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2-11.オーソン村攻防記①

「本当に、良く来てくれた。ありがとう。」

 キャミルさんは、俺の顔を見ると飛びかからんばかりに抱きついてきた。

「キャミルさん、怪我に響きますよ。」

 俺は抱き締められながら、なんとか引き剥がそうとする。

 キャミルさんは左腕に包帯を巻いており、右腕だけで俺のことを抱え込むように抱き締めている。

「ケージ殿の顔を見たら怪我など一瞬で治ってしまったよ。」

 こんなにも歓迎されると思っていなかったので、なんとも居心地が悪い。

 オーソン村に滞在はしたが、自警団とそこまで仲良かったかと言うと、俺としてはクエスチョンが付く。

「団長、ケージさんは馬車いっぱいの武器やら食糧やらまで持ってきてくれやしたぜ。」

 オリバー(おやっさん)が後ろから話しかけてくる。

「ガルガンさんの厚意ですよ。俺は運んできただけです。」

「ああ、分かってる。それでも、村まで来てくれたのはケージ殿だ。感謝するよ。」

 俺が何を言ってもダメそうだなと思っていると、おやっさんと目が合った。

「ここしばらく状況が停滞していたからな。ケージさんが来てくれたってのは嬉しい知らせなのさ。団長だけじゃなく、村にとってもな。」

 役に立つのはこれからなんだが、まずは歓迎されただけでも来た甲斐があったのかな。


 朝、騎士団の拠点で物資を受け取り、昼過ぎにはオーソン村に着いた。

 徒歩だと丸2日かかると言うのに、魔法効果の付与された馬車だと半日もかからなかった。個人で騎獣を持てばこれくらいの時間で移動できるようだ。俺も自分用の移動手段が欲しい。馬車馬だって借り物だし。

 幸いなことに、王都からオーソン村へと繋がる街道では何事も起らなかった。

 オーソン村の結界が破られたと言う話を聞いて、街道も結界がない状態も考えられたのだ。何事もなく良かったと言える。途中で魔獣に襲われて、オーソン村に辿りつけませんでしたと言う可能性だってあったのだから。

 王都の外縁辺りでは、武装した傭兵っぽいのが見かけられ、物々しい雰囲気であった。

 オーソン村の入り口も臨戦状態であった。村の入り口には見慣れない柵が設けられ、村の人だろうか、昼から松明を掲げて門番をしていた。

 こちらは人間だったので、すんなり通してもらえた。

 魔獣対策なので人間はノーチェックなのは当たり前なのだが。

 オリバー(おやっさん)の言う停滞感は俺には感じられない。村の中心まで馬車を走らせたが、村の中は以前と比べても変化があるようには見えなかった。農作物は青々と育っており、村人も農作作業に精を出している。厳戒態勢と言うわけではないようだ。

 状況の確認や今後の話については、ロイスさんが戻ってきてからしようと言うことになった。ロイスさんは壊れた結界の警備中とのことだ。

 自警団の脇にある倉庫が避難所になっていると言われ、キャミルさんに案内された。

 村の外れに住んでいる世帯や結界が破れた際に被害にあった世帯等、一部の人たちが倉庫に避難しているそうだ。

 確かに、あの倉庫はやけに大きかった。収穫期ではない今なら何世帯も暮らすことができるだろう。

 そう考えながら倉庫に入ると、倉庫の中にテントが並んでいた。

 人間、個室が欲しくなるもんだけどさ、建物の中にテントを建てなくても。

 テントの外、でも倉庫の中と言うややこしい場所は、井戸端会議の場になっているようで、避難している人たちが椅子に座り、お茶を飲みながら何やら話をしている。

 その近くでは、子供たちがきゃっきゃと遊んでいる。

「大分、落ち着いてきたんだ。ここに避難させたばかりの頃は、皆、落ち着かなくてね。」

 キャミルさんは倉庫の中を見渡しながら言った。

 俺は人生の中で避難生活と言うのを送ったことはない。よく、台風や地震が起きると、被災地の様子と言うのが報道されるが、一度も避難したことのない俺には全く実感が湧かない。自分の家を離れればならなくなり、他人と共同生活を余儀なくされる。大変な出来事で強いストレスだと言うのは頭では理解できるが、それだけである。

