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売春島  作者:
6/12

鬼伝説

その子を見た瞬間、僕の時間が止まった。

結婚したい……。


そう思った。いや、結婚する!今日ここで出会ったのは運命なんだ。

それは……、僕が経験する初めての想いだった。

いや、認めよう。僕は恋に落ちた。

iphoneのメモアプリに「ユキ 17歳 約157cm 50キロ 80.59.82 宮崎あおい似。総合評価Sプラス」と素早く打ち込んだ。僕の集めてきた美少女ファイルもこれで最後になるかもしれない。


「……という事で、ユキちゃんは俺が指名するからな!光一もいいな!」

「あ、あぁ……、分かったよ」

僕はそう返事をしたが、譲るつもりは毛頭なかった。ユキは僕が守ってみせる!絶対に陸の毒牙にかけさせやしない!たとえ、コイツを使ってでも。

僕はカバンに触れ、中にイザという時の為に持ってきた最終兵器がそこにあるのを確認した。


しばらく待つと、ユキが注文した焼肉定食を運んできた。ごく普通の定食に見えるが、食欲のそそる脂の匂いがの立ちのぼる。

「美味い!」

僕たちは、三人とも叫んでいた。今まで食べてきた肉とは違い脂身が少なく、そのくせ柔らかで味わいがある。さらにこれも初体験のとろける様な食感。タレも濃厚でありながらさっぱりとしていくらでも食べられそうな気がする。

「こ、これは何の肉なんですか?」

陸の問いかけにユキが困ったように答える。

「あっ、それは……、鹿なんですよ」

「へえ〜。鹿ってこんな味なんですね。この島の森で取れるんですか?」

「え、ええ、そうなんですよ。じゃあ、ごゆっくり」

それだけ答えるとユキは厨房の方へ引っ込んでしまった。また次の仕込みがあるのだろう。

「可愛いなぁ〜。ユキちゃん」

ため息をつくように言った隆夫を陸が睨み付ける。隆夫はその視線に気づき、慌てて会話を逸らした。

「で、正直どうする?」

時刻はまだ十二時を過ぎたばかり。あと五時間近くは時間を潰さなければならない。

「俺は、森の中の祠に行ってみようと思うんだが」

「あそこはちょっとヤバくないか?」

「バカ!お前怖いのかよ。ヤバイからこそいいんだろうが。正木さんも行った方がいいって言ってただろ!」

いつもと同じ強引な隆夫の提案に陸は諦めたように首を縦に振った。僕もやれやれと言った風に同意の意志を示す。

ここを去るのは名残り惜しいけど、時間はまだたっぷり残っている。どうせまた会えるのだから。

僕たちは会計を済ませ、「みやこ食堂」を後にした。


近くに見えた祠は、かなり遠かった。昼間だというのに、森の木々が太陽の光を遮って薄暗く、道はグネグネと曲がりくねり、まるで森が意志を持ち、歩く者の距離感を麻痺させているかのようだ。さっきからチラチラと祠は見えているものの、一向に辿り着かない。

「あぁ〜!クソッ!あちぃ〜!!」

スーツを着た隆夫は汗だくになっている。そういう僕と陸も隆夫よりマシとはいえ、汗が滴り落ちているのだが。


やがて、突然視界が開け、開けた広場の様な場所に出た。少し高台になった所に祠が見える。


それは異様な風景だった。

一見すると神社のようにも見える祠の入口を両側から護っているのは紛れもない二本の角を生やした「鬼」であった。他に祀られている像も角の本数の違いこそあれすべて「鬼」であり、まるで異空間に迷いこんだかのような錯覚を抱いた。

「おいおい。鬼信仰ってヤツか?初めてみたわ!」

「これがこの島の秘密なのか……」

「そうらしいね。事前に調べてきたんだけど……」

僕は他の二人にネットで得た知識を語り始めた。


時は16世紀、室町時代の頃、K島に黒い鬼たちが何処からか流れ着き、住み着いた。鬼は周辺の島を荒らし周り、村を破壊して、食料や女たちを奪っていた。被害が広がりつつあったため、周辺の島の長が集まり、被害を抑えるために毎月鬼たちに貢ぎ物をすることに決めた。貢ぎ物は、食料や財宝、そして、美しい少女たちであった。島に送られた少女たちは一人も生きて帰る事はなかったと言われている。他の島の住民はK島を鬼島と呼んで忌み嫌い、江戸時代には「鬼島流し」と言われる罪人の流刑地にもなった。今に至っても、この島に住む者は周囲からは鬼の末裔として蔑まれ、差別される対象である。

一方のK島では、鬼は畏怖すべき存在であると同時に繁栄の象徴として崇められ、神と同格の存在として祀られている。


「つまり……」

僕の話が終わると隆夫が話し始めた。

「室町時代から続く因縁や差別がずっと続き、ここは売春島となってしまった訳か……」

「売春島と鬼伝説は関連があるということだね」

時刻を確認すると午後三時を過ぎたところだった。ゆっくり戻れば五時頃に「みつこ」に着くだろう。

僕たちはこの島の秘密を知る事に成功し、意気揚々と帰路についた。


しかし、僕たちが知ったのはこの島の秘密のごく一部であったのだ。後に僕たちは自らの犯した行為の愚かさ、そして浅はかさを思い知ることになる。




「イッタカ……?」

「ユキカラレンラクガアッテタスカッタネ……」

「マッタク、マサキノヤツメ……」

「コンド………ヲ……オケナイナ!」

「……………ヨ…………シ」


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