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学校の怪談4

「とりあえずね!七不思議なのよ!七不思議!」

 前野侑季が校舎裏の大木の下で、幹を手のひらでたたきながら自信満々に言う。周りには山と雑木林しかない高野山(こうのやま)小学校は柵の代わりに(けやき)の木を境目としている。校舎の裏は、コンクリート舗装もされておらず、欅の木の先は、ぼうぼうに生えた雑草で埋まっている。

 校舎裏をぶらぶら歩いているところを捕まってしまった雅と安寿はとりあえずと話を聞いている。二年生が見たというお化けの話は一時的に学校の話題にはなったが、2・3日も過ぎるとすぐにテレビとゲームの話題にかき消されてしまった。しかし侑季の探求熱は冷めることなく、雅と安寿は旧校舎中を引っ張りまわされ、実りのない聞き取り調査に連れまわされた。連れまわされた挙句、今度はお化け騒動と学校に伝わる七不思議とを結び付けて学校中を探し回ると言い出したものだから、流石に嫌になった雅は、昼休みが始まると同時に安寿を掴んで、教室を飛び出し、考えうる最短のルートを通って校舎を飛び出した。

「七不思議って今時流行んねえよ。」

 雅が表情を一切変えずに淡々と言葉をこぼす。いくら早く逃げても学校内では限度があった。校庭で人波に紛れるか、ほとんど人が来ない学校裏にするか。悩んで学校裏を選んだ結果、悲しいことに5分で侑季に発見され、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始められてしまったのである。上履きから馬鹿正直に外履きに履き替えたのが間違いだったと、目の前の騒がしい同級生を見ながら反省をする。

「だって、うちの七不思議におんなじのがあるってきゅうちゃんが言うんだもん。」

 頬を膨らませて反論する侑季。逃げたことに怒り、部下を失ったことに怒り、即発見できたことに小さく喜んでいる。

「こちらをごらんなさい。」

 怒った表情のまま木の下にある祠を指さす。

「なんか、この高野山(こうのやま)小学校は昔にいろいろあったんだって。だからそんな話がまとまったのがうちの七不思議。この祠も登場するんだよ。だからさ、調べてみたら楽しそうでしょ。」

 目を輝かせ、ジェスチャーを交えながら雄弁と語る侑季。自分が楽しいのだから当然周りも楽しいと思っているに違いない表情で雅をみる。

 見返すのが嫌になった雅が安寿の方をみると、しゃがんで祠の中を興味深げに眺めていた。

 祠は石造りになっていて、3人の腰ほどの高さと小さい。中には小さな地蔵が一つ。相当な年月が経っているようで、角が丸みを帯びている。地蔵の顔も風化が進み、もはやどんな表情をしていたか読み取ることはできない。

「七不思議、興味出てきたか?」

 雅が安寿に声をかけるが、視線が祠に向いたまま動かない。おかっぱの髪がさらりと風に揺れる。木々の葉が擦れる音が徐々に大きくなってきた。

 ふむ。と雅がつぶやくと大木を見上げた。長い歴史を持つ高野山小学校よりさらに古い歴史がある木を見上げると視界いっぱいに緑が広がる。

「流行らなくてもいいか。」

 頭をぼりぼりと掻く。

「そうそう。そうでしょう。ということでね。うちの学校の不思議。探そう!」

 歴史のある大木をバンバン手のひらでたたく侑季。

「じゃあさっそく、図書室いこうね!」

「図書室でなにすんの?」

「きゅうちゃん、新聞委員でしょ?昔の新聞記事になんか関係あるやつないか、調べてもらってるの。さあ安寿ちゃん。祠はまた今度調べるから、いこ!」

 祠を眺めたまま動かない安寿の頭をポンポンとたたくと、脇に手を入れて安寿を持ち上げた。それほど背の高くない侑季だが、持ち上げると安寿の足が少し浮く。いきなり持ち上げられたのでびっくりして足をじたばたさせる安寿。お構いなしに引きずる侑季。

 前の学校にもあったのかな。

 雅はふと、転校する前の学校のことを思い出した。

「あったとしても、きっと調べねえよなあ。」

 投げやりに声に出すと、引きずられている安寿の後を追って、大木の前を離れた。

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