 そんな俺でも、実際に避難所に来てみると空気を感じると言うか、まさに今、災害に巻き込まれているのだと言うのを実感する。

 魔獣の季節と言うのはこの世界に必要なものなのかも知れないが、住んでいる者からすると起こらない方が良い天災なのだ。

 俺とキャミルさんが倉庫の入口に立って話をしていると、子供たちの中から一人こちらへ駆けてきた。

「ケージ!」

 ユアンちゃんだ。

「やあ、ユアンちゃん、久しぶりだな。」

 俺は、飛びついてきたユアンちゃんを抱き上げた。

 ユアンちゃんの顔が目の前にくる。

「ケージ、元気だった?」

 俺に抱っこをされながらユアンちゃんが言う。

「それは俺のセリフだよ。ユアンちゃんは元気だった?」

「うん、元気だよ。」

「そっか、俺も元気だよ。」

 俺はユアンちゃんを抱っこしながらお喋りを続ける。

「ユアンちゃんも避難しているの?」

「おじいちゃんがね、お仕事忙しいから、ここにお引越ししてきたの。」

「ヤーゴン殿は村で唯一の薬師だからな、申し訳ないが自警団に常駐してもらっているのだ。」

 キャミルさんが補足の説明をくれる。

「倉庫生活は楽しい?」

「楽しいよ。ガイくんもいっしょだよ。」

 隣ではガイくんがキャミルさんに抱っこをねだってる。

 ユアンちゃんが俺に抱っこされているので、羨ましくなったのだろう。

「そうだね、みんなと一緒なら楽しいね。」

「うん。」

 久々に見たユアンちゃんの笑顔に非常に癒される。

「ねえ、ケージ。頭の上の黒いのはなぁに?」

 ユアンちゃんの視線が俺の頭の上にある。

 一瞬、何のことか分からなかったが、クロスケのことだと思い当たる。

 普段は俺の肩に居るのだが、ユアンちゃんを抱っこしたので頭の上に移動したらしい。

「これは精霊さんだよ。クロスケって言うんだ。」

「触っても良い?」

「ちょっと待ってね。」

 俺はクロスケを増殖させた。クロスケは魔力を与えれば簡単に増殖する。

 頭の上のクロスケは、俺の行動記録(ライフログ)を取らせているので、他人のおもちゃにするわけにはいかない。

「良いよ、触って。」

「うわぁ、増えた。」

 ユアンちゃんが両手を差し出したので、その上に増殖した方を載せる。

「ふわふわだね。」

「精霊さんだから、消えちゃうこともあるけど、しばらく遊んであげて。」

「うん。」

 俺はユアンちゃんを下に降ろした。

「ガイもユアンちゃんも、また後でだな。わたしとケージ殿は、これからお仕事があるんだ。」

「はーい…。」

 ユアンちゃんもガイくんも、少しだけ寂しそうな顔をしたが、聞き分けよく返事をした。

「ケージ、お仕事いってらっしゃい。また後でね。」

 ユアンちゃんが俺に手を振ると、クロスケ(2号?)がユアンちゃんの肩に移動した。

「おかーさん、いってらっしゃい。」

 俺とキャミルさんは、手を振りながら、また自警団へと戻る。


 自警団に戻ると、ロイスさんが戻ってきた。隣にはヤーゴンさんもいる。

 二人からもキャミルさんと同様の歓迎を受け、まずは状況を確認するために食堂に移動することにした。

「結界が破れた話は聞いているだろ。大猪の群れがな、村を縦断していったんだ。ほとんどの大猪は村を駆け抜けていっただけだったんだが、2頭ほど群れからはぐれて村の中で暴れていったんだ。」

 キャミルさんは、事の始まりを話してくれる。

「で、その2頭はどうしたんですか?」

「うん、倒して、食ってやったよ。何せ、畑を荒らし、家を数軒壊した奴らだからな。」

 猪だから食えるのか。俺は変な所に感心してしまった。

「家が壊れただけじゃなく、怪我人も出た。家が壊れた連中と、大けがを負った連中をまとめて面倒みるために倉庫に押し込めてるのさ。」

 その時に怪我したと、キャミルさんは左腕を掲げてみせた。

「何日くらい前のことですか?」

20日(はつか)前だな。」

「結構前ですね。」

 20を6で割ってみる。リアルでは、わずか4日前のことだ。俺がハンナさんの特訓をし始めた頃だろう。

「避難してもらっている村人のための家も建て直したいのだが、結界が破れたままではどうしようもなくてな。」

「破れた結界は、そのままなんですか。」

「自警団で結界の魔法カードを持っていたので、夜間は交代で結界魔法をかけるようにしている。本当は一日中ずっと交代で魔法をかけていたいのだが、自警団の人数では無理な話だ。そのため、昼間の間は警備のみ行っている。いざとなったら戦うつもりでな。」

