~Betrayal~
小さい頃に、例え自分がやっていなくても、親に信じてもらえなかった経験はないだろうか。
お前がやっていないなら誰がやったんだ、と。
私はそんな経験を、人の何十倍も受けてきた。そう言える自信がつくほどに。
親には学校の成績がよくとも、毎日お手伝いをこなしても褒めてもらう所か、見てもらうことさえも出来なかった。
学校ではうわべだけの付き合いで"いい人"を演じ続け、家ではただ自分の存在を消し、親の邪魔にならないように影となる。
そんな日常を続けていた私は、自分が誰なのかとうとう分からなくなってしまった。
気づけば本当の自分が誰なのかを見失い、ただやらなければならないことをインプットされたプログラムのように、毎日を『こなしていく』。
そこに楽しさなどなく、ただ義務的に日々を過ごすだけ。
そんな昔の数年間を、私は空白と呼んでいる。
空白を経て中学生になった私は、自分を変えようと思った。
このままではいつか、自分は空気になってしまうんじゃないかと言う、焦燥感が私にそうさせた。
そして私は誰もが理想的な人格を作り上げた。
どんな時もひまわりのような笑みを浮かべていて、誰にでも分け隔てなく接することが出来、おしとやかで、何でも出来る可憐な花のような淑女。
すぐに友達も出来たし、人望もあって、最高に幸せな学校生活だった。
でも幸せと言うのはそう長く続かない。
父親が言われもない責任を押し付けられ、リストラされたあげく自殺した。
その瞬間、友達は手のひらを裏返したように私の元から離れていった。
自殺した親の娘と言うだけで陰口を叩かれ、クラスから孤立し、あげくの果てにイジメの中心に貶められた。
それだけならばまだ耐えれた。だが追い討ちをかけるように、母親は父親が死んだショックとストレスを私にぶつけてきたのだ。
毎日のようにクラスメイトからのけ者にされ、母親からは虐待を受ける。
そんな日々に耐えられなくなった私の精神と肉体は、簡単に崩壊した。
誰も信じれずに、学校は不登校。家にいても虐待にあう。
だから毎日のように夜の町を徘徊した。
人を嘲笑うことでしか生きていけなくなった私を救ったのは、おとぎ話に出てきそうな眠れる王子様だった。
陸橋の下で雨をしのいでいたある日だ。
その青年は地面に横たわっていて、ピクリとも動かない。
そんな青年に、私は不思議と惹かれた。
横たわる青年の体を揺すり、何度も呼び掛け、静かに目覚めた青年は私にこう言った。
──もし君に願いがあるのならば、私に力を貸してくれ……私はその願いを……絶対に叶えて見せる……
すがるように私の手を握った彼の体は、ひどく冷えきっていた。
おそらくもう、長くはないのだろう。
いつもなら嗤って捨てるはずなのに、どうしても彼のことだけは放っておけなかった。
彼が自分の運命を変えてしまう、そんな気がして。
「私の願い……私は……すべてを踏みにじり、嗤いたい……すべての者を……私に跪かせたい……!!」
──その日私は、自分の母親を手にかけた。