のように、お馬鹿ではないはずよ。見つけ出して、そして掴みとって。この──」


 フィオナは途中で言葉を区切り、リヴァイアサンに合図を送る。

 リヴァイアサンはそれに応え、自分の左腕を撫でた。

 刹那、部屋の中に嵐が吹き荒れた。


「圧倒的な力を……」


 ほんの数秒だけ、フィオナは自分に施されていた六芒星封印をすべて解除した。

 遥香の力など、あの時リミットブレイクしていた黒音の力など、今まで見てきた力がすべて可愛く思えるほどの絶大な力が、遥香の心に刻まれた。


「……これがイートカバーを経た者の本当の力よ。貴女も早くこのステージに来れるといいわね」


 マモンの邸が滅茶苦茶にならないうちに、フィオナはすぐに六芒星封印を施した。

 リヴァイアサンの腕に、再び六つ(・・)の術式が刻まれる。


「あら、怖がらせ過ぎたかしら……泣かせちゃうなんて……」


「へ、泣くって──あ……」


 遥香の頬には、綺麗なアメジストの瞳から零れ落ちた雫が伝っていた。

 絶対的な力が遥香の心を鷲掴みにし、支配する。

 全身が内側から揺らされているように震え、肩を抱いてもその震えは一向に治まらない。

 それは人間としての本能が、遥香の意思とは関係なくフィオナに対して降伏を示した。

 泣いて命乞いする。だが本当に命が危ないと理解した者は、恐れ戦くことなく、無意識のままに涙を流すのだ。


「最大のヒント……フィオナからの……」


 ねじ曲がった次元の、上も下も分からない空間。

 辛うじて立っていられる足元が、上下を判断する手段だ。

 漓斗とレガがいるのは次元の狭間、堕天使の巣窟でもっとも高い建造物。

 案の定、アザゼルはそこで悠々とくつろいでいた。


「何とかと煙は高い所が好き……ようやく再会出来ましたねぇ」


「やはり来たか。身体能力の向上に自覚はあるか?」


「ええ、ある程度はありますよぉ。ところでぇ、何故隔てを超えるべき貴方と私がぁ、別々にいるんですかぁ?」


「俺がお前と一緒にいたら、堕天使との鬼ごっこにならんだろう」


 アザゼルは堕天使の帝でもあり、神代理。

 そんなアザゼルが漓斗に協力すれば、修行にならない。

 そして基礎能力を鍛える特訓はここまで。


「さあ漓斗、ここからは俺とお前、共同で動く」


「それが本来正しいんですよぉ……」


 基礎能力を鍛えた漓斗に、次に求められるのはいよいよ隔てを超えることだ。


「その前に、お前の隣にいるその子は誰なんだ?」


「先ほど知り合った〈strongestr〉の堕天使、レガさんですぅ」


「レガ・トリフォルム……よろしく……」


 アザゼルの前に現れた、今後最大の敵になるであろう人物。

 漓斗達の目的は魔王を倒すことに終わらない。

 四大チームを制覇し、英雄を越えなくてはならない。

 ぶっちゃけ現役引退している英雄達よりも、バリバリ全盛期の〈strongestr〉がもっとも厄介な敵なのだ。


「な、何故最強である貴様が、漓斗に……?」


「堕天使に追われてると、レガが勘違いして助けた……特訓だと知らずに、ごめんなさい……」


 助けた? 漓斗を? 天下の〈strongestr〉が?

