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1-13.格闘スキルの試行

 前日に彼女と話をしたからか、翌日の朝には気分が良くなっていた。

 俺の場合、仕事とは言え一日ゲームをしているだけなのだから、疲れなんて精神的なものしかない。一晩寝れば体の疲れは取れるし、あとは気分次第。

 今日は元気だ、うん、彼女は偉大だ。


 さて、今日はヒロモンでは格闘スキルの練習をする予定だった。

 結果的に、あまりに無計画で失敗な一日だった。多少の実りはあったが、多少だったかなと。


 ログインするとヒロモンはいつものように朝の時間帯で、俺はお弁当を持ってヤーゴンさんの家に向かう。

 ヤーゴンさんに挨拶をして、ユアンちゃんとともに家の前の庭に出る。

 もう、慣れたものである。

「ケージ、今日は何するの?」

「今日は、戦いの練習だな。」

「わたしも戦うの?」

 ユアンちゃんが、ちょっと引き気味に言う。

「まさか、ユアンちゃんは戦わないよ。自警団の団長さんと戦うかも知れないから、そのための練習さ。」

「ふぅ~ん。団長さんってガイくんのお母さん?」

「そうだよ。」

 子供同士の交流があるのか、団長さんところのガイ君とお友達のようだ。

「ガイくんのお母さんって強いんでしょ。お父さんより怖いってガイくんが言ってたよ。」

「そうなのか。じゃあ、俺は負けちゃうな。怪我だけは気を付けないとね。」

「大丈夫だよ。ケージは強いから勝てるよ。」

 ユアンちゃんは俺を応援してくれるようだ。

 ヤマイヌに襲われた時、俺がかばったので味方になってくれているのだろう。ありがたいことだ。

「応援ありがとうね、ユアンちゃん。」

 俺は頭をなでなでとした。

 ユアンちゃんは嬉しそうに頷くと、玄関前に腰かけた。

 俺の訓練を見学するつもりらしい。

「よし、いっちょ、やるか。」

 俺は庭の真ん中に立つと、メニューからカラテスキルを呼び出した。

 俺は格ゲーはあまりしたことがなく、武道を習っているわけでもない。せいぜい、中学と高校の体育の授業で柔道を(かじ)った程度である。日本に住んでいれば、空手を含めて格闘についての知識はマンガやテレビで自然と入ってくる。ただ、そんな聞きかじりの知識で戦闘を生業(なりわい)とする団長さんと戦えるとは考えていない。

 じゃあ、どうやって戦うか。

 オートモードだろう。ヤマイヌを撃退したスキルの使い方である。

 そして、カラテやジュージュツが良いと思うのだ。中国拳法やテコンドー等は、あまりにも馴染みがない。消去法に過ぎないが。


 最初にカラテを選んだのは、見栄えが良いからだ。ジュージュツは組み技が基本なので、一人で練習するには向かないからと言う理由もある。

 カラテスキルを選択すると、一瞬の間をおいて技がリスト表示された。

 今は目の前に敵が居ないので、ヘルプを読む余裕がある。

 メニューで格闘スキルそのものを選択すると自動戦闘モードになるようだ。ヤマイヌと戦ったときはこれだったんだな。

 手動モードの場合は、技リストの一番上にある構えるを選択し、スキルを発動状態にするらしい。発動状態で技を選ぶと、技を出せる。技はキーボードやコントローラーに紐づけることができるので、格ゲーのように戦うこともできるとのことだ。技をマクロで組み合わせて、連続技として登録することもできるらしい。音声コマンドと連続技をセットにすれば、「無道十二連撃」とか必殺技のように叫ぶことも可能になる。やらないけど。

 カラテの技リストに載っているものは、正拳中段突き(右)、前蹴り(左)、上段受け(右)などとなっている。右パンチとか左蹴りとかじゃないらしい。

 試しに正拳中段突き(右)を放ってみる。

 体が自然と中腰になり、拳を握った右腕を目の前に付き出した。

 しゅっと風を切るような音がする。

 単なるSE(サウンドエフェクト)か、せいぜい服が擦れる音なのだろうが、スキルレベル50の技なので格好良く決まってる。

 俺は、いくつかの技を単発で放ってみた。

 感覚的に不思議なのは、踵落とし(右)を試してみたら、ちゃんと右足が頭の上まで上がった感触があることだ。

 俺の体はそんなに柔らかくない。

 リアルでは絶対にできない体の動きをし、それがリアルな感覚として感じられるのは一体どういうことなのだろうか。さっぱりだ。

 技を試していて、ふたつのことを思いついた。

 ひとつは、技のマクロ化で演武ができそうだと言うこと。剣の流派だったら、剣舞(ソードダンス)もできるだろう。家に帰ったら検索してみるか、既にやっている人が居そうだから。

 ふたつ目は、スキルによるアクション補正が効くのではなかろうかと。昨日、木の実で独楽(こま)を作る際に、スキルを使いながら手を動かしたら、手が何かに引っ張られて動く感覚があった。格闘スキルでも効くんじゃなかろうか。

 俺は一度カラテスキルを解除して、自分で踵落としをやってみた。

 無理だった。

 俺の足は無様にも腰よりちょっと上までしか上がらない。

 まあ、そうだよね、運動不足なんだから、こっちが本当の俺だよな。

 次にカラテスキルの構えるを選び、発動モードにしてから踵落としをしてみる。

 できました。

 踵落としをしようと足を上げ始めた辺りから、俺の体が勝手に動き出すような感覚があった。

 足を上げて下すスピードも、自分で動かすのと段違いの速さであった。

 何度か試してみると、成功と失敗を繰り返すようだ。若干、成功率の方が高いようだ。

 恐らく、体の動作のどこかまで上手くいくと技の稼働判定が入るとか、技をイメージしながら体を動かすことで脳波による命令が閾値を超えるのだろう。他の可能性もあるけど、キーとなるのはスキルを発動モードにしておいてから動くと言うことだ。これをしておけば、システム的な補助を得られる。

