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2-12.オーソン村攻防記②

 壊れた結界は自警団に運び込まれて保管されていた。

 結界は木の杭状の魔道具だった。両手の親指と人差し指で輪を作ったくらいの太さであったが、かなりばらばらに壊れていた。猪の群れになぎ倒され、踏み潰されたのだ。魔晶石もひとつは無事に保管されていたが、もうひとつは紛失していた。

 ハンナさんの言うとおり、結界の紋様は木を割った内側に描かれていた。ばらばらではあったが、繋ぎ合わせて読み取れる範囲で解読すると、ハンナさんのノートにあったものと同じもののようだ。

 オーソン村は商工会が出資して作られた村なので、商工会と結びつきの強い協会系の工房と同じか繋がりのある工房で結界を作ったのだろう。設計図が同じと言うことは、恐らくそう言うことだ。

 結界の修復は諦めて、新しく作ることにした。

 俺には木工スキルもあれば、魔道具作成スキルもある。何より、手元に設計図(コード)があるのだ。作れないわけがない。

 俺は、自警団の目の前にある細工師の工房を借りることにした。

 プリウムさんに工房を使わせてもらいたいと言うと、自由に使って良いと言われた。

 ハンナさんのノートの図形を元に、設計図を描き起こす。

 やってみて分かったのが、魔道具作成スキルは、精霊語プログラミングのエディタ機能を持っていた。木工スキルには無い機能だ。

 俺は、ハンナさんのノートにある設計図(コード)をベースに多少の修正を加えた。オリジナルは、動くは動くのだが無駄な記載(コード)がいくつかまぎれていた。

 言語の意味を正確に分かっていないのに、どうすれば設計図(コード)が描けるものなのか、人間とは凄いものだな。

 さて、設計図が出来てしまえば、後は作るだけだ。

 プリウムさんに頼んで丸太を貰うと、まっぷたつに割る。片方の断面に精霊語(コード)を彫り込んでいく。この辺は、フルオートだ。システムに身を任せておけば、ものの数分で完成する。


 余談だが、魔力を見る方法を覚えてから、スキルの発動を見ていると、どんなスキルでも魔力を使っていることが分かる。

 ヒロモンの世界風に言うと、全ての行為(スキル)は魔力を伴うとでもなるのだろうか。

 システム的な観点で考えると、物理シミュレーターが入っている以上、普通に物を製作するのだと色々と実現できないのだろう。例えば、以前、俺が作った櫛の作成がそうだ。櫛の歯を作るのに、ナイフで木を千切りするような動きをしていたが、物理的には実現できない技である。そのため、魔力をキーに物理シミュレーターを部分的に停止する等していると考えられる。

 夢のないような話かと言うと逆で、魔力を使えば物理法則を無視したことが何でもできるんじゃないかと、むしろ夢が広がる話なのだ。

 そのうち、魔力をコントロールして何かできないか試してみよう。

 閑話休題。


 俺は、王都から持ってきた魔晶石と魔石を使い、結界を2つ作った。

 動作確認も、魔力の流れを見ることで問題なく行えた。ハンナさんノートにあった起動キーワードと停止キーワードを唱えることで、結界が発動するのを確認する。

「壊れた結界の替わりは作りました。同じ性能を持っているはずです。」

 俺は俺の作業をずっと見ていたキャミルさんとプリウムさんに話しかけた。

 設計から作成まで、1時間程度(ヒロモン時間)だった。

「見事なものだな。」

 キャミルさんが嘆息する。

「ケージさんの細工(アクセサリー)作りは、魔道具作りの余技だったんだな。いや、見事な技だった。」

 プリウムさんも止めていた息を吐き出すように言った。

「王都で元となる設計図を入手したので、後は作るだけでしたから。」

 全てはハンナさんのお(かげ)だ。

「この結界は応急措置として使ってください。」

「うん、どうしてだ。ちゃんと動くんじゃないのか?」

 プリウムさんが疑問を発した。

「結界としてちゃんと動きますよ。ただ、魔道具としては不十分です。」

 何が不足しているかを説明する。

「結界は、この精霊語の紋様と魔晶石と魔石があれば動きます。ここまでは、俺の力でも作り出せます。ただ、魔道具として完成させるには、風雨に(さら)されても壊れないように紋様が内側になる様に杭の形にしたり、魔石を交換しやすいような機構を取り付ける必要があります。村に設置してあった結界は、恐らくそうだったはずです。」

