芋けんぴ
4人でリレー小説
お題:「芋けんぴ髪についてたよ」で始まり、
「一晩で法隆寺建てられちゃうよ」で終わりなさい。
「芋けんぴ髪についてたよ。」
その声で後ろを振り向くと、そこにはクラスの人気者である隆君が、私の髪の毛についていた芋けんぴをくわえて笑っていた。
「ありがとう」
私は恥ずかしくなって一言お礼を言うとその場を立ち去った。
(ばかばか!!)
憧れの隆君に話しかけてもらったものの、上手く会話を続けられなかった。
「『隆君も芋けんぴ好き?』ってきけるチャンスだったのになぁ」
思わず出た大きな独り言が廊下にこだました。
隆君に好意を抱いてはいるものの、それをうまく相手に伝えることのできない自分に悔しくて涙が出てきた。
友人のせっかくのアドバイスもこれで無駄になってしまったのだ。
「やっぱり、無理だよ…私が―――フラグ建築士になるだなんて」
こんな状態じゃ何も建築することなんて出来ない。
そんなことを思っていると、周りの女子の会話が聞こえてきた。
「隆君って本当にかっこいいよね!」
「あの落ち着きっぷり…。まるで飛鳥時代に出てきた聖徳太子みたいよ!」
一方その頃
飛鳥時代の聖徳太子。
「へっくしゅん、やれやれ、どうやら誰かが私の噂をしているな。」
流石は時代を先取る男である。
そんな話はさておき。
隆君の容姿はそれはそれは聖徳太子ににていて、髪型すら烏帽子をかぶっているようだった。凛々しい眼差しは終わった飛鳥時代を思いやっているのだろうか…。そんな姿に、私の胸はキュンと音を立てた。
実は彼、隆君には聖徳太子と同じ力があった。そう。あの有名な人の声を聞き分けるというものだ。さらに、世代を経て、彼は地獄耳という特性も持っていたのだ。
その能力の名は無限聴力。
その能力を発動していて彼は聞き取っていたのだ―――
「俺も、好きだぜ…芋けんぴ。」
ぽつりと彼の呟いた言葉が私に届くことはなかった。
そんな中、私の耳に別の会話が聞こえてきた。
「2組の古賀さんが放課後隆君を校舎裏に呼びたしたらしいわよ!」
「古賀さんって、美人で有名な?告白かしら!?」
「でも、お似合いのカップルよね…」
隆君に恋人ができる…?そんな可能性に心がざわつく。その気持ちに呼応して、新たに頭につけた芋けんぴが小さく震えた。
放課後―
芋けんぴはまだ震えていた。
「この震え…?」
私は気付いた、この震えは私の心に呼応しているものではない。この荒れ狂うような縦揺れは…!
「…隆君が危ない!!」
私は校舎裏へ急いだ。
しかし、時すでに遅く、そこには隆君の姿も、忌々しい女の姿もなかった。
「どうしよう…」
私の焦りとともに芋けんぴの震えも大きくなる。不安にかられ、私はやみくもに足を走らせた。体育館…渡り廊下…職員室…そのどこにも隆君の姿はなかった。
息を整えるために中庭で立ち止まっていたら、ふと校舎の二階に人影が見えた。あの烏帽子のような凛々しい髪型は……
「たかしくん!?」
すぐさま教室を目指して走りだした。
どうか無事でいて…!そう強く願いながら辿り着いた先にいたのは、
「たかしくんっ!……じゃない、あなたは誰?」
その人の頭には確かに烏帽子のような髪があるのだが、隆君のような凛々しい聖徳太子というよりは…
「…小野妹子…。」
ミステリアスな雰囲気を持った少年が立っていた。
教室には、小野しかいない。あの女の仕業に違いないと判断した私は、そのままくるりと方向転換し、教室を出ようとした。
しかし―
「ちょ、待てよ!」
小野妹子に呼び止められた。
「なに?」
急いでいたのもあってやや邪険に反応すると、
「芋けんぴ髪についてたよ。」
震えすぎて髪の毛がびっしり絡みついた芋けんぴを小野妹子がくわえて笑っていた。
「何食べてんだよ!!」
私はブチギレた。
「てめえに食わせる芋けんぴはねえんだよ!!!!!」
そう吐き捨てると、私は隆君の臭いを辿り、再び足を動かし始めた。
「隆君が芋けんぴを食べたのは午前中。つまり、いい具合に消化されているはず…。」
私の芋けんぴは隆君の体の一部と化している。そのため、どんなに遠くに離れても私が隆君の場所をわからないはずがない。
「感じるのよ…隆君の芋けんぴを!!」
時は変わって放課後はじまってすぐの校舎裏
美人で有名な古賀が隆に思いを伝えていた。
「好きです!付き合ってください。」
震える声で古賀は伝えるが隆は迷う様子もなく答えた。
「ごめん。気持ちはうれしいんだけど…」
「っ…!なんで?」
涙目の古賀に隆は言った。
「オレ知ってるんだ。君が芋けんぴ派ではなく、かりんとう派だということ。しかも黒糖かりんとうじゃないといけないときた。そんなんじゃオレたち付き合っても先は見えてるよ。」
ため息とともに隆は告げた。