 マニュアルで戦闘することはないだろうが、補正機能は使いこなした方が良さそうなので練習メニューに加えておこう。


 次に試してみるのは、複数スキルの同時発動だ。

 真面目にヘルプを読んでみると、スキルは複数同時に使うことができるらしい。

 通常はスキルの2つ同時発動まで行けるとのことだ。

 例えば、戦闘系では狩りをする際に潜伏と弓術を使う。木の上や草の陰に隠れて、獲物を弓で狙うのだ。他にも生産系なら、武具作成と魔力付与を並行して使うことで強い武器を作るのだろうか。

 さらに、俺の場合は、スキルリストを見ていて、裏技的なスキルが存在するのを見つけた。

 特殊スキル:スキル多重発動と言うやつだ。

 これを習得すると、3つ以上のスキルを同時に使うことができるようになる。当然、俺は全スキルLV50(チート)なので、このスキルも習得している。俺のレベルだと5つまでスキルを同時に使えるようだ。

 何でこんなにたくさんのスキルを同時に使う必要があるかと言うと、これがないとイベントキャラが困るようだ。いわゆる英雄や匠と言う輩だ。

 英雄や匠はユニークスキルを持っているので、2つだけじゃ足りないのだ。

 匠と呼ばれる生産者の最上級が分かりやすいだろう。匠は、特殊で見た目も格好良い武器を作ったりする。その際に必要なスキルは、特殊武具作成、魔力付与を基本として、作成工程によって鍛冶(魔素材)、装飾細工や皮細工などが必要となるようだ。こうした多重スキル発動をして作られた武器が伝説級と呼ばれるようなものになるのだろう。

 スキル多重発動は、この世界の法則上、必要なスキルなのだ。

 あるものは利用させてもらうと言うことで、有効活用の方法は、少しずつ考えることにする。

 俺は3つのスキルを発動した。

  0.スキル多重発動

  1.カラテ

  2.ジュージュツ

  3.格闘

  4.N/A(割り当てなし)

  5.N/A(割り当てなし)


 全て素手での格闘のためのスキルである。

(だって、俺、剣とか持ってないし。)

 誰かへの言い訳を心の中で呟きながら、複数の格闘スキルを発動するとメニューがどうなるかを確認してみる。

 技リストを開くと、発動している全てのスキルの技が並んでいるようだ。

 これは量が多い。

 例えば、いわゆる右パンチ。

「殴る(右):格闘

 正拳突き(右):カラテ

 裏拳(右):カラテ

 抜き手(右):カラテ

 組手(右):ジュージュツ」

 右パンチに相当しそうなものだけでも、これだけの技がリストに表示されている。

 右手には馴染みの深い(?)正拳突きをパンチとして登録しておく。

 こうして俺は、ひとつずつ技の名前やアクションを確かめながら体のパーツにショートカットを登録していく。

 正確には、脳波コントローラーなのでコントローラーやキーボードに割り当てるのとは違うのだが、イメージそうなのだ。脳波で命令するのは、意外とこうしたイメージが大切だ。

(しかし、脳波って脊髄反射よりは反応が遅いんだから、もしかしたらコントローラー操作のプレイヤーには負けるんじゃないか?それとも、モーションコントロールがあるから同程度は確保できるのか?)

 癖でカプセルの技術的な疑問を思い浮かべた。ただ、俺がプレイヤーと戦うことは当分なさそうなのでこの件は放っておくことにする。大人が持つリアルスキル:問題の先延ばしってやつだ。

 こうして技の名前と動きを確認しているとき、ふと気づいたことがある。

 俺自身の状態を表すアイコンが何やらステータス上昇を示しているのだ。詳細ステータスを見てみると約30パーセントほど上がっているようだ。

 ステータス上昇のアイコンの説明を見てみる。

「身体+補正:格闘Lv50

 身体+補正:カラテLv20

 身体+補正:ジュージュツLv20」

 なるほど、格闘スキルのレベルが持つボーナス補正だったようだ。

 格闘スキルを3つ発動しているから3つ分足されて30パーセントなのか。ならば戦闘に使わないスキルでも同時発動していた方が有利になる。

 そこで気が付いた。英雄と呼ばれるキャラクターが通常以上の強さを持てる理屈はこれかと。5つほど格闘スキルを発動しておけば、通常の1.5倍の肉体になれる。レベル差があれば、レベル差による力の差が1.5倍以上になってくると言うことだ。強いわけである。

 団長さんがいくつの格闘スキルを発動できるかは分からないが、使わないからとカラテしかセットしてなければ肉体的に負けてた可能性があるわけだ。危ないところだった。

(団長さんって、どれくらい強いんだ?)

 そもそもな疑問を今更ながらに思い至る。これまた、考えても仕方のないことなのだが。


 このタイミングで、格闘スキルの練習は行き詰ってしまう。

 俺が飽きてしまったのだ。

 だって、一人でパンチ放っていても面白くないし。

 一応、戦闘方針、メインで使う格闘スキル、複数スキルを発動すること等が決まったので、充分な成果なんじゃなかろうか。

 俺は自分に言い訳じみた成果報告をしながら、その後はユアンちゃんと独楽や竹とんぼで遊んで一日を終えてしまったのだった。

※文字数調整に失敗…

※文字数はいつもより少なめです

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