「そうだな。確かに自警団では結界の魔石を補充している。」

 キャミルさんの方を見ると、俺の言葉を補足してくれる。

 結界の魔道具は、魔石を2つ使う設計になっている。主に起動時に使われる予備バッテリーとしての内蔵用の魔石と、結界を稼働し続けるためのメインバッテリーとしての魔石だ。

 メインバッテリーの方は、ひたすら魔力を消費するため、一定期間が過ぎると無くなってしまう。

「残念ながら、結界がばらばらに壊れすぎていて、魔石の交換口の機構は分かりませんでした。ですので、ここはちゃんと作れていは居ません。交換のたびに丸太を開かないとならないのです。」

「丸太は開けるようになっているのか?」

「いえ、丸太自体もたが(わっか)で止めてあるだけです。自然には外れないですが、外したり付け直すのには道具が必要です。」

「なるほどな。手間がかかると言うわけか。」

 プリウムさんが、うんうんと頷いている。

「今は、作る速度を優先したので、使い勝手は二の次です。後でちゃんとした結界と入れ替えてください。」

「その程度の手間なら問題はないがな。了承したよ。」

 キャミルさんも納得したようだった。

「よし、手の空いている者を集めて、結界を設置してくることにしよう。」

 キャミルさんは、そう言うと細工師の工房を飛び出して行った。

 思い立ったが吉日な人だな。

 だけど、これで一旦は落ち着けるかな。

 俺はその辺にあった椅子に腰を下ろした。

「なあ、ケージさん。お願いがあるんだが、良いかな。」

「何ですか、かしこまって。」

「結界の設計図を譲って貰えないだろうか。それがとても貴重なものだとは分かっている。普通は人に見せることも許されないものだとも分かっている。それでも、そこを曲げて譲ってもらえないだろうか。」

 プリウムさんが真剣な顔をしている。

 さっきまでの見物モードとは一味違う雰囲気だ。

「設計図をどうするんですか。設計図があっても、魔晶石がないと動くものは作れませんよ。」

「新しく結界を作って売りたいとかじゃないんだ。今回の様な事が起こった時に、その設計図があれば結界を自分たちで直せる。そのために欲しいんだ。金なら出す。足りなければ村から出してもらう。頼む。」

 正直、金の問題ではない。

 悩ましいことだ。

 魔道具の設計図は工房ごとの秘匿情報だ。今回の結界は、俺が手を加えているとは言え、オリジナルはハンナさんから得た物だ。それを勝手に他人に渡して良いものだろうか。

 一方で、心情的にはプリウムさんの言うことがよく分かる。オーソン村のためを考えると、自分たちで修理できる方が良いに決まっている。

「回答は保留して良いですか。王都で一応、許可を取りたい人が居るので。まあ、作成するところを見せているんですから、今更っていう気もしますけど、念のためです。」

 俺は、前向きに検討することにした。

 会社員っぽい発言だが、ハンナさんに一言言えば済むと、結構、楽観的に考えている。

「そうか。なんとか貰えるように頼むよ。」

「ええ、そのつもりでいてください。」

「ありがとう。」

 プリウムさんは両手で俺の手を握りしめた。

 キャミルさんと言い、プリウムさんと言い、感情を行動で表現するのだから熱い人たちである。

 (ユアンちゃんの抱っこは別枠で。)

