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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第三章 懐かしの風
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偽りの言葉






 ロード=セルティ・シアナと手を組んでから、半年程過ぎた。香失草の畑潰しも少しずつではあるが順調に進み、シーナとの関係も互いをパートナーと意識して自分たちも、そして周りからも認めらている実感が湧いてきていた時の事だった。

 潤滑に物事が進んで、人生の中でも最高潮だと思えていたのは僕だけでなくシーナも同じだったらしい。


「シーナ、やけに機嫌がいいね。どうしたの?」


 任務帰りにシーナと歩いていると、会話もしていないのに顔をゆるゆると緩ませて笑っているシーナと目があった。嬉しそうなシーナがうつってくる様に、僕も顔を緩ませると更に顔を輝かせてシーナが理由を話してくれた。


「聞いてくれよ、私に力を貸してくれないかってお偉い方に言われたんだ!みろ、女の子女の子言ってると、クレスタの足元もすくうぞ!」


 喜ばしい事だと思いながらも、女の子として着飾ったシーナでも居て欲しいなどと複雑な感情を浮かばせていた僕の心情など知る由もないシーナは変わらない笑顔で輝いていた。その笑顔が見れるだけで僕にとっては喜ばしい事なのだけれど、時間が経てば経つほど、僕の欲は膨らんでしまうようだ。


「そっかぁ、ついにシーナも昇進するのかぁ」


 そうなれば、名前を隠している自分が上に上にと上がれない分、会える事も少なくなるだろうと予測出来た。寂しさまじりで伝えると、シーナにも気持ちが伝わってしまったのかもしれない。

 顔をのぞき込んできたシーナは不思議な顔をして、僕を安心させるように笑ってくれた。


「何言ってんだ、私の相棒はクレスタだろ?それに昇進かどうかもわかんねぇよ。ただ、なんたら家ってところに仕えて欲しいだのなんだのって言ってただけだ」


 自分だけだ、そう言ってくれた言葉に体の熱は一気に上がったけれど、その後の言葉に僕は時が止まった様に固まってしまった。


「・・・なんたら家って、なんだい・・?」


 まさか、軍の上層部からの話ではなかったのか、家が付くのは皇族達だ。つま先から血の気が引いていく寒気を感じながら僕はシーナの肩を揺すって名前を思い出してもらおうと必死だった。


「思い出して、シーナ!なんたら家の、最初の部分だよ、なんて言ってた!?」

「ちょ、揺らすなって、こんなんじゃ思い出せねぇっての、おいっ!」


 シーナの怒鳴り声に、慌てていた気持ちが少しだけ緩んだ。


「ご、ごめん」


 そっと肩から手を離すが、やはり落ち着かない。皇族が絡んでくると思うだけでこんなにも不安が広がってしまう。


(だめだ・・・こうしている間にも・・・!)


「シーナ、ごめん。ちょっと用事を思い出しちゃったから、先に行くよ。じゃあ」


 僕のころころ変わる行動を唖然とした顔で見ていたシーナにそれだけ告げると、僕は全速力でロード家の男が居る部屋に走った。


 大きな音を立ててはいけないと思いながらも、焦る気持ちで扉を叩けば自然と回数も大きさも何時と違うものになってしまっていた。


「・・・はい、なんでしょうか?・・・・?どちら様ですか?」


 出てきたのは世話人だったので、すんなり部屋に入ることが出来なかったもどかしさに焦りが増して、苛立ったような声で名前を告げてしまった。


「・・・・クレスタという人間が訪ねてきたと伝えてくれないか」


 世話人は僕の言葉に怪訝な顔をしたが、少しお待ちくださいと告げると中へと戻っていった。時間を少し置くと扉が再び開いて中に招かれる。そこには会いたかった男、ロード=セルティ・シアナが顔をこちらに向けていた。


「クレスタ軍士か、私もちょうど話がある」


 そう言われて招き入れられ、部屋のなかで椅子に向かい合わせに座ると、待ちきれずに僕は問いただすように声を荒らげてしまった。


「シーナが、シーナが皇族に引き抜かれようとしてるんだ・・・!どこかわからないかい!?ライアやロード以外ならまだ手の打ち用はあるが、ライアなら僕が関わる事を不審に思われるし、ロードには手が出せないっ!」

「・・・落ち着け、とは言い難いが私の話も恐らく同様のものだ。シーナというのは軍唯一の女軍士だろう?・・・まさか、クレスタ軍士の大事な人だとは思わなかった。・・・まずいことになっている」


