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2-4.魔道具師になるために

 さて、どうしよう。

 俺は、これからのことを考える。

 大まかな流れは決まっている。この点は素直にミホークこと鷹野君に感謝する。王都に居る間に魔道具の作成と修復の知識を身に付け、他の都市へと移動する。

 王都でしなければならないことは、団長さんから預かった手紙を届けることと、一度、オーソン村に戻る。

 たったこれだけ。

 これだけのことを、さらに細かいタスクに分けてみる。


 魔道具の作成と修復の知識を身に付けることのゴールは、技師の見習いですくらい言えるようになることだ。

 技師ですと言うには、何ができれば良いのか。

 スキルは熟練者と言って良いほどだが、何をどこまで知っていれば良いかが分からない。

 どうすれば分かるようになるか。

 ハンナさんから教わるしかないだろう。


 他の都市へと移動するには何が必要だろうか。

 単純に金だな。

 後は移動手段か。

 王都である程度の金を稼ぎつつ、移動手段を確保する。

 厄介なのが、冒険者ギルドにしばらく近寄らずに金を稼がなければならないことだ。

 これまた、まずはハンナさんに相談するしかないだろう。


 騎士団に手紙を届けるのは、どうすれば良いか。

 騎士団と一口にいっても、王都がこれだけ広いと、無闇に出歩いて見つけるのは大変だ。

 ハンナさんは知っているだろうか。

 まずは聞いてみるしかないか。


 オーソン村に戻るのは簡単だ。

 来た道を戻れば良い。

 定期的に出ていると言う馬車を探しても良いし、最悪、歩けば良い。

 丸一晩かければ着くのだから簡単な話だ。


 と、色々と考えて分かったことがある。

 ハンナさんと仲良くなる必要がある。

 ミホークがあてにならない今、頼れるのはハンナさんだけということだ。

 ハンナさんは、精霊語を教えてほしいとは言っていたので、精霊語を教えつつ、こちらの知りたいことを教えてもらうようにする。

 しかし、ハンナさんか。

 こんなどうしようもないことをうだうだと考えていたのは、ハンナさんと話すのを俺自身が避けたかったからだ。

 あの()はミホークや俺の前では、すごく緊張する。

 まともに会話が成り立つかが問題だ。

 俺も若い女性と話をするのは、そんなに得意ではない。

 だから、ハンナさんと話さなくて良い理由を探してみたのだが、見つからなかった。

 むしろ、ハンナさんが居ないと今後の俺は困ると言う分かりきった結論に行きついただけだった。


 俺は、諦めてハンナさんを探しに行くことにした。

 教団の内層側の建物は、四角い中庭を中心に、周りを囲むように建っている。石造りの2階建てで、建物の外側が部屋になっており、中庭側が通路になっている。

 俺の部屋は、北側の2階だ。

 ハンナさんが居る可能性のある部屋は3つ。西側1階の食堂か南側1階の工房か、外層側の建物の2階事務室だろう。

 造りがシンプルのため、リアルなら自分の部屋がどこにあるか迷いそうだが、ここはヒロモンの世界。

 オートマッピング機能のおかげで、一度通った道は間違えずにすむ。

 マップが出るんだから、人も表示してくれれば、もっと便利なのに。まあ、誰も彼もを検索できるような機能はなさそうだ。プレイヤー同士のストーキングとか、トラブルが起きそうだし。

 俺はそんなことを考えながら、教団の建物の中を歩き回った。

 ハンナさんは工房に居た。

 カードを作成しているようだ。

「ハンナさん、ちょっと良いかな。」

 俺がそう声を掛けると、ハンナさんが思いっきり飛び上がった。

 びくっとしたと言うよりも、跳ね上がった。

 作製機(クリエーター)が、ふぅおんと気の抜けた音をたて、窯の部分の光が消えてなくなった。

 途中で終了したようだ。

 ハンナさんが俺の方を向いた。

「悪い、驚かしてしまったか。」

 ハンナさんは声を掛けたのが俺だと認識すると、窯の方を見て、また俺の方を見た。

 ハンナさんは、少しの溜めの後、俺の方をきっと睨みつけて言った。涙目になっている。

「ケージ様。なんですか急に!カード作成が失敗しちゃったじゃないですか!」

「えっと、すまなかった。驚かせるつもりはなかったんだ。」

「ミホーク様と言い、ケージ様と言い、どうしてあなた方は突然現れて唐突に何かを言い出すのですか!?」

 ミホークのことは俺には責任はないと思うが、何か鬱憤が溜まっているのだろうか。相手がミホークなら分からないでもないな。

 言われて思ったこともある。

 そう言えば、隠形系のスキルを発動しっぱなしだった。ミホークに言われたこともあるが、普段から居るのか居ないのか分からない人になっていると、長期間ログアウトしていても疑問に持たれないことに気付いたのだ。

