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売春島  作者:
5/12

ユキ

優子さんに言われた通り、しばらく坂を上がると民宿「みやこ」が見えてきた。

しかし、想像よりかなり大きい島だ。「みやこ」の向こうにはさらに坂が続き、その向こうには鬱蒼とした森が広がっている。その中に小さな祠のようなものが見えた。

「おっ、あれじゃね?」

「みりゃあ分かるって。いちいち騒ぐなよ」

「陸ぅ〜まだ怒ってんのかよ。お前も納得の上の話だろ?」

暑さに加え、隆夫の脳天気な声が感に障る。俺はかなりイラついていた。優子さんの指名権を賭けたジャンケンで隆夫に負けてしまったのだ。

くやしい!くやしい!くやしい!

俺の物だったはずの優子さんが……。勝ち誇った隆夫の笑顔を思い出すと一層腹が立ってくる。


コイツ、シネバイイノニ……。


俺の中の悪魔がささやくが、勝負に負けてしまったものは仕方ない。俺は怒りを抑え、隆夫についていった。後ろからは光一がiphoneをいじりながらついてくる。こいつも一体何を考えているのかさっぱり分からない。

「みやこ」は思った以上に寂れた民宿だった。看板がなければまず普通の民家と見分けがつかない。

「すみませ~ん!!」

隆夫が叫ぶ。全くこいつはときたら。女の子の前では全く話せないくせに。

しばらく待つと、皺だらけの老婆が姿を現した。この婆さんが「みちこ」なのだろうか?俺はそんなどうでもいいことを考えていた。

「いらっしゃいませ。三人様ですね。一泊でお一人様六千円になります」

みちこがしわがれた声で言った。助かった。これで今夜の宿は確保できた。しかし、肝心の女の子を呼ぶシステムはどうなっているのだろうか?この民宿から呼ぶことができるのか?それとも他の場所になるのか。その辺りが全く分からないので恥ずかしさをこらえ思い切って尋ねてみる。

「あ、あの、女の子と遊ぶのはどこに行ったらいいんですか?」

「あぁ、あんたらそっちの方かい。夜になれば教えてあげるよ。とりあえず夕食の準備をしておくから、また五時頃に来なさい」

みちこはニヤリと笑いながら言った。その笑みに少し薄気味悪い物を感じたが、俺はほっとした。どうやら隆夫の持ってきた話は確かのようだ。しかし、今は午前十一時半。五時までこんな島で何をすることがあるだろうか。

「五時まで時間をつぶせる所はないっすか?」

隆夫の言葉にみちこは答えた。

「この辺りは何もないからねえ……。釣りをするんだったら船は手配してあげれるんじゃけど」

俺たちはだまって首を振った。残念ながら三人ともアウトドアにはさっぱり縁が無い。

「あ、あの、上にあった祠みたいなものは何なんですか?」

「あそこには近づいちゃならん!!」

突然の大声に俺は驚いたが、みちこはすぐに穏やかな顔に戻って言った。

「若い人には面白くないよ……。大したものはありゃせんから。あんたらお腹空いたじゃろう。港の方へ行けば食堂があるから食べてきたらどうだい?」

言われてみると、少し腹が減っている気がする。無理もない。朝五時に起きてからほとんど何も食べていない。俺たちは「みちこ」を出て、港の方へ向かおうとしたが、その時、一人の男が「みちこ」から出てきた。

歳は三十歳くらいだろうか。黒いTシャツに良く焼けた肌。肩からはカメラをぶら下げている。男は正木と名乗った。見た目の通り、カメラマンだという。

「若い子が来るなんて珍しいなぁ。この島に来るのは年寄りばかりかと思っていたよ」

正木はガハハと豪快に笑い俺たちに話しかけてきた。

「俺はこの島に伝わる伝説を追ってるんだ。この島は本当に面白いよ。森の中にある祠には行ってみたかい?」

「ちょっと正木さん!!」

みちこが後ろから睨んでいる。正木は首をすくめた。

「おっと……、これは言っちゃいけないんだったか。とにかくこの島の夜は最高だよ。思う存分楽しんでくれ。じゃあ、俺はあと二、三日いると思うからまた後で!」

正木はバツが悪そうに走り去って行った。みちこが正木の後ろ姿をじっと睨んでいた。


正木の言う祠のことは気になったがそれよりは飯だ!据え膳食わぬは男の恥……、違う違う。腹が減っては戦はできぬ、だ。

やはり孤島なだけに魚が美味いのだろうか。新鮮な刺身……、優子さんの女体盛り……、俺の息子ははち切れんばかりに暴れ始めた。いかんいかん。どうやら少しこの島の雰囲気に飲まれかけているようだ。このままでは歩くこともままならない。落ち着け落ち着け!環境破壊、地球温暖化、世界平和……。

猛り狂っていた俺の息子もようやく静まってきた。

ようやく周りを見渡す余裕ができた俺は何処かからいい匂いがしてくるのに気付いた。

隆夫も同じく鼻をひくつかせている。

「おい、あっちだせ!」

隆夫の指指した先には「みやこ食堂」という看板がかかっていた。確かにあそこから何かを焼いている匂いがする。

俺たちは匂いに誘われるように「みやこ食堂」ののれんをくぐった。中には地元の常連らしき客が何人か入っていた。

ごく普通の食堂にごく普通のメニューが壁に掛かっている。さしみ定食、焼き魚定食、煮魚定食。しかし、この食堂の看板メニューは魚介ではなく、「焼肉定食」のようだ。メニューの中でも明らかに扱いが違う。

「おまちどうさま!」

元気な声と共に先に入っていた客に食事が届けられる。注文されていたのはやはり焼肉定食だった。

「ユキちゃんありがとさん!今晩も出勤かい?」

常連らしき客が店の女の子に話しかける。

「さぁ、どうでしょう。でも、いつもありがとうございます!ちょっと注文取ってきますね」

ユキと呼ばれた少女は常連の会話を上手くかわし、俺たちに近づいてきた。

少女の顔を見たとたん、俺たちはまたまた言葉を失った。

なんて可愛いんだ……

俺の天使ちゃん……

結婚したい……


少し茶髪がかった髪にまだあどけなさを残す健康的な笑顔。優子さんとはまた違う健康的なボディ。出勤ということはこの子もそうなのか?そういう事なのか?決めた!俺はユキちゃんに決めた!

じっと見ているだけの俺たちに不思議そうな顔をしてユキちゃんが口を開く。

「あの……、ご注文は?」

俺は思わず無意識に叫んでいた。


「焼肉定食三つお願いします!」

そして、今夜もよろしくお願いします!!




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