 アザゼルは混乱する思考を無理矢理殺し、レガに敵意がなかったことに一先ず安心した。


「丁度いい。漓斗、軽く手合わせしてもらうぞ」


「レガさんは休暇なのにぃ、いいんですかぁ?」


「レガは最初から手伝うつもり……でも今の漓斗さんなら今のレガと互角……だから封印を一つ解除する……」


 四大チームの契約者が全員施していると言われる六芒星封印。

 それを今目の前で解除してくれると言うのだ。

 黒音達が今もっとも知りたい、これ以上ない情報だ。


「イブリース、お願い……」


「分かったわレガ、他の堕天使は離れててね」


 レガの隣に現れたレガのパートナー、イブリース。

 イブリースはレガのお願いに応えて、自分の右側に生えた六枚の翼に刻まれている六芒星封印の一つを解除した。

 たった一つ、六芒星封印を解除しただけで、レガの零力が何倍にも膨れ上がったのだ。


「レガは〈strongestr〉の中で最弱……だから一般の契約者を相手に封印を解除しなきゃ戦えない……」


「これで、最弱……? レガさんは何個の封印を?」


「〈strongestr〉は全員六個……他の三チームは知らない……」


 六芒星封印の効力は普通の封印の十倍と言われている。

 それを六個と言うことは、本気の場合これよりもさらに五倍の戦闘力が加算されると言うことだ。


「あ、でもフルだけは……レガ達のリーダーは〈北斗七星封印(グランシャリオ)〉を施してるから……実質六芒星封印を十個施してることになる……」


「六芒星封印を十個!? あ、貴女のリーダーは一体……」


「〈北斗七星封印〉は六芒星封印の約十倍……それは流石にレガ達でも多すぎる……」


 〈北斗七星封印〉、主に神を封印する為のものだ。

 ネプチューンがポセイドンに施した封印もこれに当たる。

 だが下手をすれば命を落としかねない危険な術式だ。

 現にネプチューンはポセイドンに封印を施した後、トライデントを残して消滅している。


「そ、それを施した契約者はぁ?」


「レイチェル・サウザンド……その名の通り、千の魔術を司る聖魔の片割れ……」


 〈strongestr〉第二位の実力を持つ契約者。

 噂ではたった一人で数々のチームを殲滅してきたとか。

 噂ではまったく同じ力を持った妹と聖魔の双姫を名乗っていたとか。


「確かにその人ならぁ、その封印をノーコストで施すことくらいもないですよねぇ」


「漓斗さん、時間は限られてる……早く始めよう……?」


「そうですねぇ、ここならどれだけ暴れても壊れるものが何一つありませぇん。思う存分戦えますねぇ」


 漓斗はアザゼルのいた建造物を後にし、レガから一定の距離をとった。

 漓斗とアザゼルは最初から一体化し、本気モード。

 対してレガとイブリースは一体化せず、レガ一人が戦うらしい。


「最初から飛ばしますわよ?」


「う……何だかレイチェルに似てる……ちょっと怖い……」


「大丈夫よレガ、相手は四大チームの契約者じゃないし、何より貴女は封印を一つ解除してるんだから」


 ちょっと怖いならば素直にイブリースと一体化すればいいのに、と漓斗は少し焦れったそうにした。


「行きますわよ。柊先生、貴女の力をお借り致します……〈換装〉!!」


 ヒルデ・グリムの〈創造〉の力で、柊の戦術〈換装〉を限りなく本物に近いクオリティで再現する。

 漓斗が纏ったのは、黒音との決闘で決定的な一打となった紅桜の亟薙だ。

 世界最速の鎧、しかしその姿は鎧と言うより和服に近い。


「操り人形……あなたも吊られて踊ってみる……?」


 レガの指先から伸びる計十本の糸が、まっすぐ地面に向かって落ちていた。

 糸は静かに地面を進み、そして引き当てた。


「〈操られた骨人形パペット・ボーンマトン〉……」


 地面の下から引きずり出されたのは、首のない巨大な人形。

 全身を構成するのは、無数の小さな骨。

 無数に密集した小さな骨が、この巨体を作り上げている。


「お、大きい……ですが、脆そうですわね。この力ならば……」


 漓斗は体を捻り、薙刀をビリヤードのように構えた。

 レガの放つ十本の糸で操られる巨大な骨人形は、見た目に違わずのろまだ。

 漓斗は世界最速の一撃、光の一閃を放った。


「斬り斬り舞い……砕けなさい」


「どうしたの漓斗さん……? もっと本気を出して……」


 漓斗の放った刃は、確かに骨人形の全身を真っ二つに切り裂いた。

 だが骨人形は、漓斗が振り返った時には何事もなかったかのようにそこにいる。


「バカな……今確かに、斬ったはず……」


『気をつけろ漓斗、あの骨人形、お前が斬った後凄まじいスピードで修復した。まるで海里華の再構成だ』


「海里華さんの再構成スピードと同じですって……?」


 巨大な骨人形の体を構成する骨が小さいのは、再構成する為のものだ。

 再構成は壊れた部品を組み合わせるもの。

