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チーズケーキの行方

※『』はロシア語

「お断りします」


 玲那は思った。 


 突然知らない男に腕を掴まれ、自分がこれから食べようとしていたケーキをよこせと言われて簡単に渡すか! 否! 断じて否である!


「え……」


 男は断られると思っていなかったみたいだ。


 男をよく見てみる。黒髪の長身。異国の血が混じっているのか肌が黄色人種とは思えないほど透き通るような白だ。言葉も片言である。目の色も黒というより紺色? 青みがかっている。その瞳がうるんでおり必死にこちらを見ている。


 そのなんとも言えない眼差しに玲那の断固とした思いが揺らぐ。


「な、なんなのよ」


 このケーキは私のよ! 自分で食べるために作ったのだから、彼にあげる必要はないしそんな悪いことしてるわけじゃないのに、この罪悪感。


「俺、ハラペコ」


 彼は自分のお腹をさすりながらアピールしてくる。


「……お腹減ってるの?」


「うん。ごはん忘れた。財布もない。俺困ってる」


 彼はとてもお腹がすいて困ってるようだ。仕方がない。


 私も鬼ではない、分けてやるか。


「じゃあ仕方がないわね。分けてあげる」


 玲那は1ホールのチーズケーキを真っ二つに割り半分を彼に渡した。彼はそれを受け取りガツガツ食べ始めた。ケーキを手づかみで食べているのにどこか品があるのはなぜだろう。イケメンクオリティー? セレブクオリティー?


 まあ、いいか。


「私は如月玲那。あなたは?」


 渡したケーキにかぶりつきながら彼は答えた。


「俺、西園寺紫苑」


 あれ? 西園寺紫苑って生徒会書記の名前じゃなかったかしら。


「あなた生徒会書記?」


「うん」


 どうやら本人らしい。


 はっ!


 聖治、姿の見えない書記さんここにいますよ~!


 生徒会室の方向に心の中で叫んでみる。


「ねぇ、なんであなたここにいるの? 今授業中よね?」


 そもそも何故この人ここにいるんだろう。一般の生徒は授業中だし。生徒会のメンバーは申請すれば授業免除もできるけどこいつは仕事してないらしいから、クラスが自習にでもなったのかしら。ま、私も今授業中だけど中庭にいるしなにかしらあるのかしらね。


「お腹減った。いい匂いした。だからここきた。俺、鼻利く」


 え。チーズケーキの匂いに引き寄せられてやってきたとかなんて動物的本能。犬か。犬属性か。もしかして生徒会室にこのケーキおいておけばおびき寄せられるのかしら。



 しかしこの人、かなりのイケメンだし、いくらでも食べ物GETできる手段はあったんじゃなかろうか。


「あなた生徒会の人間よね。だったらファンクラブの子とかに食べ物分けてもらえばいいじゃない。生徒会メンバーには必ずファンクラブがあったハズでしょ? 何でわざわざ私からケーキもらおうとしたのよ」


 他の人にごはんもらえば? と話すと彼は顔をしかめていった。 


「ファンうるさい。うるさいキライ。あいつら、食べ物、変な薬入れる。危ない。だから食べない」


 変な薬ってなんだ! 皆何を入れているんだ! もしや皆ダークマターを作成しているの?!

 

 確かにあれは人が食べれる代物じゃない。でも、薬は入ってないと思うけど?


 それとも薬ってもしかして定番の媚薬とかかしら? それとも眠剤?


 イケメンも大変なんだな、と同情する玲那であった。



「如月、知ってる。お前騒がない。このケーキ、薬の匂いしない。うまい」


 彼はペロリと自分のケーキを食べ上げ、私が食べてる残りの半ホールをじっと見つめる。なんだ。まだ食い足りぬと申すのか! さすがに残りは渡さないぞ!


