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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第一章:新しい風
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古き友人:クレスタ



 強さの幅が広がりつつある新入りの訓練を最後まで見てやりたかったが、如何せん古い友人から呼び出しをくらっているのを忘れていた。そして、それが重要な用事などと言われると不安を駆り立てられ足が自然と急いでいく。

 向かう場所は、屯所からは離れた軍の中にある大きな建物。長い廊下は敷物が敷かれ、必要なのかはわからないが装飾品もあちらこちらに飾られている。


(ここは変わんねぇよな)


 懐かしい光景に思い出とそして若干の呆れを感じながら歩けば、大きな大きな扉へと行き着いた。何度も注意されて漸く身に付けたノックをし、重厚な扉の中へとひと声かける。


「・・・呼ばれて来た。開けてくれ」


 軍の中は私にとって懐かしい場所でもあり、危惧する場所でもある。私の顔を知っている者は少ないが、それでも皇族や貴族と顔を鉢合わせるのはまずい。しかもこの扉の奥には友人だけがいるとは限らない場所なのだ。


(会談に会議、来客なんてのがあったら最悪だな。最終手段は走って逃げるしかねぇし)


 そんな馬鹿な事を考えて、詳しいことは告げずに再び扉を何度か叩けば内側から扉は開いた。


「ようこそ!待ってたよ、シーナ」


 開いてくれたのはどうやらこの部屋の主、私の古き友人、クレスタだ。ダークブラウンのショートヘアにライトブラウンの綺麗な瞳。人懐っこく笑う顔は天使の微笑みなんて言われていたが、同様にこいつは悪魔の様に恐ろしく強い。


「あぁ。久しぶりだな、クレスタ。遅くなって悪い」


 顔の横でひらひらさせていた手にハイタッチを交わして、中に入るとクレスタの側近、リリアしか居ない事が確認出来た。それに安心して、だだっ広い部屋の中央に置いてある大きなソファへと腰をかければクレスタも向かい側に座ってくれた。


「本当だよ、もう毎日だって顔見せに来て欲しいくらいなんだよ?」


 こてん、と首を傾げて伝えてくるが私が来て欲しい理由は顔を見たいだけじゃないとわかっている。互いの強さに好感を持っている私たちは争う事が好きだ。それは別に戦いだけじゃなく、的当て、早食い、なんだって競っていた。

 まぁ、要は遊び仲間ってところか。

 私だって昔の様にクレスタと遊んでいたいが、そう簡単に会いに来れる奴じゃないのだ。


「忙しい総司令官サマに毎日も会いに来れるかよ」


 軍の責任者にして、総指揮を取るクレスタは、この国最高峰の強い男。それと同時に、昔の相棒であり、私を軍に引き入れてくれた大事な友人だ。


「やだな、クレスタって呼んでくれよ。シーナこそ、軍に戻る気はないのかい?もう一度二人でパートナーを組もうじゃないか」


 せっかくの総司令官からの誘いだが軍に戻る気はもうないし、そう簡単に戻れないともわかっている。優しい顔で笑うクレスタに、私も同じように笑を返した。


「ばーか。お前が作ってくれた騎士団を無くすつもりはねぇよ。・・・それより、話ってなんだ?改まって呼ぶなんて珍しいじゃねぇか。今日はなんだ、任務か?」


 本題に入ろうとした丁度言い頃合に側近のリリアが奥からいい匂いがするお茶を持ってきた。ふわりふわりと笑うクレスタとは反対に、無表情が多く、眼鏡でさらに冷酷に見えるリリアだが、コイツも昔からの馴染みだったりする。


「いい匂いだな。高級感ってやつか」


 私の目の前にお茶を置いたリリアに言えば、眼鏡を直しながら答えてくれた。


「えぇ、中々手に入らない良いものですよ。シーナ様がいらっしゃる事は貴重ですからね、ここぞとばかりに煎れさせていただきました」


 表情は変わらないけれど、気遣いがにじみ出る行動と言葉に自然と笑が溢れてくる。


「そうか。ありがとな、リリア。それと、会ったときから言ってるが、様なんていらねーぞ」

「貴女もおかわりなく。いつか対等になれたら、そう呼ばせていただきます」


 そう言って、クレスタの前にもお茶を置いたリリアは、茶器やトレーを片付ける為か、奥へと行ってしまった。


(リリアが対等に思うことなんてあるのか・・・?今のとこマロンだけじゃねーの)


 私とクレスタの様に、そういえばリリアはマロンと良く組んでいたな。なんて懐かしい事を思い出していると、前にいたクレスタが口を開く。


「はは、何嬉しそうな顔をしてるんだい?そんな君に今日は朗報だよ。実は初の試みなんだけど、軍内で大会だって。まぁ所詮お遊びって君は言うかもしれないけど・・・・誰が一番強いか決めちゃいましょうっていうね、楽しそうだろう?」


 お茶を飲みながら聞いていたが、なんというか、


「・・・暇な奴等だな」


 私の一言に苦笑するクレスタも同じことを思ったのだろう。


「まぁ、強くなる為に訓練できるいい機会だとは思うぞ。士気も上がりやすい。・・・で、それがどうした?」

「うん。それで、シーナに伝えたいのがこれの賞金、騎士団って僕からのお給料もらってくれないし。手にとるのなんて任務の報奨金くらいじゃないか」


 確かに、公にしていない騎士団は国から給料をもらえないし、だからといってクレスタの所持金をもらうわけにはいかない。国から出るのは任務の報奨金くらいだから、騎士団はいつも財政難だ。