 昼間なら魔獣とも戦えるが、夜だと難しいので結界魔法を使っているのか。

 道理で自警団の中は空っぽなわけだ。

「ヤーゴンさんにも、できるだけ我々について来てもらっているのです。団員が怪我したまま働いてもらってますし、いざというときのためにヤーゴンさんの魔力も頼りにさせてもらっています。」

 ロイスさんが説明を加えてくれる。

「老いぼれの力でも役に立てばと思いましてな。それに、協力する対価としてユアンの面倒をみてもらってます。食事の面倒もみてもらってますし、かなりの儲けものです。」

 ヤーゴンさんが軽い口調で言う。

 冗談目かす余裕があるなら、まだ大丈夫なのだろう。

「俺も手伝わせてもらおうと思って村に来たんです。お代は期待できますかね。」

 俺も軽く言ってみた。

「ありがとう、ケージ殿。先ほども言ったが、物資を持ってきてくれただけでも感謝しているんだ。王都に戻ってもらっても構わないくらいだよ。」

 キャミルさんは戦闘狂だが、優しいお母さんでもある。俺の身を案じてくれているのだろう。

「ガルガンさんへの手紙に俺のことを書いたそうですね。俺が来ることを期待していたんじゃないですか。」

「そりゃあ、少しはね。もしかしたらガルガンが来てくれるかもと思ったが、騎士団は動けないことは分かっている。だから、代わりにきてくれないかなと思っていた。」

「なら素直に俺の手伝いを受け入れてください。こう見えて、俺は強いんですよ。」

「ああ、残念ながら身をもって知っている。」

 キャミルさんは笑いながら肩をすくめる。

「なので、最悪、魔獣と戦いますよ。」

「わかったよ。ケージ殿には色々と協力してもらうことにするよ。」

「ケージさんが協力してくれるとなると、何をお願いするのが良いでしょうか。」

 ロイスさんが俺の方を見て聞いてきた。

「そのことなんですが、壊された結界の魔道具を見せてもらえないでしょうか。もしかしたら直せるかも知れない。」

 直すのが無理でも、新しく作れると思う。材料は持ってきたし。

 俺が答えると、皆がみんな驚いたようだ。

「ケージ殿は魔道具師なのか。」

「ちょっと違います。作る方は見習いみたいなレベルですよ。」

 まだ魔道具を作ったことないので、魔道具師と言うのは無理があるだろう。知識も足りないしな。

「そう言えば、我が家でも魔道具に興味を持たれてましたな。」

 ヤーゴンさんが言う。そう言えば、コンロの話で盛り上がったっけな。

「どちらかと言うと、俺は理論の方を学んでいる学者でして、実際に作るのはあまり経験がないのです。それでも、結界を直せるなら直した方が良いんじゃないかと思います。」

「もちろんです。結界がないがために自警団で警備をするしかない。今でも団員たちの疲れが溜まってきていますし、このままではもたないのが目に見えています。」

「王都の商工会にも手紙を送ったんですが、時期が時期だけに新しい結界を送るのにしばらくかかると言われてしまいましたからね。」

 ロイスさんとヤーゴンさんが現状は行き詰っていると訴えてくる。

「ロイスさん、最悪、俺も戦うと言ったのは、一人増えるだけでも誰かを休ませられるんじゃないかと思ったからです。ただ、その前に、魔道具を直せるかを試させてください。」

「ええ、是非ともお願いします。結界が直れば警備の負荷が減る。」

 珍しくロイスさんが興奮している。

「本当にケージ殿が停滞を打破してくれる希望になるとはな、そこまでは期待していなかったんだが。」

「希望になれるかは、これからですけどね。まずはやらせてください。」

「頼んだよ。」

 俺は3人の顔を見てから頷いた。

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