 気配を消す側には都合が良い。そう、俺の都合では。

 一般的には気配を消して近づかれると、人は不安に思うだろうし、驚くなと言う方が無理な話だ。

「急に声を掛けたのは悪かった。その失敗してしまった分のカード作成は手伝うから。」

 俺はハンナさんをなんとかなだめようとした。

 俺がうろたえながら謝り続けたからか、ハンナさんも何とか落ち着いてくれたようだ。

 ひとまず、失敗したカード素材を片付け、ハンナさんの代わりにカードをちゃちゃっと作り、ハンナさんの本日分のノルマを達成させておく。

 そして半ば強制的に外層側の事務室に移動する。

「それで、何の用ですか。」

「うん、この間言っていた精霊語を教えて欲しいと言う件について、少し話がしたいと思ってね。」

「教えていただけるんですか!?」

 ハンナさんは、最初は強張った表情をしていたが、精霊語の話を振るとかなり食いついて来た。

「ある程度はね。そのかわりと言っては何だけど、頼みごとも含めて色々と話を聞かせてもらいたいんだ。」

「どんなことでしょう?」

「まあ、それは追々(おいおい)。まずは、魔道具について、ハンナさんが知っていることを聞かせてもらいたいんだ。」

 ハンナさんが訝しげな顔をする。

「私が知っていることなど、ケージ様がご存知のことに比べれば大したことないと思いますが。」

 ハンナさんの言い方に若干トゲがある。

「言い換えるよ。魔道具が世間ではどのように作られていて、どのように扱われているかを知りたいんだ。俺は、精霊語や魔道具の仕組みは知っているけど、それは本などに書かれている知識でしかない。なんだろ、世間知らずなんだよ、俺は。世の中の知識と言うのをハンナさんに教えてもらいたいんだ。」

 正確に言うと、魔道具の仕組みも知らないが。

 俺の言葉を聞いて、ハンナさんは少し得心(とくしん)したらしい。少し表情からこわばりが解けた。警戒は和らいだが、まだ緊張はしていると言う感じだ。

「分かりました。私が分かる範囲でお答えします。」

「ありがとう、助かるよ。それで、魔道具なんだけど、どこの誰が作っているんだろう。カードみたいな特殊なものは別として。」

「はい。えっと、世間では、魔道具とは、精霊語が刻まれたもの全部を指します。カードしかり、武具しかり、家庭で使われるコンロのようなものもしかりです。作り手ですが、それぞれ大きな工房であれば技師が居ます。」

 魔道具と言うから、道具のことしか考えていなかったけど、武器や防具もそうなのか。

「魔道具の種類によって、作り方が異なりますし、その作り方は工房ごとに秘匿されています。例えば、魔除けの道具などは、材質が石や木ですので、道具を作った後に精霊語を刻んでいきます。精霊語の図案は、工房に伝わっていますので、その通りに刻むことで魔道具を作成できるのです。」

 ハンナさんは、いつも持っているノートを開いて見せてくれた。

 ノートにはスクリプトの写しが描かれており、ヒロモンの世界の文字で説明が書かれていた。

「武具等、材質が金属の場合は、精霊語を刻んだ型を用意するらしいです。」

「なるほど。そうした精霊語の図案は、工房ごとに管理されているというわけか。」

「そうです。今の時代には、精霊語を読める人は居ませんので、工房が持つ図案は大切に管理されています。」

「とは言え、精霊語が分かる人も多少は居るんだろ。」

「そうです。精霊が共に暮らしていたと言われる伝承の時代にも魔道具がありました。魔道具に共通する図案から、ある程度の意味は分かります。そして、いくつか意味の分かる図案を組み合わせて、新しい魔道具を作成する人たちが居ます。」

 ハンナさんは、そう言うと、ノートの別のページを開いた。

 そこには、魔晶石に記録されているプログラムを呼び出すスクリプトが描かれていた。もちろん、説明付きで。

「ハンナさんは、ノートにある図案や精霊語はどうやって勉強したの。」

 ハンナさんの表情が少し曇る。

「私は、道具屋の工房に勤めている技師の娘でして、それで技師を目指していました。ただ、父に技師になることは反対されまして、工房に勤めることはできませんでした。幼い頃より魔道具に触れていたため、設計図のある魔道具は作れるようになってましたし、運良く、教団長様に拾っていただき、教団に勤めさせていただいています。」

 もしかして家出中か。

「じゃあ、お父さんから精霊語のことを学んだんだ。」

「そうです。父の工房に小さいころから遊びに行っていて、それで。」

「ずいぶんとノートを書き溜めたんだね。」

「いつかは、新しい魔道具を作るのが夢なんです。」

 ハンナさんはノートの方に目をやりながら、小さ目の声で言った。

「できれば、父と一緒に。」

 お父さんと一緒にか。

 健気だね。

「父は魔道具の職人としては普通の腕だと思っています。それでも、父はいつか自分の名前が付いた魔道具を世に出したいと言っていました。だから、私はそれを手伝いたいと思っているんです。」

