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第9話 水中の死闘:後編



さらに2時間30分後、敵艦隊の一番外側の艦艇の真下を通過した。

キーン、キーンという探信音がやむことなく響いている。

ここまで来ると一つ一つの動きにすごく慎重になる。

すでに爆雷防御のためにガラス類を片付けたりしてあり、乗員も無駄な音を立てないよう慎重に動く。

うっかり大きな音を立て、真上の艦の聴音器に聞かれたら……。

無論爆雷の雨が待っている。


15分後、生駒艦長は再び潜望鏡深度を命じた。

ここまで来ると潜望鏡を上げるのは非常に危険である。

敵艦はもうすくぐそこなのだ。

しかし、潜望鏡を上げないと敵艦がどこにいるのかわからない。

艦橋内では全員が緊張でこわばった顔をしている。そして、


「潜望鏡上げ」


すっと潜望鏡が上がっていく。海面に出るとすばやく潜望鏡を回し敵空母を確認する。


「潜望鏡下げ」


今回もわずか5秒程度。

まだ強力な対水上レーダーが装備されていないため見つからないが史実ではこれが1年後ぐらいになると潜望鏡を上げただけで探知されてしまい、潜水艦の被害が急増し始めるのだがもちろん艦長を含め日本海軍の誰もがそんなことは知る由もない。

艦長は艦内スピーカー用のマイクを手に取り、


「総員に告ぐ。本艦は敵大型航空母艦右舷後方1200メートルのところに出た。ただ今より雷撃を開始する。命令一つ一つに注意し、寸分たりとも後れるな」


艦長は変針を命じ一番近いところにいる敵空母に艦首を向けさせた。

一方魚雷発射管室では最後の調整が続けられていた。

重たい魚雷と水雷科員が格闘する。艦長は報告を待った。

その間にも微妙な針路の変更を行う。

敵空母は先ほど見たところやや右へ舵をとっていた。

艦長は敵空母と自分の艦の動きを頭の中に描きながらタイミングを待ち続ける。


「前部魚雷発射管、発射用意よし」


水雷長から報告が来た。

艦長はその報告を受けると最後の確認としてもう一度潜望鏡を上げた。

すると幸運なことに敵空母はまだ右へ舵を取り続けていため願ってもない角度、こちらにその腹をさらすように進んでいっている。

艦長は今こそチャンスと雷撃を決行した。


「1番2番魚雷発射管、ぇ!」


魚雷2本が発射管を飛び出して行った。30秒後、次の魚雷を撃つ。


「3番4番魚雷発射管、撃ぇ!」


さらに2本が続く。

このずらして撃ったのはどれかに当たることを期待して少し散らすという意味もあるがどちらかというと艦の後部に命中するようにしたものだ。

艦の後部に上手く命中し、機関室もしくは缶室に命中すれば大爆発を起こし艦は轟沈する。

もっともそう上手くはいかないだろうが、とにかく1本当てればしばらく稼動可能な空母を減らすことができる。

そうすればこれからの作戦が少しでも有利になるだろう。


ドーン、ドドーン!!

命中音が2つ聞こえた。

少し遅れてさらにもう1つ聞こえ、しばらくして大爆発音が響いた。


「やったぞ!命中だ!!」


「俺達は敵さんの空母をまたやっつけたぞ!」


艦内のあちこちから歓喜の声が聞こえる。

艦長も今までの緊張した顔を少し崩したが問題はこれからだった。

そう、空母を沈められた敵艦達が自分達を躍起になって探すはずだから。


攻撃後、2時間ほどは運良く見つからずにすんだ。

敵艦が上を通るたびに機関を止め、息を殺して進んだ。

ところが攻撃後2時間半が経とうとした頃、真上を通り過ぎた敵駆逐艦から爆雷が投下される音を聞いた。

とうとう来たか、艦長は腕を組んだ。

1隻2隻の攻撃なら受けてたってやる。

そう意気込んだが海上の敵の数はそれどころではなかった。


「新たな敵艦2隻接近中!これで本艦付近にいる敵艦は6隻になりました!右舷上方の艦、爆雷を投下。4、いや6発!」


聴音器に耳を当てている兵が報告、というより悲鳴を上げる。

くそっ、たった1隻の潜水艦に6隻も駆逐艦を出してくるとは…。

艦長もさすがにこれだけの数に出てこられるとどうしようもなかった。

とにかく爆雷に当たらないように回避を続ける。

敵艦からは嫌がらせのように探信音が響く。



そうして敵駆逐艦と格闘すること2時間、ついに電動機のバッテリーが切れてしまった。

今まではこの電動機が動くおかげで右へ左へと爆雷をよけていたがこれからはそうはいかない。

ここまでか……、と全員があきらめかけたそのときだった。


「高速スクリュー音探知!その数8、敵駆逐艦へ向かいます!!」


水測長が叫んだ。


「魚雷か?どっから撃ってきたんだ?」


艦長は水測長に問う。


「本艦の後方からです。おそらく水中から…」


水測長の返答をさえぎるようにすさまじい爆発音が響いた。

敵駆逐艦数隻がまともに魚雷を喰らったようだ。

水中からといえば潜水艦しかない。

味方の潜水艦が助けてくれたのだ。


「敵駆逐艦、退避していきます」


残った駆逐艦は予期せぬ攻撃を受け浮き足立ったのかあわてて引き揚げていった。


30分後、「伊−168」は浮上した。

しばらくすると2隻の潜水艦が近くに浮上してきた。

「伊−16」と「伊−154」だ。この2隻は付近の海域で連合艦隊からの攻撃命令を受け取って捜索していたが見つからず途中でたまたま2隻が海上であい、それからともに行動していたところこの日本潜水艦のリンチを見つけ救ってくれたのだ。

艦長は感謝の信号を送り艦上に出てきた乗員達も帽子を振って僚艦にありがとうと口々に叫ぶ。

つらく長い戦いはやっと終わった。


結局この戦いでアメリカ軍は空母1、重巡洋艦1、駆逐艦3隻を失った。

まず空母「ホーネット」が3本の魚雷を喰らい5時間後に沈没。

また、外れた魚雷が運悪くその先にいた重巡洋艦「ポートランド」の艦首に命中し、高角砲の弾薬庫に引火し大火災となった。

さらに運の悪いことに消化装置が停止した上火災が缶や主砲弾薬庫へと延焼したため爆発を恐れ放棄、30分後爆沈した。

駆逐艦3隻は追撃中に撃沈されたもの。

この損害は大変痛いものだった。

特に「ホーネット」は貴重な航空戦力であり、ガダルカナル島を巡る戦いが続く中での今回の喪失は米軍の今後の作戦に影を落とすことになった。



前回の話で、付近の海域にいる潜水艦の艦名が「伊−16」「伊−154」「伊−188」になっていましたが、「伊−188」は「伊−168」の間違いです。大変失礼いたしました。

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