 自分の慌てように、思い人がわかってしまったなど今はもう重要なことではなかった。それよりも、まずいことになっている、その言葉が僕に緊張を走らせた。


「まずいこと・・・?」

「・・・国王が権力をもった皇族を従えるだけでなく、戦う力を持った人間をも奴隷の様に使えればと考え始めたのだ。・・・ただ、話上、上手くいくはずのない話だった。戦う力のある者を従えるのは難しい。香失草は軍士自身には効かない者がほとんどだ、したがって人質をとる事になるが、権力に従う者達と違って、戦う力のある者からの反乱程怖いものはない。人質とはそれ程の危険性もあるからな。軍の人間には手を出せない、それが今までだったのだが・・・例外が一人出来てしまった」


 香失草の効果が男より数倍も効く可能性が高く人質を取る必要もなければ、言いなりの奴隷にすら出来てしまう。そしてなにより、剣の腕も軍の真髄とまで噂される唯一の人物。


「・・・・シーナ」

「そうだ、彼女が今狙われ始めている。だが救いはある、皇族の連中は政や地位にしか価値を見出していない者が多いからか、軍の内部まではあまり知られていない。そして幸いにもまだ彼女は上層部の人間でも、役職をもった人間でもない。まだ手は打てる」


 シーナが狙われているという現実に、僕の中で不安が膨らんでいく。震えそうになる手を握り締めて、目の前の机を思いっきり叩いてしまった。


「どんな手が打てるのか、君は考えてくれるの!?それにシーナにもう声がかかってるんだ!!!君はいつになったら引きずり降してくれる?これじゃあ、なんの為に僕は香失草を燃やしているんだ・・・!」


 国の王を引きずり降ろす事が簡単だとはこれっぽっちも思ってはいない。けれど、シーナに迫る脅威の不安に胸が押しつぶされそうだった。


「・・・すまない。もう少し時間がかかる。あと・・・少しなのだ」


 目の前に居る困った顔をした男が、自分では頑張ることの出来ない方面で力の限りを尽くしているとわかっていても、シーナの事を考えるだけで行き場のない怒りが溜まっていく。震える拳で怒りを発散させようと机にむかってもう一度振り上げた瞬間、扉にノックの音が響いた。

 その音で勢いを失った拳をだらりと重力に任せたまま下げると、ロード=セルティ・シアナの顔が少しだけ安堵の色を見せていた。その表情でわかるほど、戦うことの出来ない人間にとって、戦う事の出来る人間は恐怖の対象でありながら、自分にはない物を持ち合わせる魅力の塊であるのだと知れた。


 ノックの音を聞きつけて扉へ世話人が近付いていくと、扉の先の人物を見て慌ててロード=セルティ・シアナの側へと足を急がせていた。耳打ちをする世話人を見ながら気持ちを落ち着かせようと呼吸を整えていると、和らいでいたロード=セルティ・シアナ表情が一気に鋭くなる。

 急激に変化した表情に思わず声をかけようとするが、理由を訊ねる前に扉から入ってきた人物によってそれは明らかとなった。


「おお、これはこれは、珍しい客人がいるとは思わなんだ。・・・・仕事の話かね?何度か使かった事がある、知っているぞ。ライア家の執行人、ライア=フォード・クレスタだろう?」


 明るい声で入って来た人物は顎と口上に白髪混じりの髭を生やし、煌びやかな服を揺らしながらロード=セルティ・シアナへと優雅に歩を進めた。その時に僕の事を卑しい者を見る様に目を細めて見下してくる事を忘れずに。

 突然の出来事に僕はもちろん、ロード=セルティ・シアナすら何も言えず、歩を緩める事のなく歩いてくるその人物に、僕らは目を丸くして見入ってしまった。


 何度も僕に人殺しを依頼し、人の犠牲と憎しみの上に立つ狂った皇族の男、この国の王の姿がそこにあった。


「まさかロード=セルティ・シアナが親しいとは・・・この執行人は誠に使いやすいのでな、ロード=セルティ・シアナにも紹介しよう思うていたところだったのだが・・・さすがはロード家の男、情報も速く、頼もしいことだ」


 僕とロード=セルティ・シアナは椅子から降りてその場に跪いた。何故この人がここにいるのかはわからない、が入ってきてしまった以上、今からこの場を離れる事は難しいだろう。隣で跪くこの男の頭に何かしら考えがある事を祈るしかない。