 彼の目線からケーキを遠ざける。



「そう。ねえ、さっきから気になってたんだけど何であなた片言なの?」


「俺、ロシアと日本の混血。3年前日本来た。日本語、うまく話せない。だから話すキライ」


 ロシアか。そうね、この学園の生徒は大抵日常会話程度の英語は話せる。でもロシア語など他の国の公用語の勉強は高等部に入ってからの選択科目。話せる人はなかなかいないだろう。


 だが、玲那は将来のことを考え、現在英語のほかにロシア語、イタリア語を勉強中であった。ロシア語は身近に話させる人がなかなかいなくて実践できる機会が少なく本場の人に通じるか不安に思っていたところだった。これはチャンスかもしれない。


『ねえ、私ロシア語勉強中なんだけど、これってちゃんと話せてる?』


 私はまだ勉強中のロシア語で彼に話しかけた。すると、彼は驚いてロシア語で返してきた。


『お前ロシア語話せるのか! ああ、ちゃんとわかるよ! すっげぇ嬉しい、 久しぶりにロシア語聞いた! 母様も父様も日本語になれるためだって言って家でロシア語話すの禁止になって……学校じゃ話せるヤツもいなくてさ』


 よかった。なんとか通じるみたいだ。彼の言葉もちゃんと聞き取れる。


『そうだね。実際に話して覚えるのが一番だもんね。じゃ、私はロシア語で話かけるから、あなたは日本語で話してよ』


『えー嫌だよ。お前ロシア語話せるんだったら俺が日本語話さなくてもいいじゃん。日本語話すの頭使って疲れる。疲れると腹減るし。やっぱり母国語で話すのが一番楽でいいな!』


 日本語のイントネーションは難しいし、方言によっては日本語なのに外国語に聞こえるものもある。そんな日本語をいちから勉強する彼は大変だろう。


 でも、


『ちゃんと話して覚えなきゃいつまでたってもつたない言葉のままだよ。それで将来苦労するのは君なんだから! 脳みそやわらかくて吸収力のいい今のうちにしっかり覚えなさいよ!』


『う、うん』


『あ、それとね、生徒会の副会長やってる聖治もロシア語少しなら話せるよ? なんか困ったこととかあれば話してみるといいよ』


『え! マジ「日本語でいいなさい!」


 日本語をつかわない西園寺を叱りつける玲那。


「……知らなかった。今度、話しする」


 しょぼーんと落ち込む彼。片言だと犬属性に思える。


 彼は片言で話すときとロシア語ですらすら話しているときでは印象が全然ちがう。玲那は片言で話す時の彼の方が可愛くていいなと失礼にも思っていた。


『そういえば、あなた生徒会に一度も顔だしてないらしいじゃない。書記なんでしょ。仕事しなさいよ』


「俺。筆記完璧。だから仕事、できる。でも、話すダメ。会長、たくさん話かけてくる。でも、意味わからない。あいつ話す、苦痛」


『そ、そうなんだ。でもあなたが仕事しない分、聖治が苦労してるんだから会長は無視して仕事しなさい』


 彼はその整った顔を最大限歪め変顔したのちしぶしぶ頷いた。


「わかった。聖治、話したい。生徒会室いく」


「おう、頑張れ」


 意外にも素直に生徒会室に向かう西園寺。しかし歩みを止めこちらを振り返った。



「ケーキ、美味しかった。ありがとう。また、ね」


 そう笑顔で言うと彼は今度こそ去っていった。



 可愛いじゃんかちくしょう。



 思春期の男子中学生。


 まだまだ素直な部分と生意気な部分が有り余っていて大変カワユイです。



 玲那は聖治にメールした。




――――――――――――

To 聖治

Sub 迷子のワンコ発見

――――――――――――

お探しの書記くんに遭遇

チーズケーキ強奪された

奴は現在そちらへ進行中

弱点はロシア語のようだ

襲撃に備えよ!! 

    ―END―

――――――――――――





 ものの数秒で返信が来た。





――――――――――――

To 玲那

Sub Re:迷子のワンコ発見

――――――――――――

意味わかんないんだけど?

チーズケーキって実習の?

それ、僕にもくれるって

言ってたよね…

こんなメール打てる暇ある

なら生徒会の仕事手伝って

    ―END―

――――――――――――






 あ、そういえばチーズケーキ聖治にもあげる約束してたんだった。



 忘れてた。



 ついでに休み時間に菜奈ちゃんにもチーズケーキがないことを責められる玲那であった。



すみません。ケーキはすでに胃袋にあるのです。

無口くんじゃないな。

めっちゃ話とるし。

片言くんとでもいえばよいのだろうか。


メール文、携帯とかだと見づらくなってたらすいません。

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