学校の怪談2
「ねえ、ついにでたらしいよ。」
2時間目が終わった後の休み時間、前野侑季が、雅の机まで最高の笑顔で走ってきた。興奮して椅子に座っている雅の襟をぐいぐいと引っ張る。
「二年生の子がね。一昨日夜、忘れ物を取りに来た時にね。」
さも自分が体験したかのようにするすると言葉が流れる。雅は侑季の勢いに任せて体を右へ左へ揺れている。襟を全力で掴まれているため、首がどんどん締まっていき、意識が少し遠くなってくる。
「だからさ!」
襟から手を思いっきり離す。椅子と雅がぐらりと揺れ、隣の安寿にぶつかった。ふぐう、とうめき声が安寿の口から漏れる。
「探すよ!おばけ!」
侑季は自分の机の横に引っかかっていた音楽バッグを掴むと思いっきり中身をひっくり返した。中身が周りに飛び散り、隣の席の吉岡がすごく嫌そうな顔をする。国語のノートと鉛筆、校内地図をバッグに突っ込み、どこからか調達して来た双眼鏡を首に引っ掛けると、しわしわになった雅の襟を再び掴んだ。
「どこへ?」
すごく嫌そうに侑季を見上げる。
「そりやもちろん。」
今年一番のドヤ顔を雅は見たような気がした。
「現場!」
「ありがとね。」
2年2組の教室の前で侑季が笑顔で手を振ると二年生の男の子は照れ臭そうに小さく手を振り返した。侑季たちが去ったあと、周りで様子を伺っていた同級生たちがざっと駆け寄っていく。
安寿も、続けて手を振りかえしていたが、男の子は他の子に囲まれながら教室の中に消えてしまい、安寿の顔は少し赤くなる。
「さてと。」
メモを書き終え、国語のノートをぱたんと閉じると、真剣な顔つきで、雅に話しかける。
「とりあえず、噂通り、本当にいそうね。」
「あの話で。なぜ。」
雅は顔が赤くなった安寿を眺めながら白け顔。
2時間目終了後、侑季が近所に住んでる二年生をパシリに使って、生き生きとサッカーのチーム決めをしている噂の当事者浅川くんを無理やり教室から引っ張り出して聞いた話は、だいたいこのような内容であった。
一昨日の8時過ぎ、給食袋を取りに学校に来た。職員室に声かけに行くのが恥ずかしかったので、黙って教室に向かった。暗くて怖かったので廊下の電気をつけて、教室へ行った。給食袋をとって、教室を出た瞬間廊下の電気が急に消え、何かが呻く声が聞こえた。怖くなって走りだしたら、途中白い何かとすれ違った。
「なんで?急に電気が消えて音が聞こえて白いの見たんだから、これは間違いなく幽霊じゃない!ねえ、あーちゃん。」
急に話を振られた安寿は思わず目が点になる。侑季の興奮した目と雅の白けた目と、双方から視線を向けられ、側から見ても分かるほど、困惑している。首を傾げ、分かりませんの表情。
「まあいいでしょ。さあ次行くよ。」
その直後に予鈴のチャイムが鳴る。
雅と安寿と浅川くんの貴重な20分休みは、悲しくも消えて無くなってしまった。
「じゃあ続きは昼休みね。」
雅と安寿は昼休みもまた、消えて無くなりそうである。