 まあ、そう言った理由なんてなくても精霊語を教える予定だったけど。

「そうか、俺にできる範囲で協力するよ。」

「はい、お願いします。」

 ハンナさんは頭を下げた。

 とても良い娘さんである。

 でもって、お父さんは頑固一徹な職人気質なんだろうな。

 想像だけど。

「俺からも、いくつか頼みごとがあってね。」

「何でしょうか。」

 話を始めた最初よりは、ようやく固さが取れてきている気がする。

「3つある。ひとつは、他人から手紙を預かっているので、それを届けたい。ふたつ目は、オーソン村へ行きたいのだが、定期便の乗り方を教えて欲しい。みっつ目は、別の町に行くための資金を稼ぎたいんだけど、どうすれば良いか相談に乗ってほしい。」

 一気にお願いをし過ぎたか。

 ハンナさんが、ちょっときょとんとしている。

「えっと、それだけでしょうか。」

「そうだ。」

 ハンナさんは、ほぅっと息をついた。

「そんなことは、改まって頼まれなくても、お手伝いいたしますよ。私、教団の職員ですから。」

 もしかして、拍子抜けさせたか。

 俺にとっては重大なことなんだが。

「まず、お手紙とは、どなた宛てでしょう?」

「第4騎士団の副団長様宛だな。」

「そうですね、案内はできますが、第4騎士団ですとお会いするのが難しいかも知れません。」

「内層側に居るとか?」

「いえ、そうではありません。第4騎士団の任務は魔石の採取ですので、今はお忙しい時期になるかと。」

「魔石の採取?」

「えっと、森に出掛けて魔獣を討伐するのが主なお役目になります。今は魔獣の季節でもありますし、王都に居ない可能性の方が高いと言うことです。」

 そうか、騎士団は魔獣の討伐がお仕事か。

 ヒロモンの世界は国同士の戦争はあまりない。なぜなら、モンスターの脅威があるので、他の国なんて構っていられない状況だからだ。

 魔獣の討伐がお仕事なら冒険者と組むこともあるだろうし、そこで団長さんとロイスさんは出会ったんだろうな。

「わかった。ダメもとで、明日にでも案内して。」

「えっと、できれば1週間後くらいにお願いできませんか。カード作成をしなければなりませんので。」

「1日20枚だったっけ。後で俺が手伝おう。20枚くらい、直ぐにできるよ。」

 何やらハンナさんが驚いたような目を向けてくる。

 何か変なことを言ったのだろうか。

「カードは作成するのに魔力が必要です。あまり一度に作成すると、魔力切れで倒れてしまいます。なので、数枚作ったらしばらく休むのが規程ですわ。」

 だからハンナさんは、よくこの事務室で待機しているのか。

 でも、俺の魔力は尽きることないし、倒れもしないだろう。

「多分、大丈夫だから、後でやってみよう。」

「ミホーク様と言い、ケージ様と言い、本当に非常識ですね。」

 分かったから、あいつとは一括(ひとくく)りにしないでいただきたい。

 ハンナさんは、ちょっとだけ溜息をついた。

「オーソン村への定期便ですが、残念ながら私には分かりません。ただ、教団にいらっしゃる商人でしたら知っている人も居ると思いますので、聞いてみます。」

「それは助かる。お願いするよ。」

「最後のお金についてですが、ケージ様は別の町に行かれるのですか?」

「今日明日じゃないけどね。ミホークに言われていてね、他の町の教団に行って、作製機(クリエーター)を点検してこないとならない。」

「だとすると、それは教団のお仕事と言うことになりますね。」

「まあ、そうかな。」

「でしたら、旅費は教団の予算から出ると思います。入用(いりよう)の物があれば、おっしゃっていただければ用意もできると思います。」

 そっか、旅することそのものがお仕事になるのか。

 それは楽で良い。

「資金が出るなら出稼ぎに出なくても良いか。ミホークに念のため言っておくかな。金をくれって。」

 またまたハンナさんが驚いた顔をした。

「前々から不思議に思っていたのですが、ミホーク様とケージ様はどのようなご関係なのでしょうか。ミホーク様の教団内の位階は教団長様と同じ一位です。ケージ様は、ミホーク様に対して対等に振る舞われていますので。」

 教団の世界も階層社会らしい。

「以前からの知り合いかな。位階については詳しくないが、ミホークは人に偉そうなだけで、人として偉いわけではない。気にしなくて良いよ。」

 納得はいかなさそうな顔をしているが、そこはスルーしておく。


 俺はハンナさんと一緒に工房に戻ると、3日分ほどのカードを作成した。

 これでハンナさんの3日分の工数を確保したので、騎士団への案内や買い物に付き合ってもらえるだろう。

 王都での生活をようやく開始できた気がする。

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