~strength and make believe~
アメリカのとある州、湖の中心に建てられた古城にて。
六人の少女が古城の中庭で、紅茶とともに丸いテーブルを囲んでいた。
古城の主と思われるドレスを着た少女は、黄色い左眼と紫色の右眼をしたオッドアイだ。
ドレスを纏う少女の後ろには、馬の頭を象ったヘルムを被る黒い騎士と、獅子の顔を象った胸当てを纏う白い騎士が控えていた。
「まったく、最強が聞いて呆れますわ。野戦で負けるなど……」
二人の騎士を後ろに控えさせている少女は、自分の左斜め前に座っている紅の着物を着た少女に説教を垂れていた。
「一回の失敗でそこまでは、言いすぎだと思う……レガは何回も失敗してる……」
ドレスを纏う少女の左隣に座っているのは、軍服のような上着を羽織ったこの場で一番幼い少女だ。
少女のすぐ側には、今咲いたばかりの白百合を思わせる楚楚とした女性の堕天使がいた。
淡い褐色肌に碧眼の少女は、自分の左隣に座っている着物を着た少女の手を両手で握って庇った。
「事実だ。庇わなくていい」
褐色肌の少女の手を握り返し、紅の着物を着た少女は不器用な笑みを浮かべた。
紅の着物を着た少女の後ろには、その巨体をもて余して湖に体を預ける煉獄のドラゴンがいた。
ドラゴンはパートナーの表情に機敏に反応して巨大な頭を近づける。
「レガちゃんは優しいなあ。ねえレイチェル、今回はレガちゃんの優しさと可愛さに免じて許してあげたら?」
ドレスを纏う少女の右斜め前にいる赤毛の少女が、二人に助け船を出す。
赤毛の少女は左手に常備してある苺のパックから苺を一つ、ドレスを纏う少女の口へと突っ込んだ。
それを呆れ顔で眺めているのは、赤毛の少女のパートナーである戦女神だ。
「……結衣、口を出すのはいいけど口を塞ぐのは逆効果よ」
タロットカードをトランプのようにシャッフルしながら、自分の頭上にいるパートナーと微笑を交わす少女。
少女の頭上にいるのは、海を統べる龍の鎧を纏った麗しい女性だ。
万物を黙らせるその美しさは、誰もを"嫉妬"させる。
「私達はいつから最強であることを目的にした……?」
青に近い薄紫の髪、ハイライトの消えた紅の瞳は、じっとティーカップの紅茶を眺めていた。
少女の華奢な体を飾るのは、レースがふんだんにあしらわれたゴシックアンドロリータ、通称ゴスロリと呼ばれるドレスだ。
「フル……ですが私達は自他共に認める最強。相手が誰であろうと負けることは……」
「チームを結成した時、フルは言った……私達は皆不完全……私達が共にいるのはその不完全を補い合う為だ、と……負けることは不完全だから……私達は完全を求め、完全を望まない……これを教えてくれたのはレイチェル、貴女……」
ドレスを纏う少女と赤毛の少女の間に座る少女は、固まったままの表情で、首をこくんと横に傾けた。
「そうですわね……ま、私が教えたと言うよりも、記憶を失った貴女の言葉を今の貴女に伝えただけですけれどね」
「私の……記憶……」
もっとも初めに生み出され、すぐに失敗作として捨てられることとなった悪魔と天使の二人組。
それは名もなき少女の元に舞い降り、そして完成したソロモン七十二柱を脅かすほどの力へと発展した。
「私達が施している六芒星封印は六つですし、相手が死神ならば仕方ありませんわよね。ねえアダム、イヴ」
『イエス、マイプリンセス』
『その通りに御座います』
重力に逆らって全方向へ広がっている連獅子のような髪。
髪の隙間から天に向かって伸びる二本の角は、先端にかけて緑から白へと変色している。
明らかに堕天使の枠を超越した力を持つ女性は、褐色肌の少女の首に抱きついた。
「皆仲良し、それが一番いいと思う……ね、イブリース……」
『同感よレガ! 流石は私のパートナー♪』
湖の底に足をついて全身を広げたその巨駆は、湖の中心に建てられた古城の二倍の高さはある。
太い血管が浮き出たように、黒いボディの表面に赤いラインが脈動していた。
煉獄の名に相応しい威厳に満ちたドラゴンは、長めの日本刀を腰に差したパートナーの所へ少し首を伸ばした。
「野良と言ってもう油断しない。これからもよろしく頼む」
『無論だ律子。我のパートナーはお前しかいない』
九つのカラーリングが施された聖なる甲冑を纏い、失われた力の代わりに狩猟神の弓を携えた戦女神。
ドラゴンとそのパートナーを眺め、羨ましそうにする赤毛の少女の肩に、戦女神は甲冑に包まれた左腕を回した。
「いいなあ……私もあんな風にパートナーに信頼されたいなあ……」
『バカなこと言ってんじゃねーですよ。私は結衣のことを心底信頼してるんです。じゃなきゃ私達は今最強を名乗れてねーですよ』
海を統べる龍の鎧を纏った麗しい死神は、テーブルの上で少女が静かに広げたタロットを一枚指先で捲った。
嫉妬の死神によって引かれたカードは『THE LOVERS』の正位置。
深い結びつきや絆を意味する暗示だ。
「私達の信頼関係は何度占っても揺るがないわね」
『当然よ。例え泥塗れになろうと、真の美と言うものは絶対に汚れない。友情や絆と言った信頼の美はいつでも美しいわ』
光を破壊する者。神さえ畏怖する災厄の悪魔は、絶対と言う言葉を使わない。
何故ならば彼にとって、彼と彼女にとって、絶対は至極当然のものだから。
邪悪すぎて、いっそ神々しささえ感じるその姿。
漆黒の衣に身を包んだ白髪の異質な悪魔は、鎖に繋がれた二頭の魔獣の背中に足をおき、虚空に肘をついて瞳を閉ざした。
「メフィストフェレス……私達にとって信頼は、なに……?」
『思考するに値しないものだ。信頼は力に直結しない』
その圧倒的な力から、いつしか契約者はその六人組をこう呼ぶようになった。
"覆ることを知らない最強"と。
最強と言う言葉は、この六人のことを指す為だけに生まれてきたのかもしれない。
そう思わせるだけの圧倒的、絶対的な力。
『strongestr』と名づけたチームネームの頭文字を取り、彼女達の体には『S』の紋章が刻まれている。
英雄にもっとも近い存在、彼女達はまだ、自分達以外に"強い"と感じる契約者に出会ったことはない。