 新たに作り出すよりも数倍エネルギー消費の削減になる。


「今度はこっちから行く……〈咎人の髑髏(クリミナル・スカル)〉……」


 巨大な骨人形は、レガにそう呼ばれてカタカタと震えだす。

 再び骨の再構成が始まったのだ。

 地面の下から呼び出されたさらなるパーツとともに、新たな形が構成される。


「これは、巨大な頭蓋骨……!?」


 漓斗の前に現れたのは、おびただしい数の骨で構成された特大の骸骨だった。

 歯の一本一本までがリアルに形作られており、目の部分には青い炎が灯っている。


「気をつけて……かじられた部分がなくなるから……」


 なくなる、とはどう言う意味か。

 漓斗はとにかく大量の分身を産み出し、コピーとともに巨大な頭蓋骨へ一斉攻撃した。

 何十発もの拳が一斉に頭蓋骨に叩き込まれ、頭蓋骨は地面に叩き落とされる。


「クリミナル、〈消滅させる顎(バニシング・ヨーン)〉……」


 地面に落とされながらも、頭蓋骨は二体のコピーに噛みついた。

 噛みつかれた漓斗のコピーは、噛まれた部分が溶かされたように消滅した。

 漓斗のコピーが噛まれたのはどちらも下半身。

 頭蓋骨の口に収まったコピーの下半身は、溶けた飴のように消えている。


「バカな、この魔術は……」


「そう、破壊魔術の一つ……〈soul brothers〉の如月 和真が使ってるのと同じだけど、タイプが違う……」


 和真が純粋に"破壊"する為の魔術だとすれば、レガのは"消滅"させる魔術だ。

 物理的か、特殊か。

 壊されたものは修復出来るが、消されたものは戻ってこないのだ。


「これでこっちの手はほとんど晒した……今度はそっちの番……」


(私の手段はコピーと〈換装〉だけ……私の方がすでにすべて晒しているのです……ですが貴女はほとんど……万策尽きましたわね……)


『何を諦めている? 手数は力に直結しない。要するに噛まれなければいいだけのことだ』


 幸い頭蓋骨のスピードは本物の漓斗を捕まえられるほど早くはない。

 頭蓋骨ではなく本体を狙えばいいのだ。


「それが相手の狙いなら……乗ってみましょうか……〈換装〉、シエルロギアの閉ざされた門!」


 漓斗が展開したのは、大きな盾を真っ二つに割ったような剣を装備した鎧。

 柊の持つ鎧の中でもっとも防御力の高いものだ。

 漓斗は二枚に割れた盾を合体させ、瞬時に展開した転移魔方陣を潜って一気にレガへと急接近した。

 そしてレガの前に転移した漓斗が纏っていたのは、巨大な盾の鎧ではなく、クモの脚に似た多関節の長剣だった。

 左右合わせて計六本の長剣は、山折りや谷折りに関節を曲げ、レガから放たれる何かを受け止めていた。


「……やはり」


「流石は漓斗さん……やっぱりすごい……」


 漓斗が受け止めていたレガの何かは、今漓斗が展開している模倣品の神機、そのオリジナルだ。


「レガのエクスキューションを、まったく同じ武器で防ぐなんて……」


 咎人を掻っ捌く六本の剣、エクスキューション。

 二人の背中から伸びるクモの脚のような剣は、一束に集結して一振りの大剣となる。


「〈再換装〉……六刃エクスキューション……やはりですわ」


「でも確か、羅刹の英雄が使う〈換装〉にレガの神機のデータはなかったはず……」


「当然、先ほど私が一から造ったのですから」


「どこでレガの神機を……?」


「ここでですわ。今、見ました」


 レガは今までの戦いで、エクスキューションを滅多に展開したことはなかった。

 だから柊のデータにもエクスキューションのデータはなく、レガは〈strongestr〉の中で唯一神機を持っていないとも噂されていたほどだ。

 だから漓斗はレガが神機を展開することを読み、展開した直前でその形を目視、それをコピーした。


「そんなこと……漓斗さんが魔方陣から出てくるのとレガがエクスキューションを展開したのはほぼ同時……今見てすぐに真似するなんて……」


「それが出来るんですのよ。私は人を驚かせることが大好きでしてね、常人に比べてとても器用なんですの」


 ほんの一瞬でもその形を見れば、それを画像として記憶出来る。

 そしてその形からある程度の機能や特性を予想し、それを元にコピーを作るのだ。

 もう器用とか言うレベルを越えている。


「しかしこれでは私の方が明らかに不利。頑張っても互角が限界ですわ。ですから──〈二連換装〉、アロンダイト!」


 エクスキューションの大剣に加え、巨剣アロンダイトを装備した漓斗は、零力で二振りの巨大な剣を同時に振るった。


「荒ぶれ、破兇双刃(はきょうそうじん)!!」


 梓乃よりも一足先に自分強化から隔てを超えるステップに移った漓斗。

 そして六人の中で最前を独走している遥香に追い付くのは誰なのか。

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