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屋根裏、時計管理室

  教室二つ分はある広い部屋の真ん中から、絶え間なく一定間隔で乾いた音が聞こえる。

 大小多くの歯車が噛み合い組み合わさって、縦に5メートルはある巨大な機械になる。その背面で、大小二つの針が陽の光を浴びて校内の人間に時を告げる。

  築99年をほこる校舎の中で、建てらされた当初の面影が残る数少ない部屋の一つである時計管理室。壊れかけの汚れた木机や、過去の児童の制作物が無造作に置かれたこの部屋に雅はいた。手には錆びた懐中時計。壁際に座りそれをじっと眺めている。壁の隙間から外の光が漏れて、懐中時計の銀色の蓋で反射し、床が明るく照らされている。

「またここにいたのか。」

  屋根裏の入口である床の蓋を開け、坂橋久が顔を覗かせた。雅はちらりと久の方へ目をやったがそのまま懐中時計に視線を戻す。

  久はお構いなしにドタバタと階段を登り、入口から飛び出ると、入口の蓋を勢いよく閉めた。閉まると同時に床の埃が勢いよく舞い散る。久は咳き込むが、雅は視線すら動かさない。

「何見てるん?」

  埃が再び床に沈殿し、咳がひと段落した久が尋ねる。

「時計。」

「いやそれはわかるけどさ。何でそんなに時計見てるん?」

  久が雅の傍に寄り、懐中時計を覗き込む。蓋が開けられていて中の歯車が見えるようになっていた。

「へえ。時計の中身ってこうなってるんか。」

  久は感心したように言う。

「この時計の中身、何かに似てるのわかる?」

  雅が目線だけ久に向けて話す。

「何かって、動物とか?」

「そういうんじゃなくて。目の前のやつに似てると思って。」

 久が目を前にやると巨大時計の歯車がある。

「そりゃ同じ時計だし似てるだろうよ。」

「歯車の配置や比率、色、動きも一緒。」

 久が双方を見比べる。懐中時計の見える部分と同じ部分を探してみる。なかなか見つからない。

「そこだよ。」

 雅が部屋の奥を指す。歯車の一つ一つの比率、動くタイミング、汚れ具合、確かに全て同じだ。ただ大きさだけが異なっている。

「そんなこともあるんだな。それ、お前の?」

 懐中時計を指差し、にゅっと顔を覗き込む。

 雅は、しばらく懐中時計を眺めた後、ぽつり。

「拾った。」

「どこで?」

「ここで。」

「へえ。こんなところ、先生も入らんだろ。かなり古そうだし。いつごろのだろうな。」

 雅から懐中時計を受け取る。所々錆があり、裏には何か文字が書いてある。久は懸命に読み取ろうとしたが、暫くして諦めた。


 突然爆発音のような、猛烈な音が響き渡った。久は耳を手で覆った。天井を見上げると遥か上で鐘があった。大きさは1メートル以上はあり、大きく優雅に振れている。隙間からの光が反射して眩しい。

 しばらく揺れている鐘を眺めていた。やがて揺れが弱くなり。音が止んだ。

「すげえ音だな。外でも結構でかく感じるけど、中だと迫力が段違いだな。」

 久が興奮気味に言う。視線は鐘に釘付けのままだ。

「今、この懐中時計も鳴ってた。」

 雅はまだ懐中時計から視線を外さない。

「へえ、アラームついてるんだ。」

「ちがう、そうじゃない。」

「何が。」

 久は、急に否定されたので少しムッとなった。

「この時計から聞こえる音が、このでかい時計の鐘の音と同じだった。」

 はあ。久の顔がそう言った。

 しばらく雅の顔を呆れ顔で眺め、ふうっ、とため息。

「そろそろ戻ろうぜ。授業始まるし」

 懐中時計は五時間目開始2分前を差している。

「ぬう。」

 雅は一言漏らした後も動かない。

「はやくしろよ。学級委員の俺が怒られる。」

「知らん。」

「うるせえ。さっさと動け。」

 久が雅の背中をおもいっきり蹴る。

「ぬう。」

 とても痛そうだ。

 雅は嫌々立ち上がった。

 久が焦り気味に、雅が不満そうに、階段を降りていく。

 入り口の蓋がバタンと閉まり、また、床の埃が一斉に舞い上がった。

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