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玲那ちゃん、地上に舞い降りる

 放課後、玲那は人気がない3階の廊下の窓から外の景色を眺めていた。


 とりあえずこの学園の非常識を一般的な常識のもと風紀が機能しある程度の規律をつくりたいと考えていた。そのため風紀委員に一般的な常識を持って取り締まりにあたってもらいたいと思っていたのだが、まさか彼らが風紀委員の仕事内容をこれっぽっちも理解していなかったとは驚きである。


 彼らにはみっちり風紀について叩きこんだものの、風紀が取り締まったからといってこの学園全体に蔓延る家の権力至上主義は大して揺らぎもしないだろう。


 生徒に道を示す教師でさえも家柄で生徒の待遇を差別しているし、家柄の低い子がいじめにあっていても誰も止めはしない。そんな情けない大人が見本となってるんだから手におえない。


「どうしたもんかしらね」


 思わずため息を吐いてしまう玲那であった。


 思案しながら外を見ていると、校舎の裏にゾロゾロと数名の女生徒が人目を忍ぶようにやってきた。そして、1人の生徒が壁際に追い詰められる。






「ちょっとあなた、最近ずいぶんと調子に乗っているんじゃなくて?」


「そうよ、香城様に少し優しくされたからっていい気になって!」


「香城様に付きまとわないでくださいまし!」


 3人の女生徒が1人を取り囲む。


 多勢に無勢。囲まれている子は大丈夫かしらと見守っていたが……


「ふん、何よ! あんた達は繭理様に相手にされないからって、私に絡んでくるのやめてよね? 繭理様に言いつけるんだから!」


 うーん。囲まれている子も結構いい性格の子みたい。


「何ですって!?」



 あらー、言い合いの末取っ組み合いにでもなりそうな雰囲気を醸し出している。


 香城様、繭理様ね。それって生徒会会計の香城繭理のことよね、きっと。髪の毛をチェリーブラウンに染めてて、ピアス、ネックレスなどシルバーアクセサリーをじゃらじゃら付けてるチャラい男。女好きと有名でいつも周りに大勢の女の子を引き連れて歩いている。しかしそのそばに置く女の子は日替わりランチのごとくいつも違う子で、同じ子を長く傍に置かないことで有名だ。


 私チャラ男って生理的に受け付けないのよね。話す内容も薄っぺらいっていうか、胡散臭い感じがね……。マンガとかアニメの2次元とかだとまあ、許せるんだけど、私の好きなキャラって寡黙で誠実、堅実なタイプだし。チャラ男なんて絶対リアルでは関わりたくないわ。



「ねー、何みてるの?」


 突然後ろから声をかけられた。そして振り返ると――――


「あー君、如月財閥の如月玲那ちゃんでしょー。わー、俺はじめて近くでみた。思ってたよりも美人さんだ!」


 何故、関わりたくないと思った次の瞬間に現れるのだ香城繭理!


「ごきげんよう、香城様」


 顔が引きつりそうになるのを抑え、なんとか挨拶する。


「あれ、俺のこと知ってるの? ま、俺有名だもんね!」


 なにがうれしいのか、楽しいのかしらないが常に顔に胡散臭い笑顔を浮かべる香城。胡散臭いと感じてしまうのは先入観からくる嫌悪があるからだろうか。


「ええ、彼女達も香城様のことをよく御存じのようで、揉めてらっしゃるみたいですよ?」


 先ほどの彼女達に視線を戻せば、取り囲まれた子が丁度頬を引っぱたかれていた。


「ええー、俺あんな子たち知らないよ? ね、それよりお茶しに行こうよ! 美味しいお店知ってるんだ!」


 知らないわけないだろうが。お前が知らないのなら何故彼女たちは揉めているだ。


 突っ込みたいのにヤツは私の腕を掴み歩き出そうとした。おい、こっちの意志は完全スルーですか!


「ご遠慮いたしますわ。私先約がございますの」


 私がそう言うと、ヤツは私の腕を強引に引っ張り、私は廊下の壁に体を寄せられた。そしてヤツの両手が顔スレスレで私の背後の壁をドンと叩いた。

いわゆる壁ドンです。アパートで隣の部屋の物音がうるさい時にする壁ドンではなく、乙女マンガ的な壁ドンです。


「ねえ、それって俺より優先しなきゃいけないこと?」


 私の顔をのぞきこみながら低く甘い声音で吐息のように言う。


 普通、顔がいい男にこんな至近距離で、こんな体勢で言われたら嬉しいものなのかもしれない。胸きゅんポイントなのかもしれない。


 だが、玲那の胸はまったくときめかなかった。それどころか胸は氷のように冷たく冷えていくのを感じた。熱が引くというか、この男の存在そのものに引いた。耐え切れず、玲那は香城の腹部に膝蹴りを一発入れてしまった。


「うぐッ?!」


「ないわー。ほんっと、ないわー。あんたより優先しなきゃいけないことって、聞くまでもないでしょうが。あんたより優先しなきゃいけないことだらけだわー。まずさ、あそこで揉めてんのあんた絡みのことでしょ。女の子1人ビンタくらってるんですけど。あんたのせいであんなことになってるんだからあんたがビンタもらってきなさいよ。あんな現場みといて、スルーとか。しかも私をナンパとか。どうなってんのその頭の中。初対面で断りもなく私のパーソナルスペースに入り込んでこないで。思わずぶん殴りたくなるから」


「え、え?」


 香城は何をされたか、何を言われたかわからず混乱している様子だった。


「まったく、周囲に迷惑かけるような女遊びすんな! ハーレムつくるならハーレム要員の教育はしっかり叩きこんどけよ! それができないならいつか背後から刺されて死ね!」


 そう言い放って、玲那は窓から飛び降りた。


 ええ、3階の窓から、身軽にふわっと。






 そして華麗に地面に着地した。


「ちょっと、あなた達も! 多勢に無勢ってどうなの? 呼び出しなら正々堂々1人づつにしなさいよ。大勢で1人を取り囲むって、マナーがなってないんじゃなくて? 言いたいことがあるならタイマンが基本でしょうが!」


「「「「え?」」」」






玲那ちゃん、地上に舞い降りる

やらかした( ´・ω・`)

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