「そ、んな…。じゃあ、隆君の付き合いたい人ってもしかして…」
「けんぴだよ」
隆は頬を少しだけ染めてはっきりとそう告げた。
「うそよ…、私があの子に負けるなんて……そんな…」
わなわなと体を震わせ始めたかと思うと古賀はどす黒い瘴気を出しながら、まるで何かに取り憑かれたような動きで反復横跳びをしながら距離を詰めた。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ私があの子に負けるなんて許されないのに許されない許されない許されない許されない許されないやだやだやだやだやだやだうそうそうそありえないありえないありえないほしほしいほしいあいつころすころころころころころすころすころすコロスコロスコロスやだやだやだやだやだ私のもの私のものわたしのものわたしの、ものになって」
かりんとう派になってよ、という言葉を最後に隆の意識は途切れた。
「隆君のけんぴ!!」
私は彼の芋けんぴの気配を感じた。それは、2階の女子更衣室からだった。しかし、彼の匂いと同時にもう一つの匂いも感じた。
「あれは…かりんとう…!かりんとう派がまだこの学校にいたなんて…。」
隆君の元に行けば戦闘は避けられない。私は、頭にある芋けんぴを取り、両手で包み込んだ。すると、手の隙間から光がだんだん溢れ出してきた。
「この力…使いたくなかったけど!!」
光は私の体を包み、私に力を与えた。
「それは違うよ!」
女子更衣室から隆の声が響いた。私は、その声に驚き、光に包まれたまま更衣室の扉が開くのを見た。
「けんぴ、それは間違っている。君の頭にあるけんぴは元々僕のものだ。僕が君に近づきたくて、君の頭につけていた。だから、それは君の力じゃない!」
突然更衣室から出てきた彼は、私の力を完全に論破した。私を包んでいた光が小さくなって行く。このままでは、あの女に勝てない…!
「それも違うわ!」
私はまっすぐ隆君を見据えて叫んだ。
「そんなの…とっくに知ってた!隆君が授業中に私の頭に芋けんぴを投げていたことくらい!」
隆君は驚いたように目を大きく見開いた。
「…隆君にもらった芋けんぴは大切に取ってあるの…隙を見て自分が持ってきていた芋けんぴとすり替えていたの。だから、この力は…けんぴの力は私のものだって、胸を張って言えるわ!」
思っていたことを言葉にすれば、それが確信に変わり、私は再び光を放ち始めた。
それと同時に隆の腹部が光り始めた。
「なんだこれ…力が…力が湧いてくる…!!」
そう言った次の瞬間、瞬く間に学校のあらゆる場所から芋けんぴが溢れ始めた。
「な、なんだこれは!!!」
溢れかえる芋けんぴが体に突き刺さり、古賀は醜い悲鳴をあげる。
弱り果てた古賀に隆と私は手を繋いで近づき、自然と頭に浮かんできた魔法の呪文を唱えた。
「ぴんけもい!!!!」
「ギャアアア…!!!」
古賀は光に包まれ、声を荒げた。その声は段々と小さくなり、光が止んだ時には彼女の口には大量の芋けんぴがくわえられていた。
「これが…真の芋けんぴの味よ!みんなの思いが詰まった…ね。」
「こんなおいしい芋けんぴ初めてだわ…。」
古賀は優しく微笑んで、私たちの方に近づいた。
「私が間違っていたのね。貴方たちお似合いよ、かりんとう派の私の心を芋けんぴに染めてしまうくらい。」
私と隆君の思いが古賀に届いたのだ。そのことが嬉しくて、思わず隆君に抱きついてしまった。
この戦いが終わったら、私、隆君に告白するって決めてたんだ…。
抱きついていたのが急に恥ずかしくなり、顔を赤くしながら恐る恐る隆君から離れた。
「あの、あのね!私っ…」
そこまで言ったところで、急に目の前が暗くなり、私はその場に倒れてしまった。
次に私が目を覚ますと、そこは保健室だった。
「大丈夫?」
誰かが心配そうに優しく声をかけてくれた。隆君だ。
「どうせけんぴのことだから、昨日夜遅くまで設計図書いてたんだろ?」
「えっ…どうしてそれを……」
私が目を丸くすると隆君がウインクしながら言った。
「お前が授業中に一生懸命フラグの建築設計図書いてたの知ってるぜ…芋けんぴごしに見てたから。」
「やだ…恥ずかしい……!!」
思わず頬が染まる。それをごまかすために頬に手をあて隆君を見た。
「あ、あのね、たかしくん」
ずっと言おうと決めていた、大切な気持ちを言葉にしようとするが、声が震えてしまう。
ん?と優しい声で返事を返す隆君に、きゅんっと高鳴る胸に手を当てながら思い切って聞いた。
「い、一緒にフラグを…法隆寺ぐらいでっかいフラグをたててくれませんかっ?」
言ったー!言った!言っちゃったよ!どうしよう!
どうしよう、う、わぁーーー…恥ずかしいよう…
混乱した私の頭を優しく撫でながら隆君はこう返した。
「一晩で法隆寺建てられちゃうよ。」
このあと滅茶苦茶キスをした。