第2話 龍が飛ぶ街②
クラスメイトの視線に耐えながら過ごす学校生活。誰とも会話しない百瀬胡桃は、入学して2ヶ月しか経たないがクラス内では浮いた存在となっている。
学校に登校して向かう場所は教室ではなく保健室。ここでブラックコーヒーを飲み、予鈴が鳴る3分前に教室へ向かう。授業の間にある休み時間の15分間は、自分の席から一歩の動かずに時が過ぎるのをじっと待つ。昼休みになると保健室で昼食を済まし、間宮の愚痴に付き合うか読書をする。基本的には誰とも話す事も無く(保健室で間宮と話す時以外は)、挨拶と授業中に当てられた時、雑用を頼まれた時くらいしか言葉を発しない。
胡桃は昼休みのあのやり取りがあったせいで授業に集中出来ないでいた。今の時代、龍が飛んでるとか馬鹿げた話だし、胡桃は信憑性の無い話は一切信じない。都市伝説?ネットの噂?そんなの作り話でしょ?
本当に龍がいるなら、捕まえて連れて来て欲しい。
胡桃はイライラを押さえながら必至で授業に集中する。一番前の窓際の席に、堂々と頭を伏せて爆睡している真崎黒衛がいる。
正直、真崎があの話に食い付いてくるなんて思わなかったし、興味があるだなんて思ってもいなかった。
電車に揺られておよそ一時間。胡桃は新宿駅で降りる。東口を出ると大勢の人でごった返しており、胡桃はそこを嫌な顔をしながら通り抜けた。
人混みが嫌いな胡桃にとって人混みの中を歩くのは最悪な罰ゲームだ。大型電器店の横を通り横断歩道の前で立ち止まった。その先には歌舞伎町と書かれた看板がある。周囲はより一層輝いている。横断歩道を渡り、歌舞伎町を通る。
胡桃はふと立ち止まって、空を見上げる。雲一つもない夜空で、星が輝いている。これで噂通りに龍が飛んでいたら、最高に素晴らしい景色が見れるかもしれない。
(そんな簡単に見えないよな。しかも龍だし)
まあ、噂なんだし確実に見える訳でもない。あんなに信じないだの、馬鹿らしい等と言っている割には心の片隅で龍に会えるのでないかと期待していた。ほぼ毎日の様に新宿に来ているんだからチャンスはあるだろう。
(馬鹿は私だな)
ちょっとした喪失感を感じなから、恥ずかしくなり少し赤面してしまう。
『……フェンリルよ』
胡桃の頭に声が響いた。中年の男性のような低い声で、耳元で囁くかの様に。
『……フェンリルよ。あの忌まわしき"金色の狼王"よ。我にその血肉を与えよ』
誰かに語りかけているのか。周囲を見渡す。でも、そのような人はいない。
それどころか、この声は聴こえていないようだった。
でも、この声は胡桃に語りかけてはいない。
「…………ん?」
ふと、店と店の間の細い道が目に入る。いわゆる路地裏。
ゴミが入った大きなポリ袋、使われなく放置された段ボール等、ゴミが散乱している。だが、その中に
「…………人?」
路地裏に入り、ポリ袋の山に近づく。25から30才くらいの男性が気を失って倒れていた。首まである黒髪はボサボサで全身は傷だらけだった。
(まさか、この声が探しているのは……)
『いつまで寝ているのだ‼‼』
怒鳴り声が響き渡ると、空が急に曇りだし雨が降りだした。
胡桃が驚いて空を見上げる。そしてまたさらに目を見開いて驚いてしまった。
「本当に……、龍が飛んでる‼」