皇族の男:ライア=フォード・クレスタ
この章は前置きに書いてない限り、クレスタ視点でお送りします。
僕の名前はライア=フォード・クレスタ。
ライア家という皇族に生まれ、幼き頃から皇族としての教育を受けさせられた僕が周囲を驚かせる程成長を遂げたのは剣術だった。最初は褒められるのが嬉しくて、親に喜んでもらえるのが嬉しくて、もっともっと頑張らなきゃ、そう・・・思っていた。
けれど、親の喜びは子供の成長ではなかったのだ。
皇族が国を取り仕切っているのは知っていた。いつかは、親の様に僕も国の為に働くんだって希望を持っていたこともあった。勉学よりも剣術が秀でているというのは自分でも認識していたし、子供の年齢だとしても大人にも引けを取らないと信じていた僕は、きっと軍に入って立派に国を支えていくのだと淡い夢を抱いていたのだ。
そんな期待を裏切る様に僕が十二歳になった頃、親は喜びながら僕に皇族としての役割を教えてくれた。
皇族の為に生き、皇族の為に凶器と化す“暗殺者”それが、僕に伝えられた皇族としての役割だった。
身体を鍛える為という名目で僕は身を隠す為に軍には所属する事になった。名前をクレスタ、と省略されたのは暗殺という行為を行い続けた末路がライア家にたどり着かない様に。いつでも、名前が消せてしまう様に。
僕は実質、ライア家に捨てられた・・・といっても違わないのだろう。それでも、僕が暗殺を円滑に行えば行うほどライア家の地位は上がり、逆らってはいけない権力の象徴になる。
人を殺していく僕を親はまた役割を教えてくれた時の様に喜んでくれるのだろうか。
僕は親に喜んで欲しい?僕は人を殺して幸せを奪って、笑って欲しい?
僕は・・・
*
「ライア=フォード・クレスタ様、ただいま向かっている場所でございますが、」
がたごと、と小さな衝撃を起こしながら馬に引きずられて車が動いていく。屋根つきの馬車に乗った僕、そして付き人が向かいに座りこの揺れる馬車が何処に向かっているかを口にしようとするが、布で遮っていた窓を少しだけ開いて外を見ながら僕は付き人の言葉を止めた。
「知っているよ。向かう先は内乱で荒れた小さな町、名前はなんだったかな・・・忘れちゃったけど、王都からは随分と離れた西にあり、移動に半日はかかる」
顔も見ずにつげた僕は生意気な子供だろう。十六歳の子供が、こんな偉そうな口調で言われてこの付き人もよく耐えられるものだ。
「僕がやるべき事は監査。焼けた町を耕して“植えている物”の機密が漏れない様に、人数確認と行動、言動確認」
皇族の機密。それは内乱で燃えた地を更地に戻しおぞましい“香失草”の花畑を作ること。
(暗殺者に抜擢された時も思っていたが、あのおぞましい草を増殖させるなんて皇族の連中は何を考えてるんだろう・・・自分の私欲の為に国を破滅させるつもりだろうか?)
「はい、そのようにお伺いしております」
丁寧な相槌を返してきた付き人の言葉など気にせず、僕はそのまま窓の外を見続けた。皇族の連中は狂ってる、と言ってもそれに従って狂った道を進んでいる僕も十分おかしいのだとわかってはいた。
(そもそも香失草・・・あんなもの、医学者が見つけなければよかったものを)
存在自体は大分古くから記してあった様だが、その効力に皇族が取り付かれたのはここ数年だ。人、特に女性を奴隷の様に扱い、虚栄感、背徳感、優越感、様々な感情に浸り、自身を満たす。今のロード家の長がこの国の王となってから、本格的になってきた香失草の栽培に危機感を感じている皇族の人間も少なくないのだろう。
(内乱を起こさせ、開いた地は栽培地・・・上手く考えているというか人間としては終わっているというか)
道徳心は皆無だな、と思いながらそれは従っている自分も同じことだとわかり、同じ人種だと思うと少しだけ気持ち悪くなった。
「ライア=フォード・クレスタ様?顔色が悪いようですが、馬車を止めましょうか」
片手で顔を被って視界を遮った僕を心配した付き人が声をかけてくるが、考える事をしたくない僕は早く現場について身体を動かしたかった。
「いい、目的地に早く向かって。あと・・・君さ、知らないのかもしれないけれど僕はクレスタだ。皇族の仕事だからといってライアを使うのはやめてくれないか、どこから漏れるかなんてわからないだろう?様を付けるのもやめてくれ」
「も、申し訳ありません」
(・・・余計なことを考えてしまうから、皇族の仕事は嫌なんだ・・・軍で空気でも斬ってる方がよっぽどいい)
僕は付き人の返事など聞かず、身体を休めるという名目で瞼を降ろし、ゆっくりと馬車の揺れを感じながら意識を遠くへ飛ばしていった。




