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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第三章 懐かしの風
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皇族の男、誓いを抱いて



「それからは、君たちもよく知っている通りだよ。出ていこうと決めたシーナを何とか引き止めた手段が騎士団。結成させようと思った時に人数が居ないという話になってね。シーナが目に留めたそこの二人を強制的に引き連れてきたみたいだよ。あの時のシーナは少し冷静になって、怒りや悔しさで苛立っていたからね。丁度良い殴り人形が出来たって言ったときにはひやひやしたものさ」


 僕は騎士団の屯所でシーナに蹴られた腹を庇いながら昔話を続けた。僕の思いは曖昧にぼかして、起こった出来事を告げて行くと苛立ちはあるものの最初ほど騎士団の人間は噛み付いてはこなくなった。

 僕だってただシーナを裏切っていたわけじゃない。


 ずっとずっと守りたかったんだ。


「騎士団が結成した頃に政権も交代。見事、そこに居るラル君のお兄さんが皇族を変えていったんだよ。まぁ、全部が全部変えれる訳ではないから、古株は遠くに飛ばして人質を開放、ついでに仕える人間もそれを期にやめたりとかもあってほとんどが新しくなった。だから・・・シーナを知る人間もいなくなっていった。・・・本当もう少し早くしてくれたら良かったのにね」

「・・・時期というのもある、私の計画ではその日が最短だった」


 言い訳の様な、潔い様なその言葉に、真っ直ぐなのは兄弟よく似ている、なんて事を考えながらも僕はまた話を続ける。


「僕がそのお兄さんのおかげで総司令官に就任して、シーナを軍に戻そうとも考えたんだ。それが君たちも参加したあの大会さ。シーナの強さは誰が見たって認められるものだって知っていたから、皆に見せれば一目瞭然だと思った。もう一度、シーナに居場所を取り戻して欲しいだなんて、勝手なことを考えていたんだよ。香失草の畑もやっと全部なくなって、手元に残るものも症状を抑える為の研究に使うものだけになって、もう安心だと思ったから」


 僕の言葉に続いて、ロード=セルティ・シアナが現状を説明してくれる。


「けれど、香失草の患者があの大会後に現れる様になった。あの独特な甘い花の香りをさせる人間が何人か王都の、それも城内の使用人から見つかった。どの患者もあの大会後に雇われた者で、不審に思った私達は、彼女の存在が明るみに出るのをもう少し待つことにしたのだ。・・・正直、あの大会では仮面を付けていてくれて助かった」


 そう、彼女が軍に戻れない理由はそこにあったのだ。あの草さえなければ、彼女を傷つける必要さえなかったのに。


「それで、色々詐称されてて患者の共通点もわからなくてね。けど、今回オーリンという患者を連れて来てくれただろう?それが、突破口になったって事さ。オーリンが居た村に香失草がある、彼はもう末期の症状まで侵されていた。って言うのを伝えようと思っていたのにね、そこのロード家のお兄さんが馬鹿正直にばっかり伝えるから、シーナを傷つけるだけ傷つけてしまった。まぁ・・・真実に変わりはないんだけど・・・」


 僕はロード=セルティ・シアナの性格に諦めを感じながら横目で彼を見れば、彼はふっと息を吐いて笑った。


「真実を捻じ曲げて伝えてしまっては解決にならないだろう?」


 もしかすると、こうやって口喧嘩の様な言葉を交わすことがこの男にとっては嬉しい出来事なのかもしれない。彼の笑顔を見ながら、僕とリリアの皮肉争いを羨ましいと言っていた事を思い出す。


「真実にも伝え方っていうのがあるんだよ、君はなんで昔っから頭がいいのに気が効かないんだろうね」


 友人、そう呼べる人間が欲しいと言っていたロード=セルティ・シアナに僕も笑いを零して粗方の説明を終えた。騎士団の面々は複雑な顔をしていたが、事件については少し納得してくれているのだと思う。


「・・・・シーナの事は、俺が横で騒ぐ問題じゃねぇ事くらいはわかった。ただ・・・シーナとはもう一度話してやれよ。あいつは守られ方なんて知らねぇんだ、ちゃんと説明してやれ。・・・・まぁ、それにしても・・・オーリンが患者だったとはな。・・・・ってことはあの村の奴に栽培している者が居るってことか・・・」


 マロンがそう告げると騎士団の面々も一先ずは納得してくれたみたいだった。シーナがいないところでする話ではないとわかってくれたのかもしれない。


 ただ一人、顔を青くしたラル君を除いて。


「ラル君、大丈夫かい?皇族に誇りを持っていた君には衝撃の事実だったかもしれないけれど・・・」

「い・・いえ、確かに皇族の事実には驚きました・・・けれど、ここに居ることで、皇族という名前が、人の価値を決めるものではないと教えていただいていたからか・・・そこまで辛くもありません・・・そ、それよりも・・・シーナを追いかけなければ!」


