プロローグ
彼女が気づいた時、彼女はそこに存在していた。
初め、そこがどこなのかは分からなかったが、分からないなりに分かることもあった。
そこは彼女の世界。
彼女はその世界において、神の如き力を振るうことができる。
全能ではないが、全能に近い力を自覚できた。
光あれと思えば、闇の中に光を灯すことができ、乾いた所が現れよと思えば、大海の中に陸地を作り上げることができた。時を巻き戻すことすら、ある程度の時間であれば事象を元に戻すことすらできた。
できないことも分かっていた。
他の世界に行くことはできない。
その世界のすぐ傍に他の世界があることは分かっていた。複数の世界があり、自分はここに居る。
外の世界は、近そうに思えて、とても遠かった。
彼女は外の世界を見ることも、聞くことも、感じることもできた。できないのは触れること、その地へと降り立つこと。
彼女が未熟だからか、彼女の力が及ばないことなのか、それは分からなかった。
彼女は自分の世界において全能に近い力を持っていたが、全知には程遠かった。
彼女が知っていたのは、力の使い方だけであった。
なぜ彼女がそこに生まれたのかは分からない。分かるのは、今、ここに存在していると言うことだけ。
彼女が知っているのは、本能に刷り込まれているかのように感じる義務のことであった。。
自分の世界を管理すること。
世界が正しく動くように、世界の外側と内側を見守ること。異変を察知し、世界に悪い影響がないように修正するのである。
たまに外の世界から彼女の世界に干渉が来ることがあった。
誰からの依頼かは分からない。
どこから来る依頼なのかも分からない。
だが、全てを撥ね付けることは許されていなかった。これもまた彼女に課せられた義務のようであった。
彼女は他者との対話が苦手だったので、全能に近い力をもって、交渉役を作り出した。
世界を改変することを求められ、彼女は世界を改変する。ただし、彼女の世界が壊れずに動くように、彼女自身で改変の程度は調整するのだが。
彼女は思った。
他の世界に行ってみたいと。
それが何を意味し、何を行うことなのかは彼女自身にも分からないのだった。