木造校舎二階、左から三番目
昼休み、給食を食べ終え安寿は教室後ろの窓を開けた。窓枠に肘を乗せ、外の風を浴びる。淡い黄色のカーテンがはためき、柔らかな風が頰をすり抜け、ストーブが汚した空気を払っていく。
もう春かな。
雲ひとつない快晴。冬の澄んだ空気の中から射し込む、春の陽射しが暖かかった。
「安寿ちゃん。」
安寿が振り返ると、一二三華奈が立っていた。
「なーにしてるの?」
華奈が頭を少し傾ける。短い髪がふわりと揺れる。
「もう春だなあって。」
「そっか。そうだね。なんかあったかいよね。」
華奈が安寿の横から身を乗り出して空を見る。
今日の天気は一日晴れでしょう。
予報は今も的中している。
「最近の安寿ちゃん、笑顔増えたよね。」
安寿が華奈を見た。華奈はよく笑う。今も嬉しそうに笑っている。
「そうかな。」
「そうだよ。前まではなんか、怖がってたもん。私が声かけても、話しかけてもなんか不安そうな顔してた。」
「そんなに怖がってたかなあ。」
「そんなに怖がってたよ。」
安寿はどこか照れ臭くなった。確かに怖がっていた。学校に、クラスに、人に。
「だからさ。私なんか嬉しい。」
華奈の笑顔を見ていて安寿も自然と顔が緩んできた。
「その笑顔最高!」
華奈の左手がグッジョブした。
「ねえ安寿ちゃん。外行こうよ。暖かいしさ。」
友達がいること、友達に話しかけられること、友達に誘われること。当たり前の出来事が、安寿にとって新鮮で、温かくて、嬉しい。
「うん!」
華奈に負けないくらいの笑顔で応えた。華奈が安寿の手を取り、木造校舎二階、左から三番目の教室を飛び出した。二人は木の床が悲鳴をあげる廊下を駆けていく。
教室後ろの窓は全開のまま、淡い黄色のカーテンがゆらゆらとはためいている。