 慌て始めたラル君に成長しているという実感が湧くと同時に、シーナを大事に思ってくれる優しさを嬉しく思う。


「そうだね、シーナにきちんと話をしないと。でも、大丈夫だよ、城の敷地は門へいかないと人の足では越えられない」

「違うんですっ!!!あ、こ、これを・・・!!」


 ラル君は慌てながら小さく折り畳んである白い紙を広げた。文字の羅列を追いながら告げられたラル君の言葉に、僕はシーナにやられた腹の痛みも忘れて立ち上がってしまった。


「シーナは、既に香失草の効力を僅かながら体に受けています・・・!ヴィスタ、村で見回りから帰る途中、シーナからオーリンと同じ甘い花の香りがしたでしょう?先程はしていなかったみたいなので、おそらくまだ完全に効力が体をめぐっている訳ではないと思うのですが・・・シーナは僕の乗っていた飛竜に乗って村の方へと行ってしまいました。・・・この紙に書いてある事が本当ならば、シーナが・・・!」


 頭の先から血の気が引いて行く。

 シーナが髪を斬った時よりも、言葉を荒々しく言う様になった時よりも、軍を出ていくと言った時よりも、僕は心臓がうるさくなって、不安が大きくなっていった。


「・・・うそ、だろう?」


 今までの苦労は何だったのか、自分から傷つけて遠ざけて、それでいて守れていないなんて冗談にもならない。


「っくそ、クレスタ、飛竜を使え・・・いや、その体じゃ止めた方が良さそうだな・・・騎士団で行くぞっ!!」

「嫌だっ!!!!僕も行く!・・・・もう、何も伝えられないのは嫌だ!」


 痛む腹を庇って言うにはきっと滑稽な台詞だろう。けれど、それだけは譲れなかった。もうシーナが悲しむのも、シーナを傷つけるのも、全部全部嫌なんだ。


「・・・っ、わかった。だが、オーリンの事もあるし、リリアも行ける状態じゃない。それから如何にも護衛対象みたいな奴までいやがる」

「すまないな、私はどうやっても守ってもらう身にしかならない」


 謝る素振りまで堂々としているロード=セルティ・シアナに呆れながら、横たわるリリアを何とか座らせると低い声で唸って、痛みに耐えながら笑っていた。


「早く行ってください。私は貴方より軽傷ですよ、クレスタ様。こんなボロボロの屯所にロード=セルティ・シアナ様の護衛は私一人で十分です、手遅れになる前に・・・早く行ってください・・!!」

「・・・リリア!・・・ありがとう、必ず、連れて帰るよ」

「当然ですよ、っ、さぁ、早く・・・!」


 痛みで顔を歪めるリリアに後ろ髪を引かれるが、僕はマロンに向かった。


「行こう、まだきっと間に合う!」

「当たり前だ、お前等行くぞ!リリア、恩に切る」

「くっそ、何がなんだかごちゃごちゃだぜ・・・!」

「だね。でもとにかくシーナの所に行くのが先決ってやつさ!」


 それぞれが屯所を出ていく中、ラル君はロード=セルティ・シアナに一礼してその場を後にしようとしていた。だが、それをロード=セルティ・シアナは少しだけ足止めをする。


「ロード=ラル・シアン・・・体も・・・そして心も大きく成長したのだな。それもあの団長のおかげだろうか」


 そう問いかける表情は僕に初めて弟の話をした時と変わらない程優しさが溢れるものだった。


「・・・はい。僕は、シーナから・・・いえ、シーナ団長から多くを教えていただいています。それはまだこれから先も・・・。・・・いつか、団長を超える人になって、陛下のお役に立てる日がくればと思っています」

「・・・そう遠くない未来だと、楽しみにしている。・・・そしてその時は、また・・・兄と呼んでおくれ」


 同じようにこの男も内に秘めた闘志で弟の事を守って来たのだろう。嬉しそうに笑うラル君に、同じ微笑みを返して送り出していた。


「・・・さて、ラル君いこう」

「はい、今いきます!」


 部屋から出る際に、怯えた表情を向けたシーナの悲しい表情がふっと浮かんだ。きっとシーナは僕の事をもう信じてはくれないだろう。嫌いになったかもしれない、拒絶するかもしれない。

 長年積み重ねてきた嘘は守る事を代償に大きくなりすぎてしまっていたのだ。逃げていた僕が、シーナを迎えに行く為に勝手に自分の中で覚悟を決めた。


 彼女に出来る残された事唯一の出来事。

 

 ――――長年続けてきたすれ違いと関係に終止符を打とう――――


 僕の側で笑っていて欲しかった。

 僕の側に居て欲しかった。

 僕にその笑顔を向けていて欲しかった。


 けれど、その願いが君の笑顔の邪魔になってしまう。


 君が、また僕の側ではなくても、僕に向けてではなくても、笑ってくれるのならば。


 僕は、例え自分に置ける悲劇だろうと起こしてみせるよ。










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