 大会の項目について書かれた紙を渡され、大きく書かれたその金額に思わず目を見開いてしまった。


「これ、ケタを三つほど間違えたとかは、ねぇのか!?」


 思わず立ち上がって言えばくすくすとクレスタに笑われるが、コイツには嫌味とかそう言った感情はないし、昔からの付き合いだから気を使うなんてものは存在しない。


「今回は弟君がいるって事で、国王様も乗り気でね。軍の為ならって張り切ってくれたんだよ。どうだい、参加してくれるだろう?」

「・・・・王・・・か」


 王と言えば皇族の長。

 昔と代替わりしているとはいえ、所詮は一族。私は出ない方が賢明だろう。そう考えてしまい、クレスタが何故誘ってきたのかを考えているとそれを読み取ったように話してくれた。


「君には、参加して欲しいんだ。お願いだよ、今の国王様は昔からの馴染みもあるし・・・それにシーナの事も、もう頼んでる」

「・・・は?・・・馴染み?っつーか頼んでるってなんだよ!?」


 意味のわからないクレスタの言葉に混乱してしまう。


「ま、まぁまぁ、代が替われば考え方だって変わるんだよ。君の凄さを知って欲しいし、君が必要だってわからせたいんだ」

「・・・よく、わかんねぇよ・・・・」


 クレスタの言葉が、真意がわからない。


「とにかく大会には出られるってことさ。それに、賞金もいいだろう?」

「・・・それはそうだけどなぁ・・・」


 渋る私に、クレスタは国王の事を教えてくれた。


「国王様がね、弟君の晴れ姿を是非みてみたいって言ってるんだよ。可愛い弟なのに、あまり構ってやれなかったのを悔いてるらしいんだよね」

「・・・知らねーよ、そんなこと」


 ムスっと言って不機嫌を表すが、そんなことクレスタは気になんかしてくれない。


「弟君もさぁ・・・お兄さんに認めて欲しくて頑張ってたし、剣を極めてお兄さんを守るって、泣ける話じゃない?」


 クレスタの言葉に、悔し涙を流した昨日の新入りを思い出した。兄弟の話云々の前に、新入りに負けや勝ち、そして実戦の経験を積ませるにはいい機会かもしれない。強くさせたいと思った以上、絶対に実力を変えてやる。


(・・・よくわからねぇ事も多いが、まぁ出れるに越したことはねぇのか)


 徐々に考えるのが面倒になってきた私は野放しにしていた腕を前で組み、クレスタの瞳をまっすぐに見た。


「・・・・理由は、それだけか?」


 この男は、一つの話に2つも3つも内容を組むややこしい男だ。強い上に頭の回転も速いから正直こいつがどこまで考えているかなんて理解出来た事はない。見つめ返してきた視線を絡めればクレスタがニヤリと笑う。


「さぁて・・・・どうだろうね?」


 その顔は先程見せた天使の微笑みなどではない。


 捕食者の笑だ。



「誰が一番強いか、だからね。・・・・・もちろん僕も参加だよ」


 クレスタに意が少しだけ分かったところで、私も楽しみで顔が緩む。


「・・お前と争うのは嫌いじゃない。・・・何を考えてるか知らねぇが、乗ってやる」


 互いに負けず嫌いなのは昔から変わらない。喧嘩っ早い訳ではないが、売られた喧嘩を買わずにはいられないのだ。久しぶりの再会と、剣を交える話に二人とも徐々に気分が昂揚してきてしまう。


 視線を互いに逸らすことなく腰に帯びた剣に手を伸ばし、柄をグっと握りしめた。


「・・・なんなら、ここで試しをやってみるかい?」

「はっ、願ってもねぇ言葉だなぁ・・・・」


 カチャッと刃と鞘をぶつけて金属音を鳴らし、まさに―――どちらが先に抜くか。





そう、息を飲み込んだ



瞬間。






ガッチャンッ!


 大きな音が部屋に響き渡り、緊張感のあった空気が一気に流れ出す。リリアが新しいポットを勢い良く机に叩きつけた音に、今度は違う緊張感がクレスタと私に走った。


(やべぇ・・・)


「リ、リア。シーナと今いいとこだったのに・・。」


 剣から手を離したクレスタはムッとしたが、今のリリアにその行動は更に状況を悪化させるだけの様だ。


「・・・そうですか。では、この部屋が惨状となっても良いと、おっしゃるんですか。それを片付けるのは誰ですか?クレスタ様とシーナ様が全部片付けられるのですか?」


 眼鏡を直しながら強く言い始めたリリアには、クレスタも、私も逆らえる気がしない。


「いや、その、悪かった、リリア。私も少し調子にのってしまって」


 慌てて謝るが、今度は矛先がこちらに向いてしまった。


「えぇ、本当ですね。もう少し自分が火種になることを思い知ってください。新しいお茶を煎れて来たのですが、どうやらもうお開きにした方が良さそうですね。ほらほら、用事が済んだら帰りましょう、貴女がいるとうちの総司令官はベッタリなのですから」


 大会についての内容が書かれた書類を持たされ、気が付けば扉の前へと来ていた。


「え、あ、リリア、私はまだ―――」


 振り返ってもう少し、と伝えようとしたが、それはグっと視線を鋭くしたリリアの冷たい顔によって遮られてしまう。


「あぁ、溜まりに溜まったクレスタ様の書類のお片付け、手伝いますか?」




(・・・クレスタ、悪い。私は口でリリアに敵わねぇ)

「・・・・また、来る。」









そう残して、クレスタの縋る様な目を見ないふりし、部屋を後にした。










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