「さっき言っていた、魔石を交換するための仕組みなんだけどな、あれも自分で考えてみようかと思うんだ。」

 プリウムさんは細工師だが、大工でも何でもやる人だったな。

「それは良いですね。なんなら、今の物よりも使い勝手の良いものを開発しちゃってください。」

 俺がそう言うと、プリウムさんは任せておけと、さっそく紙とペンを手に取った。

 完全に、お仕事モードである。

 こうなると俺は居ても邪魔そうだ。

 俺も工房から出ることにする。

 これで、まずは結界が壊される前と同じ状態には戻せるだろう。

 見込みでオーソン村にやってきたが、充分な成果が出せたと自己満足するのだった。


 俺はプリウムさんの工房を出ると、避難所となっている倉庫へと移動した。

 結界の設置を手伝ったり、プリウムさんを手伝ったりとか、何かした方が良いかとも一瞬思ったが止めた。下手にうろちょろすると邪魔になるだけだ。

 俺はユアンちゃんの様子でも見てこようと思ったわけだ。

 倉庫へ行ってみると、何やら大変なことになっていた。

 クロスケがわらわらと増殖しているのだ。

 俺は何も操作していない。勝手に増えたのか?

 俺が子供たちの(かたまり)を見つけ、近寄っていくとユアンちゃんが気づいて駆け寄ってきた。手にはクロスケを抱えている。

「ケージ、いっぱいになった。」

「うん、いっぱいだね。それ、どうやったの。」

「クロスケに魔力を、んってあげると増えるんだよ。」

「そうなんだ。」

「みんなでやったの。」

 子供たちの方にもクロスケが転がっているのが見える。

 俺は視界に表示されている召喚モンスターのアイコンを改めて見てみると、クロスケっぽいマークの隣に26と言う数字があった。

 これは、クロスケの数なのだろうか。増やし過ぎだろ。

「ケージ、見てて。こうやって、魔法を使うみたいに、んってやると。」

 ユアンちゃんが手をかざすと、目の前にいたクロスケが、ポンっとふたつに分裂した。

 クロスケカウンターは27になっている。

 そうか、他人が魔力を注ぎ込んでもクロスケは増えるのか、知らなかった。

 しかし、これは、子供が魔力切れで倒れたりしそうだな。

 魔力が減るときの感覚は、息切れするみたいな疲労感らしい。そして、本当に魔力がゼロになると、立ちくらみのように一瞬、意識が途切れるのだそうだ。

 疲労感を感じるなら大丈夫かと思うが、子供と言うのは興奮すると疲れを感じないで行動するものだ。

 クロスケは、取り上げた方が良さそうだな。

 問題は、どうやって取り上げるかだ。俺が渡してしまった手前、理由なく取り上げるのはなしだ。

 ちょっと失敗したな。

「ユアンちゃん、クロスケを増やすのは無しにしよう。」

 俺はストレートに言うことにした。

「なんで?」

「クロスケを増やすには魔力を使うんだろ?」

 ユアンちゃんが、うんと(うなず)く。

「ユアンちゃんが俺に魔法を教えてくれた時、言ったことを覚えているかな。」

 俺は一言ずつ、ゆっくりと話を進める。

「魔法は使いすぎると倒れちゃうんだよね。だから、魔法はあんまり使っちゃいけないって教えてくれたよ。クロスケも同じだよね。」

「そっか、そうだよね。」

 ユアンちゃんは俺の言うことを理解したようだ。

「クロスケで遊んでも良いけど、増やすのは無しにしよう。良いかな。」

「うん、分かった。そうする。」

 ユアンちゃんは素直な良い子なので問題なかったが、あっちの方だよな。

 子供たちは、3歳のガイくんから10歳前後の子が5人ほど居る。

 俺は覚悟を決めて子供たちの方へと寄って行き、クロスケの回収を宣言した。当然のごとく不満続出、代わりに俺は汗だくになりながら子供たちと遊ぶ羽目になったのだった。

 ちなみに、クロスケの回収は俺の体目掛けて体当たりさせる方法を取った。クロスケは自爆(しょうめつ)する際にも魔力を必要とするので、誰かにぶつけないとならなかったからだ。子供に当たった拍子に消滅なんてされた日には、気絶者続出するところだった。

 モンスターカードの取り扱いには厳重注意が必要だと反省する。


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