優子
プォーッ!!
到着を知らせる汽笛が船の中に鳴り響く。ついに「弁天号」はK島に辿り着いた。結局彼らの他に乗り込んでくる客はおらず、隆夫たち三人の若者は期待と不安に包まれながらK島に降り立った。
そこは拍子抜けするほど普通の港町だった。「客引きに注意」の看板も無ければ、怪しげな老婆が近づいてくることもない。しかし、光一だけは異変に気付いていた。最初は小さな小さな違和感だった。その異変は静かに大きくなり、ipadの電源を入れた時、それは確信に変わった。
「ででで、電波が入らない!!」
光一は頭を抱え込んだ。隆夫たちも自分のiphoneを取り出して確認した。
「おー!本当だ!まさに孤島って感じだな」
「でも、船の船長は普通に携帯使ってるぜ。あぁ、あれか……、ドコモしか使えないってヤツ?」
呑気に話す二人を他所に、光一はiphoneとipadを振ったり、傾けたりするが、電波が入る気配はない。ふぅ〜ッと溜息をついてカバンにしまい込んだ。ネットの無い生活など何年ぶりだろうか?光一は薄い氷の上に立たされたような心細さを感じていた。
「まぁ、使えないものは仕方ない。足で探そうぜ!」
隆夫はズンズンと歩きだす。こういう時こそ漢の真価が問われるのかもしれない。
港を離れしばらく歩くと、三人は一瞬動きが止まった。
坂の上からこちらへ向かってきたのは美しい女だった。
長い黒髪が潮風になびいている。三人よりも少し歳上だろうか?少し彫りの深い顔立ちに大きな目。白いキャミソールとライトグリーンのミニスカートからスラリとのびる長く伸びた細い手足。そして、細い身体に似つかわしくないほどのキャミソール越しに見える豊満な乳房。
可愛い……
俺の天使……
結婚したい……
三人はそれぞれの思いにふけりながら彼女から目を離せなかった。
不意に彼女はこちらを向き、笑顔で話しかけてきた。
「こんにちは」
「こここっ……、こんにちは」
あまりの展開に陸は思わずどもってしまう。自分の周りには絶対にいないほどの可愛い子だった。夏の日差しに照らされ、彼女の笑顔が一層眩しく見える。
「暑いですね。東京から来たんですか?」
「ははははいっ!俺、陸って言います。陸地の陸の一文字で陸です。よろしくお願いします。じ、実は今、泊まるところを探していまして」
俺、一体何を言ってるんだ?さっきから胸の高鳴りが収まらない。額からは滝のように汗が流れ始めている。陸は他人事のように立っている光一と、いつもはぺらぺらしゃべるくせに女の子の前でだけは無口な隆夫が恨めしかった。
「後丁寧にありがとうございます。私はユウコっていいます。優しいに子供で『優子』。よろしくね。あと、泊まる所なら、この坂を登った所に『みつこ』って民宿があるよ。じゃあごゆっくり。K島へようこそ!」
軽く手を振って優子は港の方へ歩いて行った。三人は優子の姿が見えなくなるのを確認して話し出した。
「おいおい。マジかよ!メチャメチャ可愛いじゃん。俺泊まりでお願いするわ!」
隆夫の調子のいい言葉に、陸はムキになって返す。
「残念でした〜!優子さんは俺の物です。お前ら何も喋らないじゃないか」
「じゃあせめてジャンケンでだなぁ……」
二人のやり取りを聞きながら、光一は口を挟まなかった。
ただ、iphoneのメモアプリに「優子 24歳 約160cm 48キロ 85.58.86 松下奈緒似。総合評価Aプラス」と素早く打ち込んだ。
本当ならば写真を添付したいのだが、とてもそんな勇気はなかった。
同じ頃、はしゃぐ彼らを遠目にみながら、優子は何処かに携帯電話をかけていた。
「あっ、もしもし。優子です。二十歳前後の学生風の男、三人です」