「それで、ロード=セルティ・シアナよ。あの者の目星はついたか?なんといったか・・・名前は忘れたが、女で腕の立つ者がいるのだろう?待ちきれずにお前の部屋まで来てしまった」


 女で腕の立つ者、という言葉に心臓が大きく波打つ。この国王の次の標的はシーナに向けられている。


「申し訳ありません、ただいま調べております」

「そうか、残念だ。・・・・だが私は運が良い。ライア=フォード・クレスタ、どうだ?お前は軍に席を置いているだろう、女の軍士はどのように強いのだ?」


 その言葉に、体の中の血が沸騰しそうなほど熱があがった。この国王はシーナを香失草漬けにするつもりなのだろうか。あの笑顔を消してしまうつもりなのだろうか。今までの記憶さえも、奪うつもりなのだろうか。


 そんなこと、させるわけにいかない。


 こみ上げてくる感情が何かはわからないけれど、何も考えられなくなるくらい熱くなる熱の感覚は、怒りに近いだろう。僕は自分の瞳孔がきゅっと開いて拳に力が入るのがわかった。


 (シーナを、渡すものか・・・・!!!)


 僕は一瞬の内に考えて考えて出したシーナを守る方法、それは国王から興味を無くさせる事だと思えた。何を言ってもロード=セルティ・シアナの手筈が整うまでは権力によって何でも行使されてしまう。

 見える不安な未来をかき消す様に、咄嗟に口から出たのは怒鳴り声でもなく、縋る様な泣き声でもなく、不気味に響く、静かな僕の笑い声だった。


「・・・ふふ、ははは。まさか、女軍士をお気に召していらっしゃるとは」


 僕の顔はおそらく笑っては居ない。こんな状況でなんて笑えない、けれどきっとその顔が真実味を増してくれているのかもしれない。


「まぁ、軍にいないとわからない事かもしれませんが・・・まさか皇族の人間が女の手を借りようなどとお考えとは・・・ずいぶんと歴史を重んじる心は軽くなられた様ですね」

「・・・その様な言葉が返ってくるとはな・・・私に物申したいと言うのか?」


 少し声の低くなった国王の腸を今直ぐにでもえぐりだしてやりたい気持ちを押さえて、ゆっくりと口角を上げた。この男を今目の前で斬りつける事が出来るのならば、僕は今までのどんな皇務より胸のうちが爽快になるだろう。


「まさか。ただ、政にも関わらせない女に身を任せるなどの皇族の男らしからぬ発言に驚いたのです。しかも、あのように使えない女軍士をわざわざとおっしゃるのでね」


 使える、使えない。そんなもの見れば一目瞭然だとは思うけれど、自らの目で確かめようとはしない国王には丁度言い言葉だろう。


「・・・女とは、やはりその程度のものなのか」


 思惑通りに国王の関心が逸れていくと、ほっと緊張が僅かにほぐれた。けれど、王の心無い言葉に僕の体はまたしても固くしてしまう。


「期待していた分裏切られた気分だな・・・・不快だ。使えぬ士など軍から外しておけば良いのではないか?ふむ、それが良い」


 息が詰まって、あれ程悠長に言えた嘘の言葉も返せなかった。シーナが認められたくて頑張っている姿を知らない人間が簡単に言っても良い言葉などではない。軍から外すことがシーナにとってどれ程重要なのか、国王にはわからないと知れても許せなかった。

 気がつくと右手が自然に剣の柄へと伸びていた。剣の柄と鞘が触れた衝撃で小さな金属音を奏でるが、その音をかき消すようにロード=セルティ・シアナが声を部屋に響かせる。


「なるほど!詳しくお伺いしたい!」


 途端に僕の耳を大きく揺らした声に驚いて、瞬時に意識が戻ると自分の右手の行き先驚き慌てて手を離した。その後ロード=セルティ・シアナと国王は色々と話しながら、部屋を出るように足を動かせいていたが、もう何の言葉も僕の頭には入ってこなかった。


 僕の言葉の所為で、彼女を軍から外してしまうのかもしれない。彼女の居場所がなくなってしまうかもしれない。彼女の努力を踏みにじって、全て水の泡に変えてしまうのかもしれない。


 僕は、なんてことをしてしまったのだろう。


 あれ程怒りに似た感情で熱を持っていた体から、血が全て抜けて行くように僕は目の前を暗くしてしまった。






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