稲妻のような衝撃
聖治視点
「聖治、今日会うのは如月グループのご令嬢だ、決して粗相をするなよ」
ある日、父上にお前に同い年の婚約者の話が上がっていると言われた。正直めんどくさいなと思った。
だって女の子ってすぐキャーキャーいってうるさいんだ。僕は静かに本を読みたいのに構ってくれと付き纏うし、自己中な子がほとんどだ。そんなの相手にするなんて精神がすり減るだけだ。
でも、父上の命令は絶対。仕方がなく会うけれど絶対仲良くなんかなれないよ。
紹介された女の子をまじまじみる。淡い栗色の髪をツインテールにしている。顔立ちは愛らしく洋服もふわふわでレースがふんだんに使われている如何にも可愛がられて育てられたお姫様みたいなのに醸し出す空気がそれを裏切り甘さなどないキリリと引き締まったもので、姿かたちは可愛いが目に見えない何かが可愛いだけじゃないと訴える不思議な女の子だった。
「私は如月玲那、聖治くんよろしくね」
その子は笑顔であいさつしてきた。笑った顔は花が咲いたみたいに可愛らしかった。でも、僕は女の子の面倒くささを知っている。下手に優しくしたら大変なことになるんだ。
「……よろしく」
僕はあえてそっけなく返した。
そして子供部屋に2人っきりにされた。はあ、これから苦痛な時間が始まるんだと思っていた僕は予想を裏切られあっけにとられた。
その子は僕を放置して本を読み始めたのだ。いまだかつて僕はこんな対応されたことがない。
だが、これはこれで助かったんじゃないか。相手が大人しく本を読むなら僕だって好きにしていていいはずだ。ここは子供部屋なのに大きな本棚があってびっしりいろんな本が並べられている。どれか1冊借りて時間をつぶそう。そう思ったのだが……
「え、なんだこれ。中学生用の数学の本? これは英語の洋書じゃないか。ねえ、ちょっと、これ君が読んでるの? まさかだよね。」
信じられないことにそこにある本は僕では理解することができない高レベルなものばかりだった。子供部屋にある本ではない。こんな本、僕と同い年の女の子が読んでいるなんて信じられらい。
「え、そこにある本棚の本は全部私のものだけど。君が読むにはちょっと早いよ。何、何か本読みたいの? うーん困ったな、あ、この海外の恐竜図鑑ならイラストばっかりだから見てても楽しいかも。どうぞ!」
そんな馬鹿な! これが読めるだって!? 嘘だ!!
しかも君が洋書の本を読んる横で僕に図鑑を読んでいろだと!!?
あまりの侮辱に手が怒りで震えた。
「馬鹿にするな! 僕だって英語なら習っている、こんな子供向けの本なんか見るか!」
図鑑を地面に思いきり叩きつける。
「じゃ、本棚の好きなの見ていいよ」
しかし、彼女は僕の様子など気にしたふうもなく、そっけなくかえしてきた。
くそっ、いいさ、僕だって家庭教師に勉強をみてもらっているんだ! 同い年の子なんかよりもずっとずっと優秀なんだ! 僕にだってここの本ぐらい読めるさ!
しかし、僕に理解できる本がなかった。いったいいままで僕が必死に勉強してきたのはなんだったんだ。悔しくてくやしくて目から涙が留まることなくあふれ出した。
「ど、どうしたの?」
僕が泣いていると、彼女は初めて焦ったように声をかけてきた。
「読めない、よめないよ、ここにある本全部よめないよ! なんで同い年の君が読んでるのにこの僕が読めないんだ! 僕は鬼龍院聖治だぞ! 毎日皆より必至に勉強してる。まわりの大人が言う通りにやってる! それなのになんでなんで!」
気がつくと、あふれ出した感情を何の咎もない彼女にぶつけてしまった。
「それは、まわりの大人が言う通りにやってるからでしょ? 私が勉強してるのは人に言われてじゃないもん。私がやりたいからやってるだけだもん。」
そんな僕に彼女は「何いっての?」と軽く返してきた。
「え、どういうこと?」
思いがけない返しに僕はただ唖然と聞き返した。
「受け身で与えられている分しか学ばされていないんだから読めなくて当たり前だよ。その本は自分から学ぼうとしなければ読めない分野なんだから。 聖治君、君はどうして勉強を頑張るの?」
どうして勉強するのか、そんなの考えたことなかった。
「父上が鬼龍院家にふさわしい人間になるために勉強しろっていうから、かな。」
父上が、まわりの大人が勉強しなきゃダメな人間なるっていうから、だから頑張ってきたんだ。
「勉強しろっていわれて、他の人が決めた範囲のものを勉強すれば本当になりたいものになれるのかな。私はそうは思わない。受け身の人間が本当になりたいものに望んでなれると思う? 望むなら自分から動かなきゃ。私はね、まだこの世界のことをよく知らない。知らないから学びたい、そして望んだものになりたいの。あ、まだ具体的に何になりたいとかはないんだけどね、そうね、いまのところはなりたい自分になれる、何にでもなれる人になりたいが私の目標なの。だから自分で興味のあることは幅広くてをだしてて、結果こんな本棚になってるってわけです。」
彼女の言葉は僕に稲妻のような衝撃を与えた。いや神からの天啓が降りてきたかのようも感じた。
「君はどうなりたい? 親がなれって言うからじゃない、君が望む自分はどうしたいって言ってるの?」
わからない。なりたいもの。鬼龍院家にふさわしい人間、いや、それは僕が望んだことじゃない。じゃあ僕は何を望んでいる。何になりたい?わからない、けど、今、強く思うことがある。
「僕は、僕は…………とりあえず、この本棚の本を読めるようになりたい」
そう答えた僕に君は無邪気に笑ってくれた。
「あははは! いいよ、じゃあそれは私が叶えてあげる! 一緒に勉強しようよ」
「うん」
彼女につられて僕も笑いながら、今日、この日、君にあったことで僕の人生が大きく変わったことを確信した。
◇おまけ◇
聖治「ねえ、なんであんな難しい本ばかりの棚に恐竜の図鑑なんてあったの?」
玲那「ああ、この間ね恐竜島っていう映画みてさ、現代に恐竜がよみがえるってやつなんだけど、実際そんなことになって生き延びるには奴らの特性とか知ってなきゃダメだとおもって、お兄様に頼んで買ってもらったの。専門書なみにいろいろ書いてあるうえ写真とかリアルだし覚えやすくてすごくいい本なんだよ! 今では私の一番のお気に入りの本なんだ!」
聖治「(玲那のお気に入り……)へぇ、やっぱり僕にも読ませて?」
玲那「持って行っていいよ! 今度遊びに来たときに帰してね!」
聖治「うん(次来るときまでに全部内容覚えて玲那と恐竜トークするぞ!)」
属性:インテリクール美幼児→インテリわんこ系一途美幼児……なんだコレ