~Despair stage~
煤汚れて、誰も入ることなく放置されたカジノの広場。
小火災に見舞われたそこは、火が消し去られた後に放置されることとなった。
元から街の外れにあるカジノだったので、取り壊されることもなく忘れ去られている。
そんな人々の記憶から消し去られたカジノの広場。
そのテーブルに、六人の男女がいた。
一人はテーブルの真ん中に足を組んで座り、カードを眺める赤毛の青年。
その右隣には馬の顔が刻まれたブレスレットをした少女。
テーブルの一番左端にいるのは大量の金銀財宝を身に付けている少女。
その右隣には一番左端の少女とは真逆に、いないと錯覚してしまうほど影の薄い少女がいる。
そしてテーブルのカウンターではワインレッドの髪をした少女がトランプをシャッフルしていた。
そしてなにより、テーブルから離れたスロットの椅子で、くるくると回転しているのは梓乃と戦闘していた同じ〈終焉の悪戯〉の、ヨルムンガンドの少女だ。
全員が全員体の一部に鳥の翼をイメージした『D』の文字のマークが刻まれている。
統一されたエンブレムはチームの証。
そのマークは絶対不滅、不死身の異名を持つ絶望の六将軍。
チーム〈Despair phoenix〉のマークだった。
「で、どうだったんです? 貴女が戦った同族というのは?」
ポーカー片手間にヨルムンガンドに目線をくれたのは、赤毛の青年だ。
ヨルムンガンドは壊れているスロットのレバーをカチャカチャ言わせながら、憂鬱そうに目線を返す。
「ん……大したことなかった、とは言えないわね……」
ヨルムンガンドの返答に一番大きな反応を示したのは、馬のブレスレットをした少女だ。
頭以外に特殊な鎧をまとっている少女は、手札のカード一束を異様なバランスを持って指先の上においていた。
「およよ? めっずらしい。ホルンちゃんが認めたの? 出会ったばっかの契約者を。あ、二枚チェンジだよ」
「認めた……? 違うわ……本当の実力を見る前に相手が暴走しちゃったの……暴走してしまう器を選んだフェンリルの気持ちが分からないわ」
「毒舌ですね……まあ別に、ボスの名を汚さなければ何をしても構いませんけど」
「どっちが毒舌なんだか。毒姫に毒舌なんて言われたら、もう終わりじゃん?」
ガードをきるカウンターの少女を茶化すのは、テーブルの一番左に座るセレブっぽい少女。
少女は身につけた金銀財宝などを鈴のように鳴らし、金色の髪をあおいだ。
「それをズバッと言えちゃうアナタが凄いのです……ワタシは三枚チェンジするのです……」
セレブな少女の隣にいる、とことん影の薄い少女が、いつの間にかワインレッドヘアの少女にカードを三枚差し出していた。
「じゃあ僕は全部交換します。そう言えば最近有名になり出したあの契約者……何と言いましたっけ?」
「黒騎士です、ボス」
「ああ、そうでしたね。えっと、皆さんに報告です。その黒騎士が魔王を倒し次第、僕達も動きましょう」
ディーラーの少女から渡されたカードをすべてテーブルに伏せると、青年はテーブルの席を立った。
「いつまでも幻でいるほど、我ら絶望は甘くない。そろそろ、覇権を頂きましょうか」
燃え盛る炎のような紅い髪に、鮮血のように真っ赤な双眸。
上品な上に低姿勢でありながら、その瞳は闘争心で満ち溢れている。
青年のそれはまるで、草食動物を虎視眈々と狙う肉食動物のそれだ。
「さーて……まずは誰にしましょう……? メインディッシュはあの人と決めていますし……では手始めに他のチームの偵察にでも行きましょうか」
青年が去った後、影の薄い少女が静かに青年の伏せた手札を表替えした。
「やっぱり凄いのです……私達のボス……運も実力のうちって言葉をそのまま体現してる人なんて、あの人くらいしかいないのです……♪」
──ロイヤルストレートフラッシュ。
すべてを封じる最強の役を持って、青年は開幕の狼煙をあげた。
黒騎士が真に目覚め、そして史上最大の大判狂わせを起こし始める、本当の開幕の狼煙を。