な・ぐ・り・こ・み
「たーのーもー」
玲那は風紀室と書かれた部屋の扉を思いっきり開けた。
中には制服を着崩したガラの悪い生徒が数名いた。部屋の奥には立派なソファーにふんぞり返ってタバコをふかす男がひとり。
彼の名は堂本龍兒。この学園の風紀委員長だ。しかし風紀委員長とは名ばかり。彼が一番風紀を乱しているだろう外見をしている。
まあ、それもそのはず。彼は国内最大級と呼ばれる極道の跡取り息子だ。シルバーに染め上げられた髪。鋭い目つき。中学生とは思えない鍛え上げられた肉体。醸し出す雰囲気は明らかに堅気のものではない。
「あ？ なんだてめぇ、ここがドコだかわかってんのか？ お嬢ちゃんのくるようなとこじゃねーぞ」
「ぎゃははは！ 大人しく出ていかないとピーにピー突っ込んでガタガタいわせっぞゴラァ」
突然の侵入者である私に彼らは厭らしい目つきでジロジロ見ながら近寄ってきた。
「あら、じゃあ私はあんたのピーにピー突っ込んで新しい扉開いてさしあげましょうか？」
玲那は不敵に微笑んだ。下品な絡みにより下品に返してやった。まさかいかにもどこかいいとこのご令嬢といった外見の私がそんな言葉を発するとは思っていなかったようで彼らは驚いていた。
「な、なんだこのあまぁ！」
ちょっと玲那に怯えを見せる彼らだったが、この部屋の主は気にした風もなく一言発した。
「何のようだ」
冷たく、背筋をぞっとさせるほどの美声が玲那の耳に届いた。
おお、なんというイケメンボイス。内心そう思いながらも目的を達成するため玲那は行動した。
「あのね、私あなたたちにちゃんと風紀の仕事してくださいって言いにきたの」
「……」
「「「はぁ？」」」」
「だってあなたたち風紀委員でしょ。なのにいじめで校内が荒れてるっていうのに何にも仕事してないじゃない。それどころか自分たちが率先して風紀乱したりなんかして。その役職についたんだったらちゃんと役割果たしてほしいのよ。あ、どうしても仕事しないっていうなら風紀委員長の座、私にちょうだい？」
玲那は真面目に言い放った。
「てめぇ、誰に口きいてんだコラぁ！ ここにいるのは堂本組の次期組長堂本龍兒さんだぞ！ お前の家族もろとも社会から抹殺されるぞコラぁ？！」
「いや、俺の家の力ではこの女の家を潰すのは無理だろう。こいつは如月グループのご令嬢様だからな。逆に、お前らの家が簡単に取り潰されるだろう」
息巻く取り巻きに堂本は冷静に答えた。
「えっ、如月グループってあの如月グループっすか」
如月の名前に彼らは慌てだす。
「あら、私のことをご存じなの？」
玲那の反応に堂本は苦笑いを含んだ表情をした。
「ああ。忘れはしないさ。もっとも、お前は俺を覚えていないだろうがな。それに、この学園に如月玲那の名前を知らないヤツはいないだろう。あの如月財閥の娘で、如月家始まって以来の麒麟児。跡取りとされていた長男を抑えて、今や如月玲那が将来は如月財閥を継ぐだろうと言われる才女だ。で、どうする？ お前は家の力を使って風紀委員長の座を手にいれるのか。お前ならそれも可能だろう？」
堂本は私のことを知っているようだが何か誤解があるみたいだ。何故私が如月グループの跡取りなどという話が広がっているのだ。跡取りはお兄様に決まっているだろうが。
でも、どうしたもんかね。家の力で彼らから役職を取り上げる。できなくはないが、その方法は私が一番嫌な方法だ。家の力に頼るなんていじめを行っている彼らと変わらなくなる。
「家の力に頼るのは嫌いなのよね。私は如月玲那。如月家のものとして扱えるその権力もまた私の持てる力の一部ではあるけれど、それは私個人の力ではないわ。私は家の名がもつ力に溺れ、個人的な私情に対して無暗矢鱈に力を振りかざす人が大嫌いなの。だから……そうね、風紀委員長であるあなたに１対１の決闘を申し込むわ。勝った方が相手の言うことを１つ聞くってことでどう？」
「「「はぁ？ お前が堂本さんに決闘？！」」」
「お前なら、そう言うと思っていた」
驚愕の表情を浮かべる彼らの中、堂本だけが仄かに口元に笑みを浮かべていた。